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  作者: ひじきとコロッケ
ヘルメス
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ドラゴン討伐戦前夜

「とりあえず、核心だけ先に話す。Dダンジョンにドラゴンが見つかった」


 ガイアスの言葉に集まっていた冒険者達がざわつく。


「あー、続けるぞ」


 シンと静かになる。


「一ヶ月ほど前、Dダンジョンに(つな)がる小川沿いにトカゲがあふれていたことは知ってる者も多いと思う。なんとか片付けたが、二週間程でまたあふれてきたことも知ってる者もいるだろう」


 冒険者達が「ああ、知ってる」「俺も参加したからな」と反応している。


「さすがにおかしいと言うことでDダンジョンの調査を行った結果、三層の壁が一部崩れていて、その中にドラゴンが封印されていたのが見つかった」


 一同が静まりかえる。


「あ、あの……」


 リョータはおずおずと手を上げる。


「何だ?」

「三層って……」

「ああ、リョータは行ったことが無いからわからないか。三層くらいまでは、リョータでも五人程度のパーティを組めば行ける場所だ。Dダンジョンにちょっとだけ行くと言った場合、だいたい三層から四層に行くことを指す、そんな程度の比較的難易度の低い場所だな」


 ガイアスの補足に周りの冒険者もうなずいている。


「つまり、Eランクでも行けるような場所にドラゴンがいたと言うことですか」

「そう言うことになる。異常事態というか、緊急事態だ」


 一同が静まりかえる。


「あの、封印されていたってのは?」


 一人の冒険者が尋ねる。


「詳細を確認できたわけじゃ無いが、魔力で作られた(おり)の中に閉じ込められていたようだ。だが、少しだけだがひびが入っていてな。そのせいで封印を丸ごと覆い隠していた岩の壁が一部崩れたようだ」

「封印をしている檻にヒビ?」

「そして、その隙間から漏れ出した濃密すぎる魔力。それに恐れをなしたトカゲが一斉に逃げ出したというのが真相らしい」

「支部長、その封印はどのくらい保つんだ?」

「正確なところはわからんが、確認に行った魔術師によると、あと三日保つかどうか、といった感じらしい」


 冒険者達が再びざわつき出す。


「一応、王都には連絡を入れてあるが、Sランク冒険者がいたとしても着くまでには一週間はかかる。間に合わないという前提で対応を進める」


 ドラゴンを相手にする場合、Sランクの冒険者がいるのといないのとでは天と地ほどの差があると言われている。そして、現在ヘルメスにはSランク冒険者は滞在していないため、Aランクのパーティ三組をそれぞれ独立したチームとして、既に魔の森に待機させている。そして他の冒険者達はAランク達のサポートとして、物資・食糧の補給などのサポートに回る。そしてサポート要員はランク不問。参加は自由だが、今回の騒動が落ち着くまでの間は魔の森は立ち入り禁止になるので、注意するように。そう締めくくって説明は終わった。

 説明を終え、ぞろぞろと出ていく冒険者達。まだ説明を聞いていない他の冒険者と入れ替わりになるので、リョータも一旦受付の近くまで下がる。


「ドラゴンか……」


 魔道書にも記載があって、夢中になって読んだ。

 およそ魔の森やダンジョンで会う中で最強クラスの魔物。生まれてすぐは馬と同じくらいの大きさのトカゲと言った感じだが、成長するにつれどんどん大きくなっていき、スモール・ラージ・ヒュージ・エルダー……と呼び名が変わっていく。魔道書が書かれた時点でもそうだったのだが、現時点で何とか討伐できたのがエルダーと呼ばれるサイズで、それ以上のサイズは目撃情報がわずかにある程度で、呼び名は特にない。今回見つかったドラゴンはヒュージドラゴン。このサイズになると危険度は非常に高く、対応を誤った結果、街が消滅したという話はいくつもある。


「リョータさん」

「ん?」


 振り向くとケイトが手招きしているので、カウンターへ向かう。


「今回の緊急クエスト、どうしますか?参加されますか?」

「えーと……」

「チームの編成をする関係で、早めに参加するかどうか決めていただきたいんです」

「なるほど」


 既にAランクが待機していると言うことはサポート組も急ぐ必要があるというわけか。


「参加します。いい経験になると思うので」

「わかりました。ではこれに記入を」


『ドラゴン討伐参加申請』という紙を渡される。アレか、負傷してもその責は云々(うんぬん)と言う奴かと思ったら、そう言うことは書かれていない。名前とランク、そして討伐後に欲しいドラゴンの素材を記入するようになっていた。


「欲しい素材?」

「ええ。まあ、一番活躍した人から順番にと言うことになりますが、肉とか鱗なんかは多少もらえるかも知れませんよ。書くだけならタダですから」


 とりあえず、爪・牙・鱗・肉・骨・血・目玉と書いておいた。書くだけならタダ。もらえる可能性がある物は全部書いておこう。


「じゃ、これで」

「はい。ちょっと待ってくださいね」


 そう言ってケイトは紙に何かを書き込むと、番号の書かれた木の札をリョータに渡す。


「これを持って門まで行ってください。職員に渡したら、あとの指示はそこで」

「すぐに行った方が?」

「いえ、準備をしてからでいいですよ」


 ろくに武装していないリョータを見ながら苦笑する。


「わかりました。ではちょっと準備してから行きますね」

「ええ、気をつけてくださいね」


 二階に上がり、いつもの部屋に。背中のバッグを降ろすと、工房に行くには不要だから着けていなかった革鎧の手足部分を取り出して着けていく。


 それから、短剣(ラビットソード)を用意。あのヤバい魔剣は工房に置きっぱなしだ。さすがにアレを気軽に振り回す勇気は無いので。だが、短剣か……ドラゴンのすぐ近くまで行かないと意味が無いな。

 そして、魔法陣を描いた木の札。いろいろな魔法を込めたものを用意してあるが、遠くに魔法を撃ち出すような物ではないので、どうやって使おうか。


 まあ、ドラゴンの相手はAランクパーティがするので、討伐が終わってからドラゴンの死体を見るだけだと思う。うん、絶対そうだ。だから、こんな用意は必要ないはずだ。フラグじゃ無いぞ。


 ギルドを出て門まで行くと、大勢の冒険者でごった返していた。とりあえずギルド職員を探し、参加する事を告げながら木札を渡すと、すぐに一緒に行動する冒険者達の所へ案内された。あとはそのグループのリーダーの指示に従って動くらしい。


「何だ、リョータじゃん」

「お、お前も参加か。まあ頑張ろうぜ」


 当然だが、リョータは久々の新人なので有名人である。


「お、俺たちの所にリョータが来たのか」


 ギルド職員と話をしていた一人がやって来て、リョータの肩をポンポン叩く。


「これで全員だな。顔を見たことあるけど名前は知らない奴もいるからな。簡単に自己紹介しておこうか」


 と言った男は、デニスと言い、両手剣使い。このパーティのリーダーに任命されている。リーダーと言っても、経験年数の長さで選ばれただけで、ギルドとの連絡をとりまとめるだけの役割でしか無い。

 盾と槍を持った男はニール。弓と短剣を持っているのがウッズ。杖を携えた魔法使いがベック。そしてリョータ。この五人が今回のパーティとして魔の森へ色々と補給物資を持って所定の位置で待機することになる。

 ちなみに四人全員がCランク。それぞれ固定のパーティがあるのだが、人数割り振りの関係でCランク以下のパーティは基本的にバラバラにされるため、互いに何となく面識があるという程度の仲である。


「じゃ、行くぞ。俺たちの待機場所は、三本道の真ん中。歩いて三時間くらいの位置だ」


 言いながらデニスが五つのバッグに分けた荷物をそれぞれに手渡す。リョータの荷物がやや多いが、道中の魔物の相手をベテラン勢がすることを考えると妥当な分配だろう。


「デニスさん、教えて欲しいことが」

「何だ?」

「今回のドラゴン討伐って、王国の騎士団とかは呼ばれないんですか?」

「一応、ヘルメスにいる騎士隊……衛兵にも連絡は行っているが、戦力としては期待できないな。連中は街の治安維持が主だから、魔の森での戦闘は苦手なんだ」

「さすがに、ドラゴンがヘルメスまで来たときには戦うことになるが、住民の避難誘導を優先する。戦力の主体は冒険者だ」


 ニールは一番上の兄が騎士団所属らしく、その辺の事情も詳しいようだ。


「王都のSランク冒険者が間に合えばいいんですけどね」

「無理だろ。多分この時期はダンジョンに入ってるだろうから」


 ウッズとベックはSランク冒険者のことを知っているのだろうか?


「一度だけだが、Sランクの戦闘を見たことがある。なんて言うか、次元の違う何かを見せられた、って感じだったよ」

「あー、わかるわかる。こう……非常識な何かが暴れ回るというか、そんな感じ」

「言えてる」

「すごい人なんですね」

「いろいろな意味ですごいぞ」

「いろいろ?」

「王都のギルドマスターに三回プロポーズしたって話だ」

「ウッズ、その情報は古い。先月もプロポーズしてる。通算五回だ」

「マジか……で、当然ながら」

「撃沈。周りで聞いてた男達が、自分だったら心が折れて三日は寝込みそうな程罵倒されてたらしいぞ」

「うわー」

「その上、恍惚の表情を浮かべて、また日を改める、って去って行ったらしい」

「どMか!」

「……Sランク冒険者ってすごい実力があるんですよね?」

「ああ、そうだな。高難易度の依頼も軽くこなすから、財産もすごいぞ。確かでかい屋敷を持ってたはず」

「そんな人からのプロポーズを断る……ギルドマスターって何者なんですか?」

「それは……いつか自分の目で確かめろ。ギルドマスターもギルドマスターですごい人だから」

「わかりました」


 SランクはAランクで実績を積むだけで無く、何か(・・)が無いとなれないと聞いているが、そう言う人は、普通の人と違うところがあると言うことか。


「お前ら、そろそろ警戒しろよ」

「おう」

「わかったぜ」


 全員、冒険者としては中堅どころのベテランばかりだが、魔の森も深くなるとホーンラビットといえど、群れで襲いかかってくる。慢心ダメ、絶対。

そろそろ主人公無双っぽいことが始まります

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