街に歴史あり
「あれがユスナトとイーリッジの国境か」
「大きな街ですね。お城もあるみたい?」
「ええ。国境にしては珍しく、両方の国が管轄する街、ロージアです。そしてアレは……その通り、お城なんです!」
通常、国境というのは街と街の間に国境線が引かれる。それは河だったり、森だったり平原だったりと様々だが、土地として分断されやすいところが国境線になるのはごく自然なこと。つまり、ユスナトとイーリッジの国境、ロージアがかなり特殊と言うことになるのだが、ポーレットは「それほど複雑な理由ではないですよ」と言った。
「いまから二百年ほど前ですが、その頃はユスナトとイーリッジは一つの国でした」
「解説ありがとう」
「いえ、終わってないんですが」
「それ聞いてどうする?」
「一般的な知識として」
「要らん知識だな」
「そこは聞きましょうよ」
「聞いてどうなるモンでも無いだろ?」
エリスも興味なさそうだし。
「勝手に語りますね」
少し悔しそうにポーレットが勝手に語った内容によると、二百年ほど前、双子の王子がいたそうな。で、王子というのは大抵、王になるための教育を受ける。双子であっても例外ではないのだが、その過程で多少なりとも才能の差というものが出てきて、それが王位継承権に繋がると誰もが予想していたのだが、予想に反して二人ともほとんど変わらない才能を発揮し、優劣がつけられるものではなく、苦肉の策として国を二つにわけ、それぞれが治めるようにした。それが二つの国の誕生で、国境の街ロージアは当時の王都だったため、規模も大きく、城も残ったままなのだそうだ。
「本当にどうでもいい内容だな」
「えー」
「それに王子が二人とも優秀だから国を分けるとか、愚策だろ」
「そうですか?」
「エリス、ちょっと考えてみてくれ」
「え?」
「突然どちらかが病気で倒れたらどうなる?」
「ああ……困りますよね」
「と言うことで、何の参考にもならないし、教訓にもならない話だな」
「あう……それを言ったらおしまいなんですけどね、この話」
実はそのあとに面白エピソードでもあるというのなら聞いてもいいが、そう言うのも無いらしい。まあ、国の成立の経緯もあって両国は仲がいいという程度か。
思い返してみると、今までに通過してきた国々で仲が悪かったのは……ストムくらいか?一方的に冒険者を排除する方針が拗れていただけとも言えるが。
ラノベにありがちな周辺国への進出を国是とするような帝国がないのはありがたいと言えばありがたいな。
「ロージアでは少し注意点が」
「下らないことだったら殴るからな」
「だ、大丈夫ですよ」
コホンと咳払いしてポーレットが続ける。
「ロージアは国境の街ですが、どちらの国の街かという点では決着が出ていません」
「は?」
そう言うのは国を分けたときに決めておいて欲しいんだが。
「そんなわけでロージアの中には、ユスナト派、イーリッジ派があります」
「面倒くせえな」
「まあ、あからさまにロージアがどちらの国の物か、なんて話をしない限りはどうと言うことはありませんけどね」
「それくらいならまあ……」
「どっちの国の街とか、そう言う話はあまりしませんよね?」
「そうだよな……いよいよイーリッジに入ったぞ、みたいな話をしなけりゃいいってレベルだろ?」
「まあ、そうなんですが……先日聞いた話でややこしくなっていまして」
「聞きたくないけど聞くか」
「第三の勢力、独立派が生まれてきたと」
「は?」
「独立派って?」
「要するに……ロージアはその成立経緯から、ユスナトにもイーリッジにも属さない。そればかりか、ユスナトとイーリッジはロージアがあったからこそ成り立っている国である!だそうです」
「補給の問題さえ無かったら立ち寄らずに通過したい」
「国境線的な意味で通過は難しいですね」
国境警備隊みたいな組織が巡回しているらしい。そう言うところをしっかりする前に、街の中をどうにかすべきだと思う。
「Cランク冒険者リョータとエリスね。それとポーレットか。久しぶりだな」
「どうも」
「って、ランクが上がったのか?!」
「えへん!」
「いや、威張れるほどじゃないと思うけどな……何年かかったんだよって話だし」
「うぐっ」
「まあいいや……っとこれで良し。通っていいぞ、ロージアへようこそ」
「ども~」
軽いやりとりを経て街に入ると、すぐに旅人目当ての宿やら露店がずらりと並ぶとおりになっていた。
「いらっしゃい!いらっしゃい!安いよ!ロージアと言ったらこれ!買った買った!」
「お、そこの優秀さがあふれてくる冒険者ご一行さん!どうだ?うちの宿にしないか?安くしとくよ。ユスナトの最後の夜をゆったり過ごそうじゃ無いか」
客引きその他でごった返しているのだが、どう見てもポーレットの言うようなユスナト派、イーリッジ派……どころか、積極的にアピールしているような気がする。
「なあ、これ……」
「気をつけてください」
「え?」
「どの店も良心的に見えますが……少なくない数のイーリッジ派の店が紛れ込んでいるそうです。マズい物を出してあえて騒ぎを起こさせて、「所詮ユスナトなんて糞田舎」みたいなデマを流すとか」
「やってることがいちいち小さいな!」
「ちなみに中央の魔の森から離れた側の方に独立派が多いらしいですよ」
「さっさと通過するぞ、こんな街!」
とはいえ、冒険者ギルドには一度顔を出さねばならない。
「了解しました。どっちにします?」
「へ?」
「ここ、冒険者ギルドの支部も二カ所ありまして」
「面倒くせえ!」
とりあえずイーリッジ側の冒険者ギルド支部へ向かうことにした。どうせ国を移動するわけだし、な。
「さすが、お目が高いですね!あんな高いだけのタワーくらいしか見所の無いユスナトではなく、イーリッジを選ぶ!その慧眼に感服いたしました!」
「はあ……」
「何かと話題、評価が絶賛急上昇中のリョータさん、エリスさん、ポーレットさん。我がイーリッジ冒険者ギルドロージア支部はお三方を大歓迎いたします!」
歓迎するのは勝手だが、でかい声でアピールしないで欲しいです。すごく目立ってます、はい。冒険者ギルドへ向かい、入国したことを伝えただけでこれ。何それ、そんなにこの街がどっちの国なのかって重要なの?
「是非とも皆さんには、色々と活躍していただいて「しません」
「へ?」
「俺たち、ある目的のために旅をしているんですよ。で、ここは通過するために立ち寄っただけなので、活躍とかしません」
「そ、そんなあ……」
テンション上げ上げだった受付嬢が一転急降下。涙を流しながらすがりつこうとするので身代わりにポーレットを押しつけて距離を取る。
「そこをなんとか!いろいろと依頼が塩漬けになっていて大変なんです」
「知らんがな」
「助けると思って」
「あの辺にも冒険者は一杯いるんだが?」
「なぜか受けてくれないんですよぉ」
そこをなんとかするのがギルド職員の仕事だと思うんだが。




