王位継承権争い(?)
「なんか……怖いんですけど」
「うん、気持ちはわかるけど、多分問題は無いよ」
「そうなんですか?」
一応冒険者ギルド側でも手を打つそうだが、手配書自体はリョータたちに礼をするための物だったそうで、キチンと内容を読めばそう書いてあるのだとか。
「ま、手配書って時点でそこまで読む人はなかなかいないけどね」
「殺したり怪我をさせたりしてはダメ、とは書いてあったんですよね?」
「そうだけど、縄で縛ってはダメとは書いてないんだよね」
「色々抜けてるな……」
呼び出しと銘打っているが、実際にはリョータたちが都合のいいときに訪問してくれという内容らしいので、「どうせ何日かここに滞在するので、常識的な時間であればいつでも」と答えておく。これなら「では真夜中に」とはならないだろう。
「さて、ここからは事情通のポーレットに質問しよう」
「え?私ですか?」
「知ってる限りでいいから第一王子とその周辺について」
「うーん……私が知ってるのは王子がまだこーんな小さい頃のことですよ」
「マジか」
五歳か六歳くらいの頃なら知ってるが、と言うのは知ってるにならないだろう。
「街で聞き込み……うーん、イマイチでしょうね」
「え?」
「第一王子夫妻が亡くなったことは既に知られていることですから、今から情報を集めても、という感じです」
「マジか……あ、ヘルマンさんなら何かわかるかな?」
「んー、あの人はあの人で、Sランクと言っても世捨て人みたいな生活してる人ですから、そう言うの、疎いと思います」
「え?あの人、どうやって生活してんの?」
Sランク冒険者という肩書きでは食っていけないハズ。冒険者としてそれなりの活動をこの国でしていれば、第一王子周辺の情報くらいはつかんでいるだろう。Sランクというのはそういう貴族や王族に絡む仕事も多いらしいし。
「あの人、錬金術師なんですよ」
「錬金術?ドワーフって鍛冶屋のイメージなんだけど」
「ああ、うん。それはわかります。でも、その……なんというか、魔物の素材から色々な薬を作り出す錬金術師ですよ」
「と言うことは魔物の討伐も「得意では無いですね」
「そうなんだ」
ポーレットが言うヘルマンの実態は、思い描いたものとは少し違った。
ヘルマンはもともと鍛冶職人だったのだが、武具を作る工程で材料を強化するための触媒に興味を持ち、それが講じて錬金術師へ転職。材料集めのために冒険者登録をして、色々な依頼をこなしているうちに希少な、そして効果の高い薬を作る依頼に成功。その功績でランクが上がっていきSランクへ。本人の戦闘力はそれなりにあるが、戦闘以外でSランクに上がった、珍しいケースだそうだ。
「それならそれで貴族のアレコレとか詳しいんじゃないか?騎士団の動きとか捉えているみたいだったし」
「あの人、魔の森以外での素材採取の目安にするために騎士団の動きを追ってるだけですよ?」
「え?」
「良く効く風邪薬とか、薪に混ぜると長く燃える板とか、そう言うのを作るのに人生捧げてるというのが私のヘルマンに対するイメージです。だから受ける依頼も、すごい効能のある薬を作るとか、そういうのがメインで、誰が依頼したとか全く興味が無いみたいです」
研究職というか学者肌というか……うーん。
「とは言え、私も呼び出されたあとどうなるか気になります。自分にも関わることですから」
「うん」
「私なりに調べてみます」
「頼む」
「ただ、それはそれとして、リョータたちも街で色々な人から話を聞いてみて下さい」
「わかった」
「うん、頑張るよ」
ポーレットが集める情報の精度は高いだろう。だが、一方で人の噂というのも無視出来ない情報源になったりする。それに、何でもかんでもポーレット任せでは……ヒマだしな。
「噂話ってどうやって集めればいいんだろうな?」
「すみません、私もわかりません」
片や前世ではネットで情報収集していたリョータ、片や数えるほどしか人がいなかった田舎の村育ちのエリス。情報収集のハードルはとても高かった。
「第一王子と第二王子の仲は大変に悪いというか、完全に継承権争い状態。それも血で血を洗う一歩手前という感じです。第一王子の件については、十中八九第二王子の手によるものというのが確定したかのような感じですね。まあ、私が確認出来た情報を総合してみても、多分そうだろうなとしか言えないくらいにはクロ、です」
「なるほどね」
「という感じなのですが、そちらはどうでした?」
「ああ、うん……何も収穫はなかったよ」
ポーレット、呆れたような目で見ないでくれ。それは俺に効く、エリスにもな。
「いや、こう言う情報収集とか経験無いし」
「すみません」
「まあ、いいです。人にはそれぞれ得手不得手がありますから」
「そう言ってもらえると助かるよ」
ポーレットとしてもこの二人にそこまで期待していたわけではないので、そのまま話を続ける。
「第二王子トニオ・ミルセヴですが、かなり過激な感じですね。街で噂になっているだけでもこの一年で四回は第一王子本人か家族を狙った襲撃があり、犯人が捕まっていません」
「マジか」
「それだけに今回の件は色々な憶測が飛び交っていますね。「いよいよ成功したか」「いや、これは第三王子による隠蔽工作だ」とか」
「第三王子もいるんだ」
「はい。ただ、第三王子はそれほど気にしなくて良いかと」
「へ?」
「第三王子は現在十歳。権力争い云々と言うほどの歳では無いですね」
「ちなみに兄貴どもの歳は?」
「第一王子が二十六歳、第二王子が二十二歳。間に二人の王女がいますが、第一王女は既に結婚。第二王女も来月には結婚の予定でしたが、今回の事件で延期になるそうです」
「なるほどね」
ポーレットの情報収集力、侮りがたし。
「ま、色々面倒な感じなんですけどね」
この国に限らず、王族や貴族は一夫多妻が多い。もちろん、跡継ぎのためなのだが、それが色々ともめる原因になるのも事実。
まず、第一王子の上に一人いた。「いた」という表現の通り、まだ二歳か三歳の頃に病気で亡くなっている。そしてその頃に生まれていた第二王子が繰り上がって第一王子になり……となっているのだが、その周辺が輪をかけて面倒。
既に亡くなっている長男が王妃の子、第一王子が第二妃の子、第二王子が王妃の子で、間にいる長女、次女が王妃と第三妃の子、第三王子が第二妃の子。要するに、男の子が生まれたし、第二妃、第三妃との間に子供が生まれても大丈夫と思っていたら、長男が亡くなって継承権が動いた結果、面倒な事になった、と言うわけだ。
「でもさ、王位継承順位って、法律とかそう言うので決まってるんじゃないのか?」
「ええ、決まっていますが、この国はそれも色々と面倒な決まりになってまして」
大原則として王位を継ぐのは男性。仮に女の子しか生まれなかった場合に限り、女王も有りとなっているが、過去に例はない。そして、王位継承権は生まれてすぐにはつかず、十歳になった時に所定の手続きを経て与えられる。
つまり、最初に産まれ、亡くなった子には王位継承権がなく、「まあ、何となくだけど王位継承権一位かな」という、慣例に則っていたのだが、そしてそれが崩れた結果がこれだ。継承順位を決める法律には、継承権は王妃の子、第二妃の子……と言うふうに決める、と書かれている一方で、産まれた順に決めるとも書かれている。
こうして崩れたケースについては全く言及されていないので、貴族同士で誰が王位継承順位一位なのかでもめている。そしてそれはわかりやすく派閥争いを生み、何かと小競り合いになっている。
そして、それがエスカレートした結果が先日の第一王子一家襲撃。いくら何でも実力行使は無いだろうと思っていた矢先の出来事という事もあって、犯人捜しに躍起になっているという。
「順当に考えれば第二王子派か」
「そうですね……ですが、長女も有りだと」
「え?」
「その……第一王子の姉に当たりますので」
ほんの数日だが長女が次男より先に産まれていた。つまり「誰も継承権の無い状態で生まれた女の子だから継承権を有するのでは?」という事らしい。




