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  作者: ひじきとコロッケ
ブレナク
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襲撃作戦を予想しよう

 夜の見張りの順番をリョータ、エリス、ポーレットの順として、二時間ごとに交代と決めたと伝える。そして子供二人と使用人たちが馬車の中で休み始めたところで、リョータたちも焚き火のそばで火の番をしながら夜明けを待つことにする。




「ポーレット、起きて。見張りの交代です」

「んあ……はい。ふう……」


 エリスに揺り起こされてポーレットが起き上がり、エリスと入れ替わりでノロノロと焚き火のそばへ。


「ふわああ……んくっ……ぷは」


 眠そうに欠伸(あくび)をかみ殺して、焚き火のそばに座り、カップにお湯を入れて一口飲み、焚き火に薪を一本放り込むと、ウトウトし始めた。




「よし。行くぞ」


 合図と共に武装した男たちが岩陰から這い出して、そっと様子を窺い、こちらの動きを察知していないようだと判断するとうなずき合って走り出す。夜と言っても月明かりでわずかに見えるし、途中につまずくような障害物が無いルートを調べてあるから全力疾走で突っ込んでいけばいい。


「あの半エルフにはほとんど戦闘能力は無い。一気に叩き潰せ。そのあとは馬車だ。鍵はかかっていない。飛び込んで武器を振り回せばそれで終わりだ」


 これ以上無いくらいにザルな作戦であるが、標的の子供二人の殺害以外は不要の上、色々と下準備も済ませてあるため、護衛についた冒険者以外の障害はない。そしてその冒険者もその下準備(・・・)によってほぼ無力化してある。


「楽な仕事だぜ」




 とか思ってるんだろうな。

 この護衛、リョータたちの最終目標はは護衛対象の子供二人を無事に送り届けること。逆に襲撃者たちは子供たちを殺害すれば達成だ。猶予期間は荒野を抜けてブレナク王都にある二人の祖父母宅に到着するまでの一ヶ月強。

 期間の長さは襲撃側にとってやや有利に働く。どんなに優秀な人間でも一ヶ月以上、四六時中周囲を警戒し続けるというのは心身共にキツい。一方で襲撃側は襲撃の直前まで気付かれないように適当に距離をとっていればいいのだから、ある意味万全の態勢で襲撃ができる。

 と言っても、この荒野を一ヶ月にわたって追跡し続けるというのは、物資運搬という点だけでもかなり厳しい。数日間ならいいが、十日を超えるほど追跡をするなら荷馬車でも用意しなければ食料を背負って歩くだけで疲労困憊してしまうだろう。つまり、いつでも襲撃出来ると言っても、ある程度の戦力、士気を維持しつつ襲撃出来るのはごく限られていて、荒野に入った初日の夜というのは襲撃者側のコンディション的にはベストのタイミング。もちろん、護衛側のコンディションもベストに近い状態であるが、それをひっくり返すための策を講じてあればよい。

 その策の一つ目が襲撃者の人数。護衛の中心はリョータたち三名。使用人たちも最低限の護身術を身につけているが、襲撃者たちは揃いも揃って冒険者崩れ。素行不良故にギルドから除名されたとは言え、荒事を生業としてしばらくメシを食ってた人間と、最低限の護身術では差は歴然。つまり、リョータたち三人を二十名弱という数の暴力で押さえ込んでいる間に数人が子供二人を殺害し、すぐに逃走すればいいという、雑と言えば雑だが、実に理にかなった策である。

 そして策の二つ目が、内通者の存在。多分コレが襲撃者側の作戦の肝。ヘルマンからの手紙に書かれていた内容が全て真実かという裏取りをする余裕は無かったが、もしもそうだとすると、この襲撃というか第一王子一家の暗殺計画というのは実に周到に練られたものだというのがわかる。

 先日の街道での襲撃では第一王子夫妻の暗殺に成功。本来なら子供たちも始末して完了だったのが、リョータたちの介入という不確定要素の発生で半分成功、半分失敗に終わった。だが、それだって、実に入念に準備してきたものだというのが書かれていた。

 あんまりな出来事故に公表されていないのだが、あの襲撃の時、一家の旅程は二日ほど遅れていた。原因は馬車の故障。どんな物でもいつかは壊れるのだから、どんなに馬車を整備していても壊れるときは壊れるからおかしな点は無いとも言える。だが、それがひと月ほど前に新しく作ったばかりの馬車だとしたら少し不自然だ。そして、旅程が遅れた結果、たまたま定期馬車なども近くにいない状態での襲撃。遅れが一日だったとしても、三日だったとしても定期馬車が近くを通りかかるタイミングだったらしいから、偶然にしては少し出来過ぎていないだろうか。

 そして、その時同行していた使用人と屋敷に残っていた使用人の顔ぶれ。ヘルマンは全員を調べきれなかったようだが、少なくとも屋敷に残っていた使用人たちは第二王子派の貴族と何らかのつながりがあると結論づけている一方で、同行して殺された使用人たちはそうした様子が無いどころか第一王子派の貴族とのつながりがあるとしていた。

 第二王子派の貴族とのつながりがある者を使用人として雇い入れるというのもおかしな話ではあるが、第二王子派の貴族の従兄弟の従兄弟の息子の妻の……と言うくらいには遠いらしいから、ちょっと調べた程度ではわからない。しかし、この仕事(・・・・)が成功した暁には、うまいことやってやろうかと持ちかけられたらその気になるかもね、というレベルだとか。貴族って怖い。

 それはさておき、では内通者のまとめ役は誰かというと、使用人の筆頭、執事のトマスだ。そもそもあの時、同行していない時点でかなり不自然だったのだが、何のことは無い、しっかり黒幕の一人だったというわけだ。そして今回同行している使用人はアンヌ以外は全員が第二王子派の息がかかっているのだから実に手が込んでいる。襲撃のどさくさに紛れて自分たちで殺害してもいいという意味でも。

 さて襲撃してくるのは約二十名。これを三名で迎撃するというのは、通常ならかなり難しいが、それでもどうにか迎撃するのではないかとキチンと予想していたようだ。

 冒険者ギルドで少し噂を集めればすぐにわかるのだが、リョータたちの戦闘力は当然ながら異常なレベルとして認識されていて、分析しているようだ。

 エリスの異常なほどの索敵能力と、高速移動は言わずもがな。リョータもドラゴンを倒したとか、シーサーペントを倒したとか、普通ならウソかホントか疑わしいと言われそうな話がポンポン出てくるのだから、警戒しない方がおかしい。

 その一方で、借金を重ねた結果リョータたちと同行しているらしいとされているポーレットは、冒険者歴の長さもあってこれまたよく知られている。荷物持ち以外は能なしだと。

 そんな三人が護衛についている状況でどうやって襲撃するか。

 まず、荒野というのは見晴らしもよく、走る上での障害になるものはほとんど無い。風下からあまり音をさせないように気をつけていけば、エリスが音や臭いで気付く可能性はグッと下がるだろう。そして、リョータが対応出来ない状況を作り上げれば、ホーンラビットにすら手こずるような半端者(ポーレット)など障害にすらならない。

 ではどうやってリョータとエリスを無力化するかと言うと、実に簡単で、あからさまなんだけど気付かれにくい方法を採用したようだ。最後に立ち寄った村で待っていた商人は、確かにトマスに依頼された通りに生鮮食品を持ってきていた。その質は確かな物だし、保存のためとして魔術師を同行させて氷を作っていたのも、特に問題は無い。ドゥーリフ家との付き合いはまだ浅いらしいが、トマスの紹介から始まった付き合いを何としても繋いでいこうと信頼を積み重ねており、注文通りの品(・・・・・・)をキチンと納品している。もちろんその使用目的も理解した上で。

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