ワイバーン討伐戦
抗議は無視して、魔法のイメージを構築。ワイバーンまであと二十メートルと言ったところか。
「撃つぞ!」
「はいっ!」
「雷撃!」
こちらの合図で一端エリスが距離を取った直後に魔法を二発。どちらも直撃し、一瞬だが動きが鈍る。
「えいっ!」
近くにいた小ぶりな方の翼をエリスが切り裂くと、バランスを崩してそのまま落下。だが、その様子に激昂したらしく、大きな方が体勢を立て直す。が、
「もう一発雷撃!」
「やあっ!」
追撃で動きが止まったところにエリスが飛び込んで翼を切り裂く。だが、大きさのせいなのかはたまた何か他の理由があるのか、なんとか持ちこたえ、その首をエリスに向けた。
「させるか!水!凍結!」
距離があるせいで精度は今ひとつだが、頭全体を水で覆い、すぐに凍結させる。この程度じゃダメージになっているとは思えないが、とりあえず口は塞がったのですぐに火を吹くことはないだろう。
「エリス!離れろ!雷撃!」
「今度はこっち!」
追加の魔法のあとにエリスが反対側の翼を斬るとさすがに高度が落ちていく。
「グガアッ!」
だが先ほど落とした小ぶりな方がエリスに向けて口を開く。
「み、水!」
「凍結!」
ポーレットの魔法で生成された水がバシャッと顔にかかったので凍らせる。
「ナイス!次は首を斬れ」
「うひぃぃ!」
なんか文句を言いたそうだが却下して、頭の下を駆け抜けざまに首の下をスパッと切るとガクンと落ちてきた。
「うっきゃあああ!」
おかしな声とザクザクと斬ってるような音が聞こえるので任せるとして、大きな方へ。
地面に落ちたと言っても落下のダメージはほとんど無いらしく、両脚でなんとか立ち上がると首と尻尾を振り回し始めた。さすがのエリスもアレでは近づけない。しかも、無理矢理口を開けようとしているから氷がバリバリと割れ始めている。
「雷撃!」
その氷の部分に撃ち込んでみたら結構効いたらしく、ビクン!と大きく痙攣。そしてその隙を逃すエリスではない。
「やあっ!」
「どりゃっ!」
エリスの切り裂いた奥に見えた骨の隙間にどうにか剣を突き立てると、ぐらりと倒れていった。
「こっちは任せた!」
「はいっ!」
最後のトドメはエリスに任せるとして、ポーレットの方は?
「うりゃっ!とあっ!うきゃっ!」
さっき俺が斬った程度ではイマイチだったようでバタバタと暴れているのにポーレットが翻弄されているところだった。
それでも、長年の経験なのか、的確に尻尾の毒針とかを回避しているのはさすがだな。
「雷撃!」
「グェァッ!」
「うきゃっ!」
「スマン!とりゃっ!」
ポーレットが近すぎて少し飛んでしまったようだが、こればっかりは何ともし難い。あとでもう少しキチンと謝ることにして、一瞬止まった首を跳ね飛ばした。
「ふう……」
「あふゃ……ひふぅ……」
「っとと……大丈夫か?」
ヘロヘロになったポーレットを支えて念のためにエリスの方は……うん、あっちも首を落としたな。
「ポーレット」
「ひゃい?」
「魔法はスマン」
「あう……はい」
「一つ質問」
「なんれひょう?」
「ワイバーンって、首を落としても生きてるか?」
「さしゅがにそりぇはないれす」
ですよね。
さてと、どうにかワイバーンは倒したわけだが、どうしようか。
「リョータ」
「ん?」
「ワイバーン、どうしようか?」
「うん……解体方法が……ポーレット、わかるか?」
「一応ある程度は」
「ふむ」
チラリと距離を取ったままの猟師二人と冒険者たちを見ると、ようやくこちらへ近づいてきてくれた。
「ワイバーン、どうしましょう?」
「うーむ。このまま捨てるのは惜しいな」
「一応解体の手順はわかるぞ」
「おお!」
猟師二人がわかるというのでその指示に従おう。何、解体に使う刃物は自分たち用のラビットナイフしかないのだから手を動かすのも自分たちが中心になる。
「っと、解体を始める前に……コイツだ」
「何です?臭っ!」
「はっはっはっ」
「狼煙を上げるんだよ」
「狼煙?」
「おう。大物が取れたから運ぶのを手伝ってくれってな」
「なるほど」
ポーレットの異常な運搬能力を持ってしてもワイバーン二頭はさすがに多いので、近く村に応援を頼むらしい。
「じゃあ、解体を始めるか」
「はい!」
「まずはここだ。ここをこういう風に」
「こうですか?」
「次が……って、すごい切れ味だな!」
「死んだ祖父さんの形見ですから」
うーむ、俺のじいさんはどういう人だったことになっているのだろうか?
指示に従い切り分けていく過程で、切ったところから流れる血も貴重だと言うことで断面ごと凍らせて進めていく。少々肉に臭みが残ってしまうが、血の確保の方を優先だ。
「うーむ、この魔法の精度……リョータ、ホントに君は何者だい?」
「見ての通り、冒険者になって約一年のCランク冒険者ですよ」
「うん、見たままでないんだけどな」
切り分けた物を包んで運びやすくするのは七人の冒険者たちが請け負う。こちらはこちらで、こういう作業にも慣れているので手際が良い。
こうして三時間ほどかけて解体し、運びやすいサイズにしたところで、次の問題だ。
「この……巣?は解体するし、獣の死体も燃やして埋めるが……卵はどうする?」
「そうだな」
動物の死体はおそらく卵が孵ってすぐに食べるために用意してあったのだろうから放っておいても孵ったばかりのワイバーンは餓死するだろう。
ん?待てよ……良くありがちなのが、ワイバーンを飼い慣らして、飛竜騎士みたいなのって……無いのか?
「うーん、聞いたことが無いな」
「私もないです」
「リョータの故郷にはそういう騎士がいるのかい?」
「ハハハ、まさか。おとぎ話の世界ですよ」
いないらしい。なんとかごまかせたが……大丈夫だよな?
卵の中身がどの程度まで成長しているか不明なので、割ったらすぐに火の魔法を叩き込むことになったが、まずは巣を崩すところから開始していく。そちらはそちらで任せてワイバーンの解体に専念しよう。
しばらくすると巣の解体が進んできたために中に入っていた色々な物がデロデロと崩れ落ちてきたらしく「ぎゃあ!」「こっちに来た!」といった悲鳴が聞こえるがスルーしておく。今はワイバーンの解体が優先だ。それに悲鳴が聞こえてきたと言ってもそこはベテラン冒険者。すぐに大きな穴に死体を放り込んで火を放って燃やし始めた。風向きも考えているので臭いがこちらに流れてくることもない。
「やれやれ、やっと終わった」
「そしてこの卵か」
「持って帰って、いきなり孵化しても困るし……叩き割るしかないか?」
「そうだな」
「じゃ、やってみるか」
Aランク冒険者の一人がでかい斧を振り上げる。
「どりゃあっ!」
気合い一発、風切り音とともに振り下ろされた斧は……殻に傷一つもつけられずに跳ね返された。
「痛え!」
「「「マジか」」」
斧を叩き付けた方が痛いという結果はある程度予想はしていたが、傷一つつかないとはなかなか頑丈な卵だ。
卵が割れにくいのは……多分地球の鶏の卵と同じような理由だろう。卵の殻を構成している成分というか構造が、短い辺を内側に向けた台形を敷き詰めたアーチ構造になっているからだ。これだと外側からの力に強くなる一方で、内側からの力に弱くなり、中のヒナが出やすくなるそうだ。自然の不思議さを感じずにはいられない構造だな。
「ポーレット」
「はい?」
「こっちはあともう少しで何とかなる。卵を割ってきてくれ」
「私に割れるとでも?」
「お前が持ってる剣なら斬れるぞ」
「そう言えばそうでした」




