手配されていた件
盗賊はとりあえず村長に引き渡すと言うことで、リョータたちは馬車を降り、村に一つだけの宿へ向かう。
「何かと世話になったからな、俺がおごってやる」
「ありがとうございます」
「ハハッ、いいってことさ」
ヘルマンはSランク冒険者であるが、実のところ、魔物相手の戦闘で功績を挙げてきたタイプでは無いため、リョータたちの到着があと少し遅れていたらちょっとヤバかったと告げた。実際、襲われることは想定していても、自分が戦うことは想定していなかったので、馬車に乗っている間に身につけていた防具は最小限で、あちこちに傷を負っている。
「そんなわけで、お前さんらは俺の命の恩人ってことだ」
中々いい人のようである。
「それにしても」
「はい?」
「これが噂のリョータにエリスか」
「え?私はスルーですか?」
「ポーレットとは結構古い付き合いだしなあ」
ポーレットはそれなりに有名人なので、ヘルマンが知っていても不思議は無いが、リョータたちのことを知っているというのはもしかして?
「あの……噂の、ってどういうことですか?」
「ん?ああ、簡単だ。お前さんたち、三人揃って手配書が出て「よし、逃げよう」
「まあ、待て、落ち着けって」
手配書という単語に反応したリョータたちをヘルマンは引き留めた。
「お前さんたちがどこにいたのか知らんが、詳しい状況を知りたいだろ?」
「それはまあ」
「安心しろ、命の恩人を売ったりしない」
ポーレットもその言葉を信じているようだし、エリスも周囲に彼の仲間が潜んでいたりとかそう言うことは無いと判断しているみたいだな。
「わかりました」
そう言って座り直すと、ヘルマンがぐいっとジョッキを空けおかわりを注文してから続ける。
「手配書自体は持ってないがな、お前さんたち三人の特徴を書かれた手配書が冒険者ギルドにもまわってきていて、俺にもその話が来ていた。たまたま、こっちに来る直前にまわってきてな、タイミングが悪かったら俺も知らなかったって話さ」
「なるほど……で、手配書ってことは、俺たちお尋ね者ってことですよね?」
「それがそうでも無い」
「は?」
「いわゆる賞金首って感じじゃ無い。手配書に書かれていたのは情報提供で小銀貨五枚、連れてきたら大銀貨一枚で、まかり間違っても力ずくで連れてきたりするなってのと、殺したら逆に殺人罪と書かれていた」
「ふむ……確かに、妙ですね」
「だろ?」
リョータたちをあの馬車を襲った犯人だとして賞金をかけているのなら、生死問わず、あるいは殺してしまっていたらいくら、という設定になるだろうし、何より金額が安い。
「じゃあ……えっと……どうしよう」
「そうだな、お前さんたちがいいってんなら、俺がなんとか口をきいてやろうと思う」
「へ?」
「これでもSランク、それなりに顔が利く。王都へ入るのに俺と一緒に行けば、いきなり衛兵にとっ捕まるなんてことも無い。そして、ギルドに話を通しておけば、手配書を出した誰かさんも簡単には手出しできまいさ」
「なるほど」
「一応この国のギルドマスターにはたっぷりと貸しがあるからな。そろそろ引退しそうだから返してもらうのもいいだろう」
ニヤリと笑いながらまた一つジョッキを空けてお代わり注文。ドワーフは本当に酒が強いらしいな。
「と言うことでどうだ?」
「そうですね……わかりました。お願いします」
「よし、任せとけ」
奢りだからジャンジャン食えという言葉に甘えて、村の名物料理だという魚料理に舌鼓を打ちながらヘルマンに聞かれるままに今までの冒険譚を話す。
「ドラゴン討伐にサンドワーム討伐、おまけにワイバーンか。Aランクになっていてもおかしくないというか、どうしてCランクなんだってどの国でもギルドマスターが頭抱えてそうだな」
「あ、あはははは」
そして話題は先日の馬車襲撃へと移っていく。
「なるほどな……そのニュースは俺も少しだけ知ってる」
「へえ」
「と言っても、詳しい話が全然流れてこないんだ」
「え?」
「リョータの話だと護衛が全滅で、一台の馬車に乗っていたのは全員、だろ?」
「はい」
「それに馬車についてた紋章。小さくねえ事件のハズだが、俺が聞いたのは、貴族の馬車が盗賊団に襲われたらしい、ってくらいでな」
「はあ」
「一応その盗賊団の討伐に騎士団を動かしたって話だが……俺んとこには何も情報が来ていない」
ふとポーレットを見る。
「ヘルマンさんは私以上に色々事情通ですから、騎士団の出勤状況とか、訓練、遠征といった情報はいくらでも手に入る方ですよ」
「ははっ、よく知ってるじゃねえか」
怖ーよ!何だよこの情報屋みたいな人は!
「と言っても、そのくらいのことは、知ろうと思えば誰でもつかめる情報さ。問題は……討伐するって話になっていたはずなのに動いてないってことだ」
「え……あ、もしかして」
「そう。騎士団の定期巡回が行われていなかった可能性がある」
「だから定期馬車が襲われた……と」
イーリッジ周辺はきちんと街道を整備しているのだが、街道を少し外れると深い森になってしまい、小さな山も多く、盗賊たちがアジトにするに適した洞窟っぽいのもそこら中にあるという。そのため、盗賊をいくら討伐しても、いつの間にか現れて住み着いて、ということが繰り返されるので騎士団が戦闘訓練を兼ねて巡回するのが常。
ヘルマンは騎士団が定期巡回として街を出て、数日後に帰還していたという情報は掴んでいるが、どこをどう巡回したかはさすがにわからない。
「戻ってくるのが妙に早かったとも言えば速かったが……不自然と言えるほどでも無いんだ」
王都で数日後から祭りがあり、街の警護に騎士団も駆り出されるために戻ってくるのを早めたというのは十分に考えられるそうだ。それが原因で定期馬車が盗賊に襲われていたのでは本末転倒だが、それをここで言っても仕方ない。
「考えてみれば、巡回から帰ってきてすぐだな」
「え?」
「手配書が出たのが」
「……もしかして」
「ううむ……」
ヘルマンが少し考え込み、ポーレットへ尋ねる。
「馬車にあったっつう紋章、どんなだったか覚えてるか?」
「え?あ、はい……えーっとですね」
貴族の紋章は「○○家」を示す記号で、動植物や名前、貴族になった経緯に関連する何かを示したりしている。ポーレットはイーリッジの貴族の紋章は知らないと言うが、イーリッジで主に活動してるSランクのヘルマンなら主立った貴族家の紋章はだいたい把握している。
「なるほど……ふむ……リョータ」
「はい」
「全滅していたっっていう馬車に乗ってた人物、覚えてる限りでいいから特徴を」
「えーっと」
血まみれで生死確認はしたものの顔までは確認していなかったことを添えながら、着ていた物やだいたいの体格、髪色などを覚えている限りで話す。と言っても、あまり覚えていないけど。
「なるほどな……ううむ」
一つ考え込み、何杯目になるか数えるのが面倒になりつつあるジョッキを空けると告げた。
「こりゃ、ずいぶん厄介かも知れんな」




