人を探し出す才能
「こんな条件にあう冒険者……うーん、中々思い当たらないなあ……困ったなあ」
いかにも「難しい条件で悩ましいな」というアピールをしつつ、こちらにチラチラと視線を送ってくるのが何ともわざとらしい。
と言うか、条件がピンポイント過ぎて他に該当なんていないだろう。
仕方ない、とため息を一つついてから答える。
「わかりました」
あちら側のホッとした空気はともかく、ウォルトンのしてやったりという顔は癪に障るのであとで何らかの仕返しをしておこう。
「それでは!」
「受けます。どうせ僕らもあの荒野を越えていくつもりでしたから」
「あ、ありがとうござます!」
「ただし」
「何でしょうか」
「もう少し詳細を聞かせてください。あと、こちらからも条件を出します」
何でもかんでもハイわかりましたと受けるとは言っていない。あちらの提示した内容をもう少し吟味しつつ、こちらも譲歩できない部分があるという事を見せておこう。
ウォルトンが胃を押さえて顔色を悪くするような交渉の結果はこうなった。
まず、出発は十日後。これは出発準備にかかる期間としてリョータが絶対譲れないとしていたが意外にあっさり通った。あちらも物資の手配や、王宮への連絡などで時間を要するらしい。また、街を出るまでの間の護衛はしない。街を出て以降、ブレナクの王都に着くまでの間が護衛期間となるが、これもイーリッジの王都での襲撃までは面倒見切れないというリョータの要求が通った……わけでもなく、あちらもそのつもりだったと言うことで双方納得の内容だ。また、その間、リョータたちは街の外へ出ることもあるが、期日までに戻ってくることを確約して了承してもらった。
そして、旅の間の物資の用意はドゥーリフ家が全て手配する。ただし、リョータたちが独自に必要になる物があるなら、それはリョータたちが用意する。なお、食糧に関しては保存食がメインとなるが多めに持っていく予定としている。これも問題はない。と言うか、ドゥーリフ家自体が何度も荒野を往復した経験があるので、荒野を通るルートも承知しているらしいからお任せする。
また、移動に関しては馬車二台。そこにデリックとヴェルナ、執事のトマスと使用人が四人同行、リョータたちを含めて十人での移動となる。御者は使用人が交代で担当するので、基本的にリョータたちは乗っているだけでよい。もっとも、御者をやってくれと言われても出来ないのだが。そしてもちろん子供たちの身の回りの世話は使用人たちがしてくれるのでリョータたちは特に気にすることはないが、道中の話し相手にはなってくれと言われたので、了承しておいた。
そして最後に襲撃者についてだが、これはもう全員返り討ちどころか荒野に埋めてくるつもりで良いらしい。どうせ襲撃してくるのはゴロつき共で貴族やその直接の関係者がいることはないし、捕まえたあとに連れ歩くのも面倒だから。なお、その際には凄惨な光景を見せることにもなりかねないので、子供二人の視線を遮るのはドゥーリフ家の使用人たちに任せることとなる。
その他にも報酬面で細かい詰めはしたが、ドゥーリフ家にしてみればリョータたちが依頼を受けてくれる時点で大幅な譲歩を引き出しているという認識。相当に非常識な要求でもない限りはリョータたちの言うとおりにするつもりだったらしく、「え?このくらいでいいんですか?」という反応をされてしまった。
「それではよろしくお願い致します」
「はい」
宿まで送ってもらい、馬車を見送ると、ウォルトンに首根っこを掴まれた。
「色々あるんだが、ちょっとギルドまで来てくれないか?」
「拒否権がない感じ」
「あると思うか?」
「とりあえず依頼を受ける件についてはこれで良し。これが依頼票だ。終わったら完了のサインをもらって、ブレナクのギルドに出せ」
「どうも」
書類の手続きは大事だね。
「で、色々あるんだが」
「あの場で話した以上のことはないですよ」
「だろうな……だが、言わせてくれ」
「はい」
「お前、貴族相手に結構言うんだな。こっちはハラハラしっぱなしだったぞ」
「はは……まあ、何かあったらギルドマスター様がどうにか取りなしてくれるんじゃないかなと期待して」
「はあ……まあ、いい」
どうして頭を抱えるのだろうかと、あえてその原因については考えないようにしようとしたら、紙の束を出してきた。
「これを渡しておく」
「ん?」
「第二王子、トニオ・ミルセヴと関係の深い貴族のリストだ」
「それをもらってどうしろ……ん?」
チラとみると色々と書かれた内容が……
「犯罪組織とのつながりについての調査記録ですか」
「おいおい、犯罪組織なんて人聞きの悪いことを言うな。犯罪スレスレで捕まっていない者達だからな」
「スレスレという時点で絶対に衛兵とかに賄賂渡したりしてお目こぼしをしてもらってる感が満載のような」
「それについては追及しないでくれ。んで、一応はそいつらの手口みたいのまで整理してある。何かの参考にしろ」
「これ調べるの結構大変だったんでは?」
礼を言おうとしたらポーレットが口を出した。
「リョータ、そこに書かれてるのは、この街で冒険者を一年もしていたらだいたい知ってることばかり」
「あ、コラ!そういうことを!」
「……それでも、一応は礼を言っておきます。警戒しろって事でしょう?ありがとうございます」
とりあえずギルドを出てからポーレットの頭を一つ小突いておいた。空気を読め、と。
それにいちいちポーレットから聞き出すよりもこうしてまとめられていた方がありがたいのは確かだし。
「ポーレット、ヘルマンさんがどこにいるかわかる?」
「んー、いくつか候補が」
「なるほど。一旦工房へ行こう」
「「はい」」
「全部空き家じゃねえか」
「ぶー、そう言われても」
ポーレットが知っていたヘルマンのいそうな場所は、彼がこの街で住んでいた部屋や、工房にしていた場所だったが、全て無人。結局一番確かな方法に切り替えた。
「んーと、こっちです」
「さすがエリス」
「獣人ってこんなに鼻がよかったんでしたっけ?」
「えーと……私は子供の頃からこんな感じでしたけど」
「エリスは優秀だからな」
「えへへ」
人通りの多い街中という条件――なんでも王都には二万人近く住んでいるらしい――ではヘルマンの匂いをたどるのは大変だが、彼だって一日中引きこもっているわけでもないだろうとあたりをつけて、しばらくウロウロしたら「見つけました!」というのであとはお任せ。
「ここです……ここの二階から……地下まで……かな?」
「結構良いとこに住んでるんだな」
Sランクらしいから当然か。でも、国によっては貴族と同等の扱いらしいと言うから、こんなごちゃごちゃした住宅街というのはSランクに似つかわしくないという見方もあるか?まあ、どんなところに住もうと本人の自由なんだけど。
そんなことを考えながらドアノックをしながら名乗って声をかけると、中から返事が聞こえ――エリスにしか聞こえなかった――ガチャリとドアを開けてヘルマンが顔を出した。




