山から動物が消えていた
「到着!」
「やっと下りてきました!」
「はあ~平らな地面♪」
そんな感じで十日間かけてタワーマウンテンを下りきった。二回、焼き肉&パン祭りを開催して気力を維持したお陰か、他の先に下りていたパーティよりも表情は明るく、荷物の積み替え程度の休憩だけで街へ向けて歩き出す。
「……あれが若さか」
「俺たちが失った……」
「待て、ポーレットは俺たちよりもはるかに」
「それはそうかも知れんが」
後ろから聞こえてくる呟きは無視しようか。
「こんなにたくさん……どこで採れたんですか?」
「どこって……タワーマウンテンですが」
「えっ?」
「えっ?」
何かおかしいことを言ったかな?
「このひと月ほど、道がふさがっていて登れないという話がちらほらありまして」
「気のせいですよ」
どうやら俺たちが登り始める前後くらいからそう言う話がチラホラあったと。それではポーレットの情報収集に引っかからないこともあるかな。だが、それを片付けたのが俺たちだと言うことは伏せておく。でないと、街を出ようとしたら引き留められる可能性があるからな。
正直なところ、ここのギルドにいい印象は無い。モリコナのギルドとかは、本当に困っていたのだろうが、ここのギルドは……冒険者同士のもめ事というか、一方的に突っかかってきたのを見て見ぬふりをしたようなもんだからな。
「ここ最近、品薄状態で買い取り価格が上昇しているので、その分増えて……こちらになります」
予想よりも二割増しくらいで買い取られたのでよしとしよう。
翌日、エリスとポーレットに買い出しを任せ、荷車を工房へ運び、しまっておく。ポーレットが引っ張る以外の用途が無いから、このままお蔵入りの可能性大だな。野営の時のたき火燃料にしてもいいか?
そして翌日、王都ユスナトをあとにする。
「塞がってた道が通れるようになったから、色々解決するといいんだが」
「また塞がる可能性もありますけどねえ」
「誰が塞いでいるのかな?」
「誰だろうなぁ……って、あれだけの木を下から持ってくるとか、すごい手間だよな」
「力持ちですね」
「私のようなギフト持ちでも、上り下りが面倒臭いはずですけど」
「考えないことにしよう、な?」
山が大きくせり出している関係で、隣の街ミスローまでは五日かかるが、仮に直線距離をとれるなら一日の距離という近さのせいで、街からタワーマウンテンがかすかに見える。
魔の森を歩いて移動した方が速いかも知れないが、あれはSランク冒険者込みだから出来たことであって、駆け出しに毛が生えたのとそれほど変わらないリョータとエリスに、戦闘力を期待できないポーレットの三人では絶対無理なのでやらない。
危険を冒すのが冒険者だが、ここで言う危険というのは、十分な準備によって回避、対策できる危険であって、どうやっても対処できない危険に挑むのは無茶で無謀な死にたがり。
このくらいの遠回りを遠回りと思わないようにするのが正道で王道なのだ。
そして、ミスローは王都が近いせいで、滞在している冒険者が少ない街。
ついでで受けていた荷物運びの荷を持って行ったら、ここぞとばかりに引き留められた。
「実はちょっとやっかいな問題がありまして」
「そう言うのはAランク冒険者に回してください」
「そこをなんとか」
「俺たち一番上でもCランクで、ほとんど新人レベルなんですが」
「伝え聞いている活躍はとてもCランクでは無いんですけどね」
「えー」
「それにAランク冒険者にも声をかけてありまして」
「それなら」
「人数が多ければ多いほど、と」
とりあえず話を聞くだけ聞くが、受けるかどうかは聞いてから、とした。
「山から動物が消えた?」
「はい」
ユスナトとミスローの間にそびえる山は魔の森と外を隔てている山からつながっているが、植生や棲んでいる動物は魔物では無いため、普通に猟師が入って狩りをしたりしている。
そして、だいたい三、四日に一度のペースで山に入り、毎回数匹の獲物を仕留めているのが通常だったのだが、ここ二週間ほど、獲物が捕れないのだという。
「そういうこともあるのでは?」
「それは確かにそうなのですが」
自然が相手である以上、獲物が捕れない日もあるだろう。だが、そう言う場合でも足跡や草木を食べたあと、フンなどの痕跡は見つかるはず。
それが全く見つからないのだという。
「餌になるものが無くなっているとか?」
「ところがそうでも無いらしいんです」
猪や鹿が好む草や木の実は少ないどころか、食べられていないせいもあってか大繁殖しているという。
そして、何よりもおかしなことがあるという。
「変な臭いがする?」
「ええ。風向きによるらしいのですが、恐ろしくクサいと」
「フム」
チラリとエリスを見るが、ふるふると首を振る。さすがに街や街道まで臭いが流れているわけでは無いらしい。
「依頼人は街や村の猟師たち。Aランク冒険者四名とBランク冒険者三名が参加を表明していますし、猟師たちが道案内もします。急な話ですが明日出発です」
「うーん……」
「その……何というか」
「聞きたくないことを言われる予感」
「その……やっかいな魔物が魔の森から流れてきている可能性があるのです」
「うわ」
「リョータさんの戦闘力、エリスさんの索敵能力、そして少々日数がかかりますので、ポーレットさんの荷物運搬能力を期待していまして」
明らかに俺たちの到着予定に合わせてるだろ、これ。
「わかりました。受けます」
ここできっぱり断れないあたり、お人好しなんだろうな。
「と言うことで、何か思い当たることはあるか?」
「ありませんよ」
「だよなあ」
宿を取って飯を食いながらポーレットに聞いてみたが思い当たるものは無い、と。
「この街にいるAランク、Bランク冒険者に心当たりは?」
「ある程度は。でも、ただ単に通りがかりに声をかけただけでしょうね」
「ま、そうだろうな」
「一応わかる範囲ですが……これと言って悪い人はいませんね」
「Aランクとかになると日頃の行いも評価基準だもんな」
肝心の山までは街から歩いて一日半。せっかく来た道を戻ることになるが、仕方ない。
必要になりそうな物資はギルドで調達してくれるので、運ぶことだけ考えればよいが、ある程度は猟師や冒険者も運べるため、ポーレットが荷車を引く必要も無い。
そもそも荷車なんて引っ張っていたら普通の山は登れないので、論外なんだが。
翌日、約束の時間にギルドへ顔を出すと、既に全員が揃っていた。
「すみません、遅くなりました」
「大丈夫、時間通りだよ」
出掛ける前に準備をしていたせいで遅くなってしまったかと思ったがどうやら間に合ったらしい。
互いに自己紹介を済ませると、早速猟師のディナタンさんオスヴィンさんの案内で街を出て歩き始める。
道中は特に何事も無く、リョータたちにとっては真っ当に高ランクに上がった冒険者たちの経験談を聞かせてもらえる貴重な場……とはならなかった。
「ポーレットが借金抱えてたのは知ってたけどなぁ」
「え゛……知られてましたか……」
「お前、アレでバレてないと思ってたのか?」
「うわん」
それなりに顔の広いポーレットの近況については……まあいいか。




