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  作者: ひじきとコロッケ
ユスナト
162/345

山の異変


「色々噂は聞いてたけどなあ」

「期待の新人だな」

「いや、その……どうも」

「ははっ!もっと堂々としてろよ!」


 リョータとエリスに関しても色々噂は流れている。ギルドが大っぴらにしなくても、周囲は「何が起こったか」「誰がやったのか」を何となく察して、と言う流れはどうやっても止められない。

 そしてそんな話をすれば、


「そんなにすごいのか」

「そりゃ安心だな」


 猟師二人からは期待のまなざしだ。


「それはそれとして、山にいるかも知れない魔物の心当たりは?」

「それなんだよなぁ」


 変な臭いがするというのは確かで、ベテラン猟師たちが軒並み危険を感じて引き返したのだが、一人としてその臭いに心当たりがある者がいない。

 そして冒険者たちもそうした物に心当たりが無い。リョータたちよりもはるかに長く、十年二十年という経験を積んだ者たちが思い当たる物が無いというのは一体どういうことだろうか?

 そんな話をしながら歩き、昼を過ぎた頃から山を登り始める。

 この近くで山に入って猟をするのはミスローの他、二つの村が有るが、三カ所とも異変を感じ、変な臭いがするのも同様。そして、それぞれで感じる臭いの方向から、多分ここから臭いが発生しているだろうという場所は特定できている。

 その場所まではほぼ一日がかりになるので、今日はしばらく山を進んで野営。本格的な調査は明日だ。


「うーん、やっぱりなあ」

「んだな」


 猟師二人が何か納得したような会話をしている。


「えっと……何かありましたか?」

「ん?ああ、その……何だ。相変わらずってことだ」

「相変わらず?」

「獲物の気配が無いってことさ」


 最近出来たような足跡、糞、木の実を食べた痕跡。そういったものが無いと言うことが再確認できたという。


「こんな、山に入って少しした程度のところでも獲物がいるのですか?」

「まあな」

「そりゃ、いつもウロウロしてるわけじゃ無いが、罠を仕掛けておけば五、六個に一匹はかかる程度にはいるのが普通だ」


 それが多いのか少ないのかわからないが、罠を仕掛けておけばだいたいかかるはずなのにかからない。おまけに生息している痕跡が見られないというのは少し異常だろう。


「季節的なものってことも無いですよね?」

「まあな」

「となると、やはり何かが住み着いたか、おかしなことが起きているのか」

「そう思って依頼したんだ」


 ふーむ。チラリとエリスを見るが、フルフルと首を振っているので、今のところは異常は無いのだろう。

 村にいた頃はイノシシ狩りについて行ったこともあるらしいから、足跡なんかも見つけられるらしいが、見当たらないようだ。


「ぱっと見だと……これだな。だいたい二、三ヶ月前の足跡だな」

「ここの急な斜面を登るのに踏ん張ったから深い跡になってるが……別に珍しくもなんともない」


 へえ。リョータの目には足跡とただの窪みの区別がつかないが、プロの猟師が言うならそうなんだろう。


「あとはあの辺が獣道になっててな。だいたい十日かそこらは足跡が残るもんだが、それも無い」


 足跡が消えるような雨が降ったのは五日前だと言うが、雨の降った直後は足跡が残りやすいとも言う。


「それにな」


 ディナタンさんが立ち止まって耳に手を当てる。


「猪や鹿はともかく、木の上に巣を作ってる鳥までいねえ」


 鳥か。

 ホレ、とディナタンさんの差した方を見る。


「あそこに巣がある。あるって言ってもありゃ作りかけだが」

「作りかけ?」

「そうだ。作りかけで放り出してどこかへ行っちまったってことさ」

「あっちとあっちもそうだな」


 なるほど、あちこちの木の枝や洞に小枝や葉、草などを集めた巣の未完成版が見える。


「つまり、鳥も巣を作っている途中で逃げ出すような何かがあったと?」

「そう考えるのが普通だな」

「しかも、臭いの発生源らしい場所まではかなり距離があるのに」

「だから気味が悪いんだ」




 歩いているうちに日が沈み、やや開けた場所で野営となった。


「臭いは特に変化は無いです」

「なるほどね」


 ひどい臭いらしいが、距離が離れているせいで届いていないのか、それとも臭い自体が弱くて遠くまで届かないのか。いずれにせよ、明日の昼前には目的地に到着出来るらしい。


「さて、晩飯の仕度は……」


 簡単でいいだろうと思ったら、猟師二人が焚き火の仕度をしつつこちらに声をかけてきた。


「これは噂話で聞いたんだが」

「はあ……」

「何でも、タワーマウンテン登ってるときにうまいもん食ってたって?」

「えっ?」


 どこでそう言う話が?

 出元はすぐにわかるけどなと、視線をそちらに向けると……冒険者七人が手をヒラヒラ振っている。全員か!


「えーと……無理です」

「「「「えっ?!」」」」


 猟師二人だけでなく、冒険者たちもこの返答は予想外だったのか?


「どういう話を聞いたのか……だいたい想像がつくけど、あれ、色々事前の準備が必要だから」

「なんと……」

「残念だ」

「うん……本当に残念」


 準備無しで出来ると思っていたのか、それとも準備してきていると期待していたのか。

 そもそも準備をしていたとして、三人分だろうに。


「一応言っておきますけど……あれは匂いが結構出るので、こう言う場所でやると面倒かも知れませんよ?」

「それもそうか」


 パンを焼けばやや甘い香りが。肉を焼けば美味そうな香りが。どちらも色々と呼び寄せるだろう。タワーマウンテンという特殊な環境なら起こらないだろうけどな。

 と言うことで、干し肉を炙り、干し野菜を突っ込んだスープで流し込むだけとなったが、それはそれで猟師二人とベテラン冒険者七人が色々と鍋に突っ込んだので、予想以上にうまいものが出来たとだけ。


「さて、見張りの順番を決めようか」

「はい」


 魔物がゾロゾロ出てくるダンジョンのような危険性もなく、通常なら出てくるであろう狼や熊なども周囲にいないだろうという状況では見張りも緩いので適当でいいだろうとくじ引きで決めることになった。


「あ、うん。わかってました。こうなるって」


 順番を書いた木の棒を引いた結果、リョータとエリスは見張り無し。ポーレットが夜中頃の結構きつめの順番になった。二人ひと組で四交代。リョータとエリスの引きの強さは何だろうか?




 そんな紆余曲折はあった物の、特に何ごとも無く朝を迎え、堅パンにスープという朝食を済ませると歩き始める。そして、一時間もしないうちにエリスがふと足を止めた。


「臭い始めた?」

「はい。あっちの方角です」


 方角はほぼ真正面。風向きによっては臭わなくなるし、まだそこそこ距離はあるようだ。


「あのでかい二つの岩、見えるか?」

「ええ」

「アレを超えるとな、あの嬢ちゃんほど鼻の効かない俺らでもわかるくらいに臭う」


 猟師たち二人がガハハと笑うが、どんな臭いなのかは、エリスがかなり顔をしかめているところからだいたい想像がつく。


「ちなみにどんな臭い?」

「えっと……肉が腐っているような、ひどい臭いです」

「それはイヤだなぁ」


 でも、これが仕事だからな……我慢するしかないか。

 三十分もしないで、並んだ二つの岩に到達。そこから少し行ったところに窪地があり、そこがおそらく臭いの元らしい。


「うん、確かに臭うね」

「これは……うーむ」


 風向きによっては臭わなくなるが、臭うときはそれはもう。


「エリス、大丈夫?」

「何とか……平気」

「ポーレットは我慢してろ」

「もう少し私に優しくしてもいいと思います」

「前向きに善処する」

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