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  作者: ひじきとコロッケ
ブレナク
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工房を積極的に使ってみる


「それではこの辺で野営としましょう」

「はい」


 明け方に色々と片付け(・・・)をしたせいもあってあまり距離は稼げなかったが、多少の遅れは織り込み済みの旅程なのでその点には触れず、その日の野営地点を決めて火をおこし、食事の仕度にかかる。リョータとエリスが手分けをして周囲の確認、ポーレットが食事の仕度の手伝い。子供二人?王族の一員としての教育を受けているだけでこう言うときには何の役にも立たないよ。文句を言わないだけマシだろうか。

 食事を終えると子供たちとアンヌは早々に就寝。リョータたちは交代で見張りをして夜を明かす。

 そして翌日、疲れていたせいで起きられず、朝食の仕度に全く関われなかったアンヌの土下座を「気にしなくていいから」と取りなして出発したのだが、昼食の休憩の段階でアンヌが倒れた。


「ま、使用人五人で回す予定だった仕事を一人でこなせばこうなるよな」

「ですね」


 屋敷にいるというのなら一人でもなんとか二人の面倒を見ることも出来たかも知れない。しかし、日中は常に馬車の手綱を握っている上に、常時子供たちにも注意を払わなければならないために気が休まるときがない。もちろんリョータとエリスが交代で馬車の中にいて、二人の相手をしているのだが、それはそれとしてやはり気になるのだろう。さらに、使用人として信頼されていない状況を何としても回復しなければと言う責任感とか使命感もあるのかも知れないが、それで倒れてしまっては元も子もない。


「あ、あの……」

「えっと」


 子供たちもアンヌに対してキツい態度を取ったりはしていないが、一度崩れかけた信頼関係の修復は簡単ではないのは地球も異世界も変わりはない。だから、ギクシャクした感じなのがはた目にもよくわかるレベルで、子供たちも精神的に参りはじめているのは明らか。


「リョータ、あったよ」

「うん。頼む」


 とりあえず三人に必要なのは落ち着くこと。色々と不幸なことが連続したせいで追い詰められているのだからと、リラックス出来る何かがないかと話し合っていたらエリスが「いい香りの紅茶があるみたいですけど」というので探してきてもらった。


「エリス……これ、すっごく高い奴ですよ」

「そうなの?村ではよく飲んでたけど」

「へ?」

「あと、結構森にも生えてるのを見たけど」

「嘘?!」


 ポーレットの見立てではその茶葉は魔の森の結構深いところで採れる高級品らしいのだが、エリスによるとそこらの森にも自生しているらしい。紅茶にするための加工を考えると村で飲んでいたものと、探し出されたそれでは品質に天と地ほどの差があるかもしれないが、それはそれ。同じ種類の木があると言うことをポーレットも知らないと言うことは大陸全土で知られていない可能性もある。


「今度見つけたら教えて!」

「ふえっ?!」

「高く売れるのよ!」

「う、うん」


 美少女二人の妙な漫才はおいといて、リョータが紅茶を入れて子供たちへ。そしてその香りで気がついたのか、アンヌがゆっくりと目を開けた。


「えと……」

「寝ててください」

「でも「寝ててください」

「はい」


 体調を崩した者にメシの仕度をしろなんて鬼畜な事は言わないが、それでも厳しいことは言わなければならない。


「身を以てわかったと思いますが……荒野をこのまま抜けるのは不可能です」

「はい……面目次第もございません」

「では今から戻る、という選択も厳しいでしょう」

「……はい」

「と言うことで、仕方がないので奥の手を使います」

「奥の手?」

「ま、とりあえずそのまま休んでてください。エリス、ポーレット」

「「はい」」

「三人のこと、ちょっと任せた」

「わかりました」


 さて、お仕事にかかりますか。

 さすがに使用人五人中、四人が刺客だったというのは想定を超えていたが、それでもこういう事態はある程度予想していたので、準備は万端。用意していた荷物を手にすると少し離れた位置に転移魔法陣を描く。


「動作確認……よし」


 工房そばの魔法陣に移動を終えると、工房の中へ向かい、用意していた荷物を出して、こんなこともあろうかと工房にしている岩山の横に建てておいた小屋の中へ運び込む。


「受け入れ準備よし、と」


 十分ほどで用意を終えて戻ると、とりあえずアンヌが起きられる程度にはなっており、エリスに支えられながらお茶を飲んでいた。ポーレットはそのそばで一旦広げた荷物を馬車に戻す作業中。何気に子供たちがその手伝いをしているのが微笑ましい。


「どうだ?」

「こっちは何とか」

「よし、行くか」


 リョータの言葉に三人が「え?」と言う視線を向ける。

 広げた荷物を片付けるように指示していたのも不思議だが、この状況でどこへ行くというのか?


「一度に馬車二台は無理だから、ポーレットは少しここで待っててくれ」

「見捨てないでくださいね」

「善処する」

「見捨てられたら泣きますよ!大声で泣きますからね!」


 はいはいとスルーして三人を馬車に乗せるとエリスが操って転移魔法陣の上に。


「馬を移動させたことがないのがちょっと不安だな」

「リョータの魔法なら大丈夫です!」


 その信頼はどこから来るのかわからないが、疑ってかかられるよりマシか。


「行くぞ、転移……っと」


 無事に転移は成功し、馬二頭と馬車丸ごとが工房前に到着。なお、当たり前だが馬たちがかなりうろたえているのでエリスに(なだ)めてもらう。


「三人ともこちらへ」

「はい……え?」

「ここ、どこですか?」

「詳しい話はあとで。とりあえずアンヌさんを中へ」

「あ、はい」


 二人にも手伝ってもらいながら――リョータの体格では成人女性を抱え上げるのは不可能だ――アンヌを小屋の中へ運び込み、ベッドの上に。


「少しここでお待ちください」

「え?」

「とりあえず泣かれると面倒なのでポーレットを迎えに行ってきます」


 とりあえず泣かずに待っていたので、ご褒美に飴玉をやったら……意外にも喜んだ。そこは断れよ。

 ポーレットを連れて工房に戻ると、全員揃って今後についての話し合いだ。


「えっと……そもそもここはどこなのでしょうか?」

「詳細はお話しできません」

「え?」

「出来ません」

「……わかりました」


 ここがどこなのかを知ったら卒倒するか、何をどうしたらこんなことがと詳細を聞きたがるか、あるいは……だろう。状況が状況だけに悪用するとかそう言うことは無いだろうが、多少なりとも知ってしまうとそこから情報が漏れる可能性がある。連れてきているだけでもかなりのリスクではあるが、出来るだけ可能性の芽は摘んでおこう。


「とりあえず言えることは、ここであれば連中も追ってこないと言うことくらいですね」

「安全な場所と言うことであれば、これ以上は何も聞きません」


 襲撃してくる連中がまだやる気があるとしても、リョータたちが一年近くかけて移動した距離だ。簡単にここを特定することはできないだろう。


「それではこの先のことについて」


 ここから先、荒野を抜けるためにリョータたちが移動を担うが、子供たちとアンヌはここで待機。こうなる可能性がゼロでないとして色々と準備していたので、食べるものに困ることはない。そして、エリスかポーレットのいずれかが常に残るので不自由はないはず。

 ただ、移動のために馬は使わせてもらう。と言っても、交代で回すので馬にとっての負担はそれほど無いと思うが。


「よくわかりませんが、よろしくお願いします」

「はい」


 デリックが三人を代表して、礼を言うが、礼を言うのは無事に到着してからにしてくれと答えてから準備にかかる。


「今日はもう移動はしないから馬具の確認と、明日からの荷物の準備くらいだな」

「では食事の支度は私が」

「任せた」

「ま、荷物の準備は私の担当ですよね」


 それぞれが動き出した。

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