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  作者: ひじきとコロッケ
イーリッジ
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治療をしよう

 ずるずるとリョータを引きずり、とりあえず自分の背負ってきた荷物のところにたどり着いたがそこから先どうすればいいかがわからない。

 それに馬車の中でガタゴトと音がするので、恐らく中からこの矢を撃った者がその成果を確認しようとしているのか、それとも他に何かしようとしているのか。

 距離を取らねば危険。だけどこれ以上どうすれば。


「ポー……ット……赤……紐……瓶……出せ」

「は、はい!」


 ポーレットが慌ててリョータの背嚢を探るとすぐに赤い紐のついた瓶が見つかった。


「貸せ……」

「だ、大丈夫ですか?!」

「ぐっ……」


 口の中、頬の内側をぐっと噛み、痛みで意識をどうにか保って、瓶の中身を地面へ。

 軽く円を描き、転移をイメージ。うまくイメージが固定できないな……一回限りの使用になりそうだが……


「リョータ!」

「エリス……転移……一回だけ……頼む」

「はい!」


 このタイミングでエリスが到着し、ガクリと崩れ落ちたリョータを抱え上げる。村まで往復してきたのだとしたらとんでもない速さだと思いながら、ポーレットは自分の荷物を背負う。


「ポーレット、行くよ!」

「はい!」


 慌てて魔法陣に飛び乗るとエリスが魔力を流す。すぐに視界が変わり、工房の前に到着。

 そのまま工房へ入ると、エリスにリョータのことを任せ、奥の保管庫へ。


「困った……どれを使えばいいのか」


 保管庫には色々使えるようにと、あちこちで採取してきた薬草が保管されている。

 発熱に効く薬草、腹痛、捻挫、擦り傷……冒険者がいつも持ち歩くような者は一通りそろっているし、蛇の毒に使うような薬草ももちろんあるのだが、あの矢に塗られていた毒が何かわからないとどれを使えばいいかわからない。

 冒険者として必要な範囲の毒の知識はもちろんあるが、それは「この魔物の毒にはこの薬草が効く」というものであって、貴族を襲撃するような連中に対応するために貴族が用意している毒薬に関する知識では無い。


「うぐぐ……仕方ないです……あとで叱られるのは覚悟します」


 棚の隅に置かれた瓶。中身についてはこの保管庫を説明されたときに聞かされているそれに、ポーレットは藁にもすがる思いで飛びついた。




 手ぬぐいを出してリョータの口に噛ませる。既にぐったりして意識は無いが、万一舌でも噛んだら大変なので予防措置をしておく。そして、鎧の留め具や紐を解いてバラし、矢の刺さった部位以外は全部外す。

 あとはきれいな水……手近にあった器に魔法で水を放り込み、きれいな布を固く絞り、矢を包んで握れるようにする。あとはこの矢にかえしが無いことを祈りながら抜くしかないが、どうしても手が足りない。


「ポーレット、どう?!」

「お待たせしました……これ、使うしか無いと思います」


 ポーレットの差し出したそれを使っていいものかどうか、エリスにも何とも言えない。だけど、今言えることは……多分これが今できるベストってことくらい。コレを使って叱られるなら二人一緒に叱られよう、と二人でうなずき合う。


「私が手足を押さえておく、ポーレットは」

「はい。やってみます」


 手袋をはめ、ラビットナイフを手にしたポーレットがリョータの上にまたがり体を固定すると、エリスがリョータの手足をグイと押さえつける。


「口に布……大丈夫ですね……鎧を切ります……よし、傷が見えました」


 そして持ってきた小瓶を開き、傷口の周囲にかける。これはただの強い酒、消毒用だ。


「傷口周囲の洗浄、よし。少し切開します……押さえて」

「はいっ」


 エリスが改めて力を込めるのを確認すると、ラビットナイフで少し傷口を広げる。


「っ!ふーっ!」


 痛みで目を覚ましたリョータがバタつくがエリスが必死に押さえ続ける。


「矢を抜きます」

「はいっ」

「フーッ!」


 矢をぐっと握り、一息に抜いた。幸い、先端にかえしは無く、それ以上傷口が広がることは無かったが、その先についていたのは赤黒いどころでは無く、紫と茶色に変色した何か。毒によるものと思われるが、二人にはそれほど毒の知識があるわけでも無く。


「これ、使います」

「はいっ」


 痛みで気絶してグッタリしたリョータの傷の具合を確かめ、ポーレットが持ってきた小瓶の蓋を開け、その中身をそっと傷口にたらす。

 途端に、シュッと音がして白い蒸気が少し上がる。

 直後、ひどい色になっていた傷口周辺がやや赤みのある肌の色に変わっていく。


「うまく行きました。止血薬、貼ります」

「はい」


 止血効果のある薬草を数枚ぺたりと貼り付け、布をあてがいながらリョータの上から降り、二人で協力して包帯を巻いていく。

 一通りの処置を終えて見ると、先ほどまで毒のせいで真っ青になっていたリョータの顔はほんのり赤みが戻っており、呼吸も穏やかになっていた。状態が落ち着いたようで、二人ともほっと息をつく。


「な、なんとかなりました……」

「ええ」


 リョータの世話をエリスに任せ、ポーレットは放り投げた矢を布で包みながら持ち、部屋を出る。これに塗られていた毒がなんなのかを調べるのは出来ないが、まずは焼却処分だ。




「……ん、ここ……えっと」

「リョータ!」

「エリス?って痛たたた」

「あ、ごめん」


 目を覚ましたリョータに思わず抱きついたエリスだったが、さすがに傷の塞がっていない体にはキツいと慌てて離れる。


「えっと……」

「工房に戻ってきたの」

「そうか」

「あ、気がつきましたか」

「ん?」


 首だけ向けるとポーレットがのぞき込んでいた。


「具合はどうですか?」

「まだこの辺が痛いけど」

「そりゃそうでしょうね。他は?」

「特にこれと言ったところは」

「そうですか」


 一応確認しますね、と額に手を当てられた。何か水周りの作業でもしていたらしく、ひんやりとした手が心地いい。


「熱も引きましたね。でもしばらくは安静にしていましょう」

「それは、うん。構わないというか……何があった?」


 とりあえずわかる範囲ですがとポーレットは前置きして状況を説明した。

 リョータが馬車の中から矢で撃たれたこと。リョータが朦朧としながら転移魔法陣を描き、戻ってきたエリスと共に工房へ来たこと。撃たれた矢には毒が塗られており、一刻を争う状況だったが、なんとか治療出来たこと。


「治療って、何をどうしたんだ?」


 ラノベファンタジーやゲームには解毒薬がよく登場しどんな毒にも効いていたが、この世界にそんなものは多分ない。そして矢に塗られていた毒がなんなのかわからないと対処出来ないと思ったのだが。


「これを……使いました」


 小さな瓶を二本並べるとポーレットは土下座した。それに倣うようにエリスも隣で。


「これは……」


 一本は強い酒。ほとんどアルコールなので消毒薬として使えるからと買っておいたもの。これを使って処置をするのは問題ない。冒険者だけでなく医者の中にもこの酒を使って外科的処置をする者はいるからだ。


「で、こっちは?」


 工房ではいろいろな薬草を薬に加工しているが、水薬になるタイプの場合、瓶に詰めて保管している。だが、薬を入れた瓶ではない。

 中身の間違いのないように、薬を詰めた瓶は必ず何を入れたか瓶に書き込んでいるからだ。


「何を入れた?」

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