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  作者: ひじきとコロッケ
プロローグ、と言うか、転生
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街へ行こう

「一体何が入ってるんだ?」


 あまりの荷物の重さに、思わず尻餅をついてしまった。一応確認してみるか、と袋の口を縛るひもを解く。さて……


 一番上にあったのが大学ノートくらいの大きさの冊子。この世界についてのガイドとか言う奴か。表紙を見ると『異世界生活のしおり』と書いてある。下手くそなウサギのようなイラスト付きで。


「修学旅行かよ!」


 地面に叩き付けた。


 それでも一応開いてみるとこの世界の簡単な地図と、近くの街について書かれている。あとは社会構造や生活習慣のようなものが書いてある。これはしっかり読む必要があるか……表紙はアレだが。


 パラパラめくると……お、貨幣について書いてある。銅貨・銀貨・金貨があって、それぞれ大中小あるのか。貨幣単位はギル。小銅貨一枚が1ギル。小銅貨十枚が中銅貨一枚、大銅貨十枚が小銀貨一枚、と十枚ごとに一つ上のランクになる。あとは……色々書いてあるな。後に回そう。


「そしてこれがお金、かな?」


 見た目よりもずしりと重く、チャリチャリと金属の音がする革袋。開けてみよう。


 小銅貨八枚、中銅貨一枚、大銅貨一枚、小銀貨八枚、中銀貨一枚、大銀貨一枚そして折りたたんだ紙が一枚。紙を開いてみる。


『大きさの違いがわかるようにそれぞれ入れておいたよ』


 うんうん、それはいいアイデアだね(棒読み)。さらに続きがある。金貨のイラストだ。ご丁寧に『みほん』と赤字で書かれている。


『金貨は予算オーバーだったのでイラストで我慢してね』と、ウサギのイラストの吹き出しが。


 無言で破いた。


 そして、短剣。ベルト付きの鞘に収められている。試しに抜いてみると刃渡り五十センチほどの両刃。よく磨かれているようで日の光を反射して輝いている。刃物の目利きなど出来ないが、多分結構いい物だな、と少しだけ神を見直した。軽く振ってみると、重心の位置が程良く、剣の重さに振り回されずに使えそうだ。


「で、魔法のガイドブックか」


 広辞苑くらいの大きさと厚さのハードカバー。袋が重い原因はコイツか。

 表紙に『初めてでもよくわかる魔法大全』と書かれている。表紙のウサギのようなイラストは何とかならないのか。試しにめくってみると、魔法についての基礎が色々書かれている。細かい字でびっしりと。


「とてもじゃないが、街に着くまでに読む量じゃないだろ」


 後に回そう。それから紙袋。開けてみるとパンと干し肉とリンゴが入っていた。折りたたんだ紙も。一応紙を開いてみる。


 『お腹がすいたら食べてね』と、これもウサギのイラストの吹き出しが。いい加減にしろ。


 さらに下には服が入っていた。今着ているような服と下着が一緒に三着入っている。これはありがたいな。その下は毛布。これもありがたい。その下は大きな革の袋だ。取り出してみ……


「重っ」


 袋の端に筒がついている。先端には蓋が。ついでに折りたたんだ紙も。


『水が変わるとお腹を壊すって聞いたので』


もちろんウサギのイラストの吹き出し付きだ。


「水かよ!」


 しかも二十リットル以上ありそうだ。重い原因はこいつだった!


 最後に袋の底から取り出したのは……枕?……俺の?紙がついていたので読む。


『枕が変わると眠れないタイプかも、と思って持ってきておいたよ』


言うまでも無いが、ウサギのイラストの吹き出し付きだ。


「余計なお世話だよ!」


 水の入った革袋は水漏れしていないところを見ると質はいいらしいので、中の水を八割捨ててから持って行くことにした。枕も捨てようと思ったが、奇麗な森にゴミを捨てるのもどうかと思ったのでやめた。後で捨てるけど。

 重い物を下にする、というような入れ方で運びやすくして肩から背負い、短剣を腰に下げ、ガイドブックを手に歩き始めた。


 歩き始めること一時間くらい……体感で。すぐに街道に出ると言ってた気がするが全然そんな様子がない。方角は……あってるな。ガイドブックを持ったままだと歩きづらいので袋にしまう。

 さらに一時間程。休憩を取ることにする。森の中は意外に歩きづらい。道があるわけではないから木の根とかを乗り越えるのが結構大変だ。体が子供サイズだから余計にそう感じるのだろう。

 休憩のあとさらに一時間ほど歩いた。街道はまだ見えない。太陽はほぼ真上に来たようだ。腹が減ったので、休憩にしてパンを食べる。ちょっと堅いが噛み締めると小麦の香りとうま味を感じる。干し肉と一緒に食べるといい感じ。食べ終えたらリンゴ。ちょっと酸味が強いが、さっぱりと爽やかな味だ。


「なかなかうまかったな」


 最後に水を含み、すぐに吹き出す。


「カルキくせえ」


 水道水か。しかも多分……会社のビルの奴だ。

 さらに歩くこと一時間。ようやく道らしき物が見えた。あの神の言う「すぐ」ってのはこんなに長いのか。


「ここからさらに半日……信用できねえ」


 石畳で整備されてると言うわけではないが、馬車もよく通るらしく、しっかり踏み固められているので歩きやすい。ガイドブックを出してパラパラと読みながら歩いて行く。


 今いるところは、単に『大陸』と呼ばれている。海に囲まれているが、海の向こうについては知られていない。これまでに何人も海の向こうへ挑んだが、途中で断念して戻ってきた者が三割、残りは帰ってこなかった。そんなレベルらしい。大陸の広さは描かれてる地図が簡素すぎてわからないが、ユーラシア大陸ぐらいあるのだろうか。

 そして、大陸の海岸から平均して二十キロくらいの平野部が人間が住めるところ。そこから今まで目印にしていたような山……山脈がぐるりと大陸をまわっている。この大陸は、巨大なカルデラ地形のようになっているというわけだ。そして山脈の内側はすべて「魔の森」と呼ばれる魔物の住み処で、内陸に行くほど魔物が増え、大陸の中央まで行った者はいないと言う危険地帯だ。

 だが、魔の森の魔物や植物、鉱物などは、食料や薬、道具、武器と様々な利用方法があり、危険を承知で集めてくるのが冒険者。一般的な農耕や牧畜、漁業なども当然あるが、魔の森へ行く冒険者も立派に社会産業として成立しているという。


「魔物の素材、とかマジでテンプレだな」


 ちなみに、大陸のほとんどの街が、魔の森の玄関口になっている。山脈が途切れているところに丈夫な壁を建てて魔物の侵入を防ぎ、冒険者ギルドや、魔物の素材を扱う店が集まり、街を形成しているのだ。

 今いる場所はラウアール王国。これから行く街はラウアールでは中規模の街、ヘルメス。人口約一万人で、周囲に徒歩で半日~一日ほどの距離に村がいくつかあり、農業が盛ん。冒険者ギルドもちゃんとあるし、武器や防具の店もあるようだ。


 大陸には人間以外にも獣人、エルフやドワーフと言った亜人がいる。獣人は、ほとんど人間と変わらない外見の者から、二足歩行する動物レベルまで様々。だいたいの場合、人間よりも身体能力が優れているが、魔法は苦手な者が多いらしい。ちなみに「亜人」という呼び方はしない方がいいらしい。


「エルフとか会ってみたいな、と言うか会うべきだろ。あと獣人……ウサ耳とかいるのかね」


 欲望に忠実な俺である。

 が、ラウアールの国民は人間が九割以上だそうだ。ちょっと残念。いや、俺は「運はいい」らしいからもしかして……妄想が止まらなくなりそうなのでやめた。


 しばらく歩いていると後ろから馬車がやって来た。樽やデカい麻袋とかの荷物を大量に載せていて、手綱を握るのは小太りの男。荷台には顔立ちの似た若い男が乗っている。

 馬を実際に見るのは初めてで、思わず見とれてしまった。馬って結構でかいな、と思っていたら手綱が軽く引かれ、馬が立ち止まる。


「坊主、こんなところでどうした?」


 御者台の男が表情はにこやかだが心配そうに聞いてくる。そりゃそうか、こんな所に子供が一人なんて、疑問に思うよな。


「ヘルメスに行こうと思って」

「そうか」

「今からじゃ日が暮れちまうぞ」


 荷台から男が下りてきて言う。


「よかったら乗ってくか?」

「いいんですか?」

「もちろん」

「かまわんよ」


 お言葉に甘えることにしよう。


「なぜ一人で?」「街まで何を?」


 馬車に揺られながら、あれこれ聞かれたので、言い訳文例集の中で一番無難な物を採用した。


「住んでた村が二年ほど前に、魔物に襲われて全滅しちゃったんです。それから隣村の親戚にお世話になっていたんだけど、十三歳になったから冒険者になって、魔物をやっつけようと思って」


「そうか、そりゃ大変だったね」


 この二人、ライアンさんとボリスさんは親子で、ヘルメスの南にある村に住んでおり、月に一度、村で作ったいろいろな物を馬車でヘルメスに持ってきて売っているそうだ。荷物は、森に住む動物――魔物ではない、普通の動物――の肉や皮の加工品、小麦や豆類、ワインなんかも積んでいる。

 この街道は比較的平和で、盗賊が出たなんて話は十年以上無いらしいが、それでも、俺を拾うかどうか迷ったようだ。だが、長年の商売の勘が、悪人ではないと判断したので声をかけたのだという。これが「運の良さ」か?


 参考までに、一番ひどいと思った言い訳文例がこれ。


「俺、実はヘルメスの領主が若い頃に遊んで出来た、いわゆる隠し子って奴でさ。俺のことを実子だと認めさせようと思って街に行くんだ」


 うん、街には入れるが、そのあと牢屋と言う名の個室にご招待だね。


 ヘルメスがどんな街か教えてもらいながら馬車は進んでいく。空が紅く染まる頃、街に入る門が見えてきた。馬車や人が並んでいる。入り口に衛兵が詰めていて、街に入る者をチェックしているようだ。


「すまないが、ここまでだ」

「いえ、とても助かりました。ありがとう」


 通行証のある二人、何一つ身分を示すものを持っていない俺。一緒にいると何かと面倒なので馬車を降り、馬車の後ろに並ぶ。それにしても、『街まで徒歩で半日』どころじゃない距離だった気がするんだが……気のせいじゃないよな。


 しばらくするとリョータの番になる。


「通行証も身分証も無し、か」

「はい、実は……」


 言い訳文例、実際にそう言う村は結構あるらしく、衛兵はうんうん、と話を聞いた後、一枚の紙を差し出す。


「字は書けるか?ここに名前、こっちには年齢を書いて」


 言われるままに書いていく。名前…リョータ、年齢は十三、と。


「あとは通行料、千ギル、小銀貨一枚なんだが、出せるか?」

「はい、頑張って貯めました」


 高いのか安いのかわからないが、ここは素直に出しておく。

 念のために聞いておくと、冒険者ギルドに登録して、いくつかの条件を満たすと、通行料はかからないらしい。


「冒険者を目指すんだよな。頑張れよ」


 ポン、と背中を叩いて街の中へ迎え入れてくれた。


「ありがとうございました。頑張ります!」


 そう言ってリョータはヘルメスの街に入っていった。

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