拘束され……なかった
そして一通り食べ終えると、「他の店も案内してやる」と連れ回された。さすがに腹一杯なので店に入ったりはしないが、「ここは○○が絶品」「ここに来たら××を食え」という情報を教えてもらい、王都に行くまでの間に行こうと決める。
つか、この人、この村に来る目的が飲み食いなんじゃないか?
特に観光するような場所も無い村だが、この魚市場と併設されている店をまわるだけでいくらでも時間が潰せる。それどころか、出発までの数日では足りないのではと言うくらいに絶品料理の店が多い。ヘルマンの言う「宿の料理もいいが、市場には一歩及ばねえ」というのに納得だ。
ちなみに宿の料理は宿の料理で、魚料理が苦手なものには好評なので、きっちり住み分けが出来ているとも言えると、宿の名誉のために添えておく。
「ここがイーリッジ王都。行くぞ」
「はい」
ヘルマンの手配により王都に来ても安全、と言うことになったらしいので王都入り。と言っても手配書が出回っている以上、こうなるわけだ。
「暫しお待ちいただきます」
「へーい」
「結局こうなるんじゃ無いですかあ!」
別室に押し込められてしまった件について。
「リョータ、ここからなら脱出出来ます」
「はいはい、大人しくしてような」
エリスが二人を抱えて飛び降りても平気だという高さだと言ってくれるけど、そう言うことじゃないから。
しばらくするとドアノックの音。ヘルマンが数名引き連れて入ってきた。
「とりあえず色々話はついたぜ」
「そうですか」
「コイツがイーリッジの冒険者ギルドマスターのウォルトン・マクドネル。後ろの二人は職員。色々手続きがあるとか言う話だから来てもらった」
その二人、面倒なことをやらされると理解しているらしく、目が死んでるんですけどねえ。
「さて、これからというか、何がどうなっているのかとかそう言う話があるんだが、こんな辛気くさいところでそんな話をしたら気が滅入っちまう。場所変えるぜ」
そのまま外に止まっていた馬車に乗り込み――連れてこられていた二人は書類手続きで残った――冒険者ギルドへ。そしてそのままギルドマスターの執務室へ。
それにしてもこのギルドマスター、今までに会ったことのある中で一番線が細いというか、ヘルマンに頭が上がらないような感じ?ヘルマンが「コイツには貸しがある」と言っていた気がするけど、どんな貸しなんだろう?聞くのが怖いから聞かないけどな。
「さてと、俺は大雑把にしか聞いてないから、ウォルトン、きちんと説明してくれや」
「あ、ハイ」
あとで聞いた話だが、ウォルトンはそもそも冒険者あがりではなく、この国のとある貴族家の三男とのこと。家を継げる可能性はなく、結婚した時点で家を出ており、ほぼ平民と変わらない生活をしている。と言っても、貴族育ちの彼に平民の暮らしが簡単にできるかというと出来るわけが無い。では、働いてたくさん稼いでと言っても、手に職があるわけでも無し。これからどうしようかというところで、ちょうどここのギルドマスターの席が空き、ヘルマンが色々と手を尽くしてギルドマスターになったと言う。
何をどうしたらそうできるのかと疑問はあるが、読み書きが出来、この国の貴族と多少なりとも繋がりがあり、法にも明るく、商人程度には計算も出来る。ギルドマスターという管理職に必要そうな能力は揃っているので問題ないらしい。そして、ギルドマスターはそれなりに給料もいい仕事。貴族家時代とまでは行かないが、そこそこの暮らしが出来ている……そりゃヘルマンに頭が上がらないな。
そんな彼から聞かされたのは今回の事の経緯。
襲撃した側、された側はリョータたちの予想通り、互いに権力争いをしている貴族家同士。何の用事か明らかにされていないが、街から街へ移動中の馬車を盗賊が襲ったように見せかけて暗殺し、それから色々、というよくある話。
襲撃の実行犯については現在も逃走中だが、いわゆる金で雇われた者たちなので、誰を襲ったかということは大して理解していないだろうとの事。
で、襲われたのが誰かというと、
「第一王子一家です」
「大事件!」
「そう言うことだな」
第一王子がどういうものかなんて説明は不要。その単語だけでポーレットは青い顔してガタガタ震えだしている。エリスはことの重大性は理解しているが、自分に降りかかってくる事は無さそうと判断しているのか、特に反応は無い。
ちなみにリョータも、襲撃があった時の諸々で少々面倒かも?と思っているが、自分たちに全く非はないから特に問題ないと考えている。
あの状況で、アレコレ難癖つけてくるなら、実力行使して逃げればいい、とまでは考えていないが、詳しい事情を話したヘルマンが色々やってくれる……といいなあ。
「事前に手紙ももらい、先程ざっとヘルマンさんから話は聞かせてもらいましたが、念のため何があったか聞かせてもらいます」
「はい」
「内容は整理して私から上げておきます。悪いようにはならないはずですが、どう転んだとしても呼び出しは有ると思っていてください」
「えー」
ガタという音に目をやると、ポーレットが気絶していた。おい、目を覚ませ。エリスはなんともない顔をしているぞ。
「えーと……今からでも大丈夫でしょうか?」
「ポーレット!起きろ!ポーレット!」
揺さぶって起こして、あの日あった事を話す。何しろ、エリスは現場を離れていたから、詳細を話せるのはリョータとポーレットのみ。そして、リョータは途中で倒れたから最初から最後まで話せるのはポーレットだけなのだ。
当たり前だが、ウォルトンに話す内容は、ヘルマンとした話よりも細かいものとなった。
要所要所で「それはつまり……と言う事ですか?」「フム、もう少し相手の状態を詳しく」と突っ込んだ質問が入る。
覚えている限りをどうにか絞り出して答えることおよそ二時間、ようやく解放された。
解放されたと言っても、街から出ないようにと釘を刺されているが。
「さてと……オススメの宿やら飯やら紹介してもいいが……ポーレットなら全部知ってるだろ」
「そうですね。新しい店はわかりませんが」
「心配するな。ここ十年で出来た店はどれもこれも三流だ」
ヘルマン基準だが、信用してもいい情報として受け取っておこう。
「それじゃ元気でな」
「……何だかまた会いそうな気がします」
「はははっ、そんときゃ運命だと諦めるんだな」
思い切りフラグを立てて……いや、建設して去って行った。
「とりあえず冒険者ギルドの呼び出しに応じやすい宿を」
「はい……じゃあ、こっちへ」
「んで、今日はウマいもん食おう」
異論などあるはずもない。
翌朝、早速ギルドから呼び出しがあり、そのままギルドマスターの執務室に通された。
「色々と面倒な話があるんだけど、聞いてもらえるかな?」
「結論だけ教えてください」
「そう言わずに聞いてよ」
「イヤです」
はは……俺も面の皮が厚くなったもんだな。
とりあえず、第一王子一家で生き残ったのは二台目の馬車に乗っていた息子と娘のみ。あの馬車には二人の他、面倒を見ていた使用人兼護衛の二名で、幸い大きな怪我なども無く無事に王都に戻っているそうだ。言うまでも無いことだが、色々と問題になっているらしいけど。
そして、ギルドマスターといえども詳しい事情は一切聞かされず、ただ一言「リョータたちを呼び出して欲しい」とのこと。




