報酬上乗せ
ミスローへ着くとそのまま冒険者ギルドへ向かい、報告を改めて行って報酬を受け取る。
「ワイバーンが巣をねぇ」
「前代未聞だな」
連絡を受けた時点では支部長以下、ギルド職員たちは半信半疑だったのだが、実際に解体されたワイバーンが持ち込まれると信じざるを得ない。
「しかし、魔の森の外へ巣を作るとは」
「魔素が薄くても卵は孵るんですかね」
「孵るみたいだぞ」
「卵を割ってみたら結構育ってた」
「動いてたからなあ」
「あともう何日か遅れていたら卵が孵って、さらに被害が拡大するかも知れなかったよな」
「対処できてよかった」
当たり前だがワイバーンの生態はほとんど知られていないが、卵が孵ったら親はヒナのためにせっせと餌を運ぶだろう。そして、山の動物を狩り尽くす程度では収まらずに付近の村や街を襲うのも時間の問題だっただろう。そう言う意味では親も卵もまとめて始末できたのは運がよかったと言うわけだ。
「他に巣が無いかどうかが懸念だな」
「そうだな。だが、猟師たちに言わせれば可能性は低いだろうってさ」
「まあな。あんな物がそこらにホイホイあってたまるか」
可能性としては二つ。一つは他にもワイバーンの番がいて、巣を作っている可能性。
もう一つは、ワイバーンが一つの巣に一つの卵という習性で、他にも巣を作って卵を産んでいる可能性だ。
ワイバーンの習性がわからないので何とも言えないが。
そんな話が飛び交っているのをリョータたちはおとなしく眺めていた。まさか、自分たちが原因の片棒を担いでいたなど言えるわけも無く。
「さてと、報酬だが……これが依頼票に書かれていた分だ」
支部長がトレイに乗せた硬貨をそれぞれのパーティのリーダーの前に置く。
「そして、依頼票には原因への対応についての上乗せは無しとしておいたが、さすがにワイバーンだ。全く無しというのもアレなんでな」
そう言って、さらに小金貨をそれぞれの人数分積み、紙切れも一枚置く。各々が希望したワイバーンの素材目録だ。
「ヒュー!やったぜ!結構な稼ぎになった」
「ああ。飲みに行こうぜ!」
二つのパーティが盛り上がりながら退室していくのを見送る。あとに残ったのは、残るように言われていたリョータたち三人だ。
「で、リョータたちだが……ポーレットはランクアップだ。あとで受付で冒険者証を受け取るように」
「はい」
「それと……二人はやっぱりランクは上げない、か?」
「……はい」
ランクの低かったポーレットをDランクまで上げるのは問題ない。むしろ、これで上げなかったら何をすれば上がるんだという話だろう。
だが、それ以上に、ワイバーンをほぼ単独で倒しているリョータとエリスがCランクのままというのは、少々座りが悪いのだ。
「詳しい事情は機密事項のため、詮索することも禁止、という申し送り事項があるから詳しくは聞かないが……逆に俺の方から追記しておくぞ。BランクどころかAランクに上げてもよい、と」
「そんなに?!」
「そりゃそうだ。ワイバーンを単独撃破なんて、Aランク冒険者でもおいそれと出来ることじゃあないからな」
受付で更新されたポーレットの冒険者証とワイバーンの素材を受け取り、工房へ向かいながらリョータはつぶやいた。
「これ、なんてマッチポンプ?」
「ん?何か言った?」
「何でも無い」
何事も無かったからよしとしよう、うん。
街道を外れたところに転移魔方陣を設置して工房へ向かい、素材を保管庫にしまうと素材の使い道の検討にかかる。
「武器に関してはラビットソードが優秀だからこのままでいいとも思うが、そろそろ防具かな」
「私もそうですけど、二人とも武器と防具のバランスがおかしいですからね」
ポーレットの言うとおりなのだが、なにぶん防具というのは手間がかかる。主に材料調達の面で。
材料だけで言えばドラゴンの皮なんてのもあるのだが、使い勝手の悪い素材だ。それこそ、そこらのなまくらでは全く刃の通らない強度がありながら、薄くて軽いという夢のような素材だが、丈夫すぎて加工しづらく、他の素材との組み合わせも難しい。
ラビットナイフを使えば、切ることは出来るが、曲げる・折りたたむと言った加工がとにかく大変。そして、そのためだけに魔方陣を作って対応しなければならないが、その素材がまた集めづらいという……まあ、厄介な素材だと思う。
そして、他の素材との相性も難しい。例えば革鎧を作る場合、脱ぎ着するためにボタンや留め金などをつける。通常の革鎧ならそれで何の問題も無いのだが、ドラゴンの皮で作ると、皮が丈夫すぎて、留め金が耐えきれずに壊れてしまうのだ。
「ホーンラビットの角と鉄粉を混ぜて留め金の台座にする……うわ、面倒臭そうだな」
部材を作るための道具も必要か。普通の金属加工の枠を超えているから、そこも手作りしないとダメか?先は長いな。
ワイバーンを素材にした場合は?どうにかなりそうな物があるな。作ってみるか。
必要になる材料をリストアップ。ミスローの魔の森で採取可能な物とこの先の街で採取可能な物でどうにかなりそうなので、翌日からまずミスローの魔の森へ向かう。ポーレットの記憶頼りではあるが、あちこちに分散していると言うことなので数日かけて採取して回ろう。ついでと言っては何だが、ホーンラビット狩りもしておけば宿代にはなる。
毎日魔の森へ向かう割にホーンラビットくらいしか狩ってこないリョータたちは、冒険者ギルドにしてみれば「何やってんだか」であり、「出来れば塩漬けになっている依頼をこなして欲しい」というのが本音だが、Cランク冒険者には緊急の依頼以外に強制することは出来ない。もちろん、指名依頼というのはあるのだが、ギルドが指名依頼を出すことは出来ないし、一般の依頼をCランクのリョータたちの指名依頼にするのは不自然すぎる。
結果、ミスローに滞在していた五日間ほどの間に、リョータたちは目的の物を手に入れ、冒険者ギルドはいつもよりちょっと多めのホーンラビットの取引があった程度で終わってしまった。
ちょっと文字数が少ないですが、区切りがいいのでここで。




