ヘルマンの調査結果
うん、意味がよくわからないから詳しく説明して欲しいと思ったら、きちんと説明してくれた。
実のところ、積んでいる食料のうち、生鮮食品と呼べそうな物は三日目ですべて使い切っていて、現在は保存食、つまり固いパンとか干した野菜と肉なんかがメインとなっている。と言っても、朝と晩は村の宿で食べているため昼だけなのだが、この先荒野に入れば三食全てが保存食となる。
だが、彼らの主はまだ幼い。躾がキチンとされていて好き嫌いは無いが、それでも子供に保存食ばかりというのは少々酷だろうという事で、生鮮食品をここで補充して少しでも快適にという配慮をするのだという。そして、そんな話はポーレットも知っていた。
「それは私も聞いた事があります。と言ってもそんな事が出来るのは貴族と一部の裕福な商人くらいですけどね」
「そうなんだ」
そもそも生鮮食品を運ぶのだって、鮮度維持という意味では結構大変で、あのような商人は自分たちお抱えの魔術師に氷を作らせて荷物に一緒に入れるという付加価値をつけて……結構高い金額を要求するのだそうだ。
そんな話をしている間に村に到着する。入り口で待っていた商人によると既に荷馬車を宿に先行させているとの事で、そのまま宿まで向かう。荷物の積み替えだとか支払いはリョータたちは関わらず、二人の子供を部屋に入れると周囲の確認に入る。
「この村は宿が三軒もあって、オマケに並んでるのか」
「それなりに交通の要所ですから」
ここに来るまでの間、村にある宿は一軒で、それなりに警戒もしやすかったが、両隣にも宿があると、隣から飛び移ってくる事も考えなければならないか?
「エリス、どう?」
「ここなら、周囲を確認しやすいです」
「了解」
エリスが警戒する場所を決めたらポーレットは廊下の見張りに。リョータはトマスたちと明日以降の話をするべく階下へ。と言っても、それほど話すことは無く、すぐに戻ってきた。
「とりあえず予定の変更はない。明日、支度を終えたら荒野越えだってさ」
「はい。ちょっと楽しみです」
「エリス……さすがに馬車を全力疾走はさせないからな?」
「あ……はい」
「むしろ、今までよりも速度は落ちると思います」
「そうなのか?」
「ここまでに比べると、道は荒れてますから」
ポーレット曰く、馬車で半日も行くと、森も無くなり、荒れ果てた岩だらけの荒野になる。一応、行き来する道はあるが、行き交う者はそれほど多くないために道は荒れていて、馬車はかなり揺れるという。
「と言っても、あの馬車はかなりいい物ですから、そんなに揺れないと思います。速度は出ないですが」
「なるほどね……速度が落ちるという事は襲われやすいかな」
「襲ってくるつもりなら、そうするでしょうね。ですが、荒野で待つというのも結構大変でしょうから、襲うなら今夜じゃないですか?」
「だよな」
警戒しているとは言え、この宿の両隣の宿から屋根伝いに来られたら対応は中々面倒だ。せめて並んだ宿の端っこならよかったのだが、ちょうど定期馬車が到着したばかりでこれだけの人数がまとめて泊まれる空きが無いというのだから仕方ない。
「エリス、大変だろうけど」
「うん。頑張るよ」
「無理はしなくていいからな」
立場的に奴隷ではあるが、そういうつもりで接していないし、前世のブラック企業をここで再現するつもりも無い。
「じゃあ、とりあえず夜の見張りだけど」
「リョータ」
「ん?」
「誰か来た……みたい?」
「へ?」
「えっと……リョータに話があるから来てくれって声が」
「誰?」
「アードって名乗ってる」
「えっと……あ、王都にいた」
「もう二人も一緒にいるって」
来てくれってどういうことだろうか?
「ポーレット、あの三人って信用出来るか?」
「多分大丈夫です。Aランクって、そんなに安いものではないですし」
「わかった。エリスはここで引き続き警戒を。ポーレットは一緒に」
「「はい」」
ちょっと村の周囲を見てきますとトマスに断りを入れて宿を出ると、エリスに言われた声のした場所まで向かう。
「うわ、マジで来たよ」
「あの子、どんな耳してるの?」
「そう言われても答えようが無いというか」
三人は、「少し離れた位置からでも聞こえるから」と聞いていて試しに呼んでみたらリョータが来たという事実に驚きを隠せない。大声で呼んだのならともかく、村の入り口近く、宿から相当に離れた位置で、普通に会話する程度の声の大きさで聞こえたというのは「獣人だから」で説明がつくようなものではない。
「まあ、そういうものだと言うことで納得してもらうしかないです」
「うん、まあ、そうするよ」
「で、用件は何ですか?」
「これを。できれば読んだあとに捨てた方がいいと言われてる」
渡されたのはヘルマンの名が書かれ、封をされた手紙。
「ヘルマンが色々調べた結果、リョータに伝えるべきと判断したことを書いたってさ。言っておくが俺たちも内容は知らない。ヘルマンが俺たちは知るべきでないが、リョータたちは知るべきだと判断した内容だ」
「なるほど」
「なあ、リョータ」
「はい?」
「お前、ヘルマンに何をしたんだ?」
「何をって?」
「ヘルマンは……まあ、良いか悪いかで言えば善人。でも、普通のレベルだぞ。困っている奴が目の前にいれば助けるが、見返りはそれなりに期待するし、悪人相手には容赦しないが、正義の味方気取りってわけでもない」
「それにちょっと頑固者ね」
「だな。何だかんだ付き合いの長い連中はお友達価格で色々してくれたりもするが、今回は結構ヤバい橋を渡っているみたいでさ。お前らがヘルマンに何をしたらこうなったのかって、ちょっと気になるんだよ」
言えないよな。ドラゴンの血をあげましたなんて。と言うことでちょっと誤魔化すか。
「俺とエリスは大陸の西の方から来たんですが、そっちの方の珍しい酒を少々」
「酒かあ」
「さすがに西の方の酒は簡単には手に入らないな」
酒というか血だけどな。
「ま、とりあえず俺たちはこれで。手紙しっかり読んでくれよ」
「あ、はい」
「っと、それとヘルマンから一個だけ伝言」
「「気をつけろ」だってさ。まあ、第二王子絡みだろうし、今更言われるまでも無いだろうけど」
「いえ。改めて気を引き締めますよ」
「そっか。じゃ、俺たちはこれで」
じゃ、と手を振り去って行く三人を見送る。
「あの三人……どうせなら村に泊まっていけばいいのに」
「ですよね。で、その手紙の内容は?」
「読んだらすぐ捨てろって事は、ここで読んだ方が良さそうだな」
封を切るとびっしり書かれたここ数日間の調査の詳細。
「大分裏取りをしたみたいですね」
「だな……そして、この結論はマズいな」
「どうします?」
「こんなモン気軽に口にできるかっての。とりあえず燃やす。んで、宿でエリスと情報共有。少し対策を考える」
手紙の内容は実に厄介なものだったのだが、予想に反して、いや実によい事なのだが、特に何事も無く朝を迎えた。村で何かを仕掛けるつもりはないだろうと手紙に書かれていたが、その通りになったか。
それでも馬車に何か仕掛けられていないか、念のためのチェックもしたが異常は無し。馬はやる気十分なようだが、気負いすぎずに平常心を保って欲しい。どうやって馬に伝えればいいのかわからないけど。
宿の主人一家と村長他数名に見送られながら馬車が走り出す。貴族の馬車だと宿の対応も違うのだね。反対方向に向かう定期馬車なんて、見送りゼロっぽいぞ。




