王都について依頼完了?
「ゴメンね、リョータ。ゴメンね」
「いや、いいって……うん」
馬の体力を見ながらと言う条件付きでありながらも、結構飛ばした結果、最初の街を越えるどころか二番目の街までの中間点辺りまで進んでしまった……のだが、馬はともかく後ろにつかまっていたリョータには結構キツかった。エリスの乗馬姿勢はかなりしっかりしていて、ほとんど体幹が揺れることはない。だからこそ、しがみついてしまったのだが、結果として馬の揺れに合わせて色々と揺れていた。尻尾のモフモフも充分すぎるほどに堪能できたが、その他にも色々と堪能してしまった。が、それを表に出さず耐えるためにおかしな具合に体に力が入ってしまい、無駄に体力を消耗。
一方、今日乗っていた馬が結構足が速く、体力もある馬だったために休憩はほとんど不要と判断出来て調子に乗って走らせ続けられた。結果、エリスがリョータの異変(?)に気付いたのはそろそろ日が落ちるから工房へ移動しようかと言うくらいの時間になってから。結果、こうなったわけである。
翌日、どうにか起きたのはいつもより少し遅い時間だったが、体調に問題はなく、ポーレットの「その調子なら今日中に王都に着けちゃうのでは?」という恐ろしい言葉に見送られながら出発。
今日の馬はそれほど足が速いわけではないため程々にして進めた結果、明日の昼頃には王都に着けるのではという位置まで移動。抑え気味に移動したと言え、前日分まで含めるとブレナクの歴史に残るレベルの移動速度の記録更新である。
「と言うことで、明日の昼頃には王都の見える位置まで移動出来る見込みとなりました」
どうにか顔を出せた夕食の場で三人に告げる。予想をはるかに超えた移動により、今のところ追っ手だとか待ち伏せの様子もないので、明日は工房側は移動の準備。
予定では、王都近くまで移動したら馬車二台を移動させてそのまま王都へ入ることにした。ポーレットによると、馬車移動でも三十分ほどの位置にいい感じの森があるというのでそこから王都まで。それなら襲撃を受ける恐れも少ないどころか、往来もそこそこあるはずで、下手に襲撃すると王都の入り口にいる警備にも気付かれる可能性が高い。
イーリッジの第二王子派貴族たちがブレナクの貴族まで抱き込んでいて警備にも手を回していたらアウトだが、頻繁に行き来出来るような環境でもない事を考えると、恐らく大丈夫。
「と言うことで、王都が見えてきたな」
「はい」
大陸北部最東端の国であると同時に大陸東部最北端の国でもあるブレナクのほぼ中央に位置する王都は交通の要所としても栄えているため、王都が見える程度の位置まで来るとポーレットの言っていたとおり往来も多い。
「この辺なんかどうだ?」
「ん、大丈夫です」
念のため待ち伏せだとか野生動物がいないことを確認しながら森の中へ。
馬車が通れる程度には開けているような感じなので、転移してくる様子が街道から見えない程度に奥まで進み、転移魔法陣を設置する。
「じゃ、迎えに行ってくる」
「私はここで警戒をしていますね」
役割をしっかり理解しているエリスを残して工房へ。
「そろそろかなと思ってました」
「さすがだな」
子供たちを馬車に乗せるだけという状態で待ち構えていたポーレットに飴玉に見せかけたただの石をやり、子供たちに馬車に乗り込んでもらう。
「リョータ!コレ、ただの石じゃないですか!」
「飴をやるなんて言ってないし」
「むー!」
子供たちを乗せた方の馬車は馬が二頭。荷物を積んでいる方は馬一頭だが、荷物の半分くらいはポーレットに背負わせて、馬の横を歩かせるので、どうにか引っ張れそうだ。
「では転移」
先に荷馬車を転移させて、念のための安全確認。よし、問題なし。
荷馬車にもう一頭の馬を繋いでいる間に工房からもう一台の馬車を転移させて馬が落ち着いたところで移動開始だ。
「よし、行けます」
さすがに森の中から馬車が出てくるのは目立ちすぎるので、往来の途切れたタイミングを狙って街道に出ると、あとは王都に向けて馬車を進めるだけ。今日ここまで乗ってきた馬には少し負担が大きいが、何とか頑張ってもらおうと、エリスが横を歩いて馬をなでながら進んでいく。あの様子なら大丈夫そうだな。
王都の入り口の警備は言うまでもなく厳重……でもなく、どこの街でも行われている程度のチェックだけのようだが、さすがに貴族の紋章のついた馬車は目立つ。
「リョータ、警備が騒いでる」
「そりゃそうだな。なんて言ってるか聞こえる?」
「んー、こんなに早く着くなんて、とか、本物かどうか確認を、とか言ってる」
「これまた予想通りだな」
普通に移動したらひと月半はかかるところを十日足らずで来たのだから、偽物を疑うのもおかしくはない。
やがて、検問待ちの行列の向こうからフル装備の警備兵が数名、こちらへやって来た。
「馬車の紋章から、イーリッジのドゥーリフ家とお見受けしましたが、いかがでしょうか?」
「ん、正解。飴をあげよう」
「いりません」
「おいしいのに」
「あ、それなら私が欲しいです」
「ポーレットにはやらん。エリス、コレ」
「はあい」
「そんなっ!」
そりゃ、怪しさという点ではかなり高得点たたき出してる連中から飴あげますなんて言われてもらうようでは警備失格だよな。んで、出した以上はもったいないので、エリスにやったらポーレットが騒ぎ出した。この飴、好きなのかね?
「えーと、話を続けてよろしいか?」
「構いません。というか、俺たちはただの護衛の冒険者なので、詳細はあちらに」
アンヌさんが既に馬車を降りて正式にイーリッジの国王から認めてもらった書簡を見せる。正式な封蝋がされており、この場にいる警備兵ではそれを開くことが許されなかったらしく、慌てて相応の階級の人を呼びに一人が走って行った。
「念のため、馬車の中を確認させていただきたい」
「構いませんよ。こっちは全部荷物です。誰かが潜んでないか調べてもいいですが、あちらの方たちの衣類とかも入っているので、剣を突き刺したりしないでくださいね」
待ち行列から外れたところで馬車を停め、荷馬車の方から中身の点検。問題ないことが確認出来た頃に、ちょっと偉そうな人が到着した。
「デリック殿下とヴェルナ殿下がこの中にいらっしゃると言うことですか?」
「はい」
「確認をさせていただきたい」
アンヌが扉を開くと同時にその両サイドにリョータとエリスが立つ。この状況下でこの偉そうな人が何かをする可能性は低いが、誰を信用して良いのかわからない状況である以上、護衛の仕事はきちんと果たさねばなるまい。
国王が認めた書簡は二通あり、そのうちの一通が王都の警備兵の責任者に宛てたもの。子供たち二人の人相、特徴など、本人であることを証明するためのあれやこれやなどが書かれていたらしく、数個の質問のやりとりで確認が終わった。
「それではこちらへ」
前後を警備兵に護られて先導されながら王都へ入っていくと、これまたフル装備の騎士たちが待ち構えていた。
「ここから先は我々が城まで先導します」
「よろしくお願いします」
アレ?城までって言った?
俺たち的には適当なところで依頼完了のサインをもらって終わりにしたいんだけど……




