ご同行願えますか?
「俺たちが狙っている薬草やら何やらは通常なら十日くらい登ったところにある。そしてそれは現状でも変わってはいない」
「はい。それは確認しています。もちろん多少の前後はあるでしょうが」
「だが、俺たちの場合、一人にかかる負担が大人数パーティに比べれば多くなるから」
「一日に進む距離は少し減らしましょう、と言う提案です」
「具体的にはどの位?」
「そうですね。登りに十三日か十四日。下りは十一日を想定で」
「ふむ」
「ポーレット、荷物の量は大丈夫?」
「そこなんですよね。重さはともかくそこまで来るとかなりかさばります。背負いきれるサイズを超えるかも知れません」
「最初は俺たちが分担して背負うことも考えてもいいけど、予備を考えると……」
「少し厳しいですね」
荷物の中で一番重量と容量を食うのが食料。通常は保存用に乾燥させて重量を減らすのだが、ポーレットがいる場合は重量は無視して良い。だがその一方でかさばるというのが一番厄介だ。ポーレットは背丈の倍ほどの量があっても背負えるが、それだけのサイズになると最後尾を歩くリョータの視界を遮る。それに荷物に下手に触れると重量が戻るので、かさばるというのはかなり危険な状況を生み出してしまうのだ。
どうすればいいか色々と話し合ったもののこれといった妙案はなく、とりあえず買い出しに出て何か便利そうな物が無いか探してみよう、と言うことになった。
「結局は干し肉に干し野菜、堅パンという定番になるというわけですね……」
「定番が定番たる所以だな」
お手軽、軽量、安いといった保存用食料に必要な要素が詰め込まれ、洗練されてきているのだからこれ以上のモノを求めるのは酷だろうか?
「何かこう、便利な魔道具とか造れませんか?」
「無理だな」
一応、この手の定番として魔法の袋というアイテムはあるのだが、作り方がわからない。もちろん、原理をしっかり理解出来れば造れるだろうが、そもそも空間拡張とかどういう物理現象なんだろうか。魔素の多いところに長いこと放置された袋というのは何かそう言う、ノーベル賞級の科学者でも思いつかない、何かとんでもない現象が起こるモノなのだろうか?
「重さに関してはポーレットが背負えばクリア。だが、容積に関してはどうやってもクリア出来ない」
ポーレット自身は重さを感じない。だが、その大きさは突風を受けたりしたら容易にポーレットを転ばせる。ただ転ぶだけならいいが、タワーマウンテンの上の方で崖の方に倒れでもしたら大変だ。
「待てよ……ポーレット、一つ確認なんだが」
「はい」
「お前は……背負っている物の重さを感じないんだよな?」
「そうですね。例えば今みたいに両手に買った物を下げていると重さを感じます」
「頭の上に載せたら?」
「ここで試してみせるつもりはありませんが、一応試したことはありますよ。重さを感じます」
「じゃあ例えば、こうしたらどうなる?」
買った物を入れた袋の紐を肩に通し、体の前に抱きかかえるようにさせてみた。
「この格好、結構恥ずかしいんですが」
「大丈夫。俺は恥ずかしくない」
「うう……」
「で、重さは?」
「感じますよ」
「じゃあ、こうしたらどうなる?」
単純に肩に紐をかけて背中に担ぐだけにしてみると。
「重くないです」
「なるほど」
一応、ここでは試せないのだが、過去に試したことがあるパターンも聞いてみたら、棒の先に荷物をくくりつけて担ぐ場合も重くないという。
つまり、ポーレットのギフトは背中がポイントなのだろう。背中に荷物が当たっている、あるいは荷物の紐などが掛かっていることが重要。荷物の位置では無く、荷重のかかる位置がポーレットの後ろで、かつ肩や背中に負荷がかかる場合にギフトの力が発揮されるのだ。
もう少し検証しようとしたが、さすがに往来ですることではないと宿に戻り、過去に試したことも含めて確認する。
「なるほど、地面を引きずるようにしていても問題は無かったと」
「はい」
「よし、何とかなるかも知れないな」
「ホントですか?」
「必要な物を買いにいくぞ!」
「あの、ホントにこれで行くんですか?」
「課題はポーレットの羞恥心だけだな」
「はう……」
二輪タイプの荷車を購入して改造してみたところ、思いのほかうまく行った。
通常、荷車は人や馬が引くためにハンドル、つまり木や金属の棒が出ていて、その先を引っ張っていくのだが、その棒を外し、丈夫な革紐に変更。左右の革紐の先を輪っかにしてポーレットの肩に通して見たところ、重さを感じなかったのだ。
「荷物の位置がポーレットの後ろ、荷重が肩にかかる。そして、地面に触れていても問題ないなら車輪がついていてもOK」
「すごいです!」
いや、エリスのすごいは荷車に関してだろうな。一応補強の魔法陣を組み込んでいるから荷車自体の耐荷重はかなりのモノになっている。
「はあ……袋の方がでかいポーレットから、荷車引きのポーレットに改名ですかね」
「何、心配するな」
「え?」
「俺もエリスも気にしない」
「私が気にするんです!」
ポーレットの不満もわからなくはないが、とりあえず荷物の問題はどうにか解決。必要な物の買い出しを済ませながら二、三日休んでいよいよ本番だ。
「や、やっと見つけたぜ貴様ら」
「この落とし前、どうつけてくれるんだ?あぁ?」
「まあ、心がけ次第では許してやってもいいんだが?」
「周りに配慮しつつ強めのスタンガン」
「「「「ぎゃんっ」」」」
悲鳴と共にビクビクと痙攣する男四人なんて、日本なら事案レベル。国によってはその場で始末されてもおかしくないよな?実際、そこそこの人通りがあるのに、四人の周りだけ近寄らない不思議空間が出来てるし。
「生きてたんですね」
「みたいですね」
エリスとポーレットがしみじみと言うが、死んでたら死んでたで後味悪いからなぁ。
とりあえず二、三発追加で電撃を撃ってから一人のそばにしゃがんで告げる。
「今度来たら、ドラゴンが死ぬレベルで撃つからそのつもりで」
「あ……あひっ……ひぃっ!」
これで片付くといいんだけどな。
そう願っていたのだが願いは届かず、翌朝、宿の入り口に衛兵が数名並んで待っていた。
「冒険者のポーレットはお前か?」
「いや、俺じゃないし」
「ならどいつだ?」
人相くらい確認してから来いよと追い返そうとしたが、さすがに衛兵と揉めるのはまずいと判断してポーレットが名乗り出た。
「よし、ポーレット以下三名、ついてこい」
「俺たち、名前の確認すら無しかよ」
だが、さすがに国家権力と争うつもりはないので大人しく従う。
幸い、縄や手かせをつけられることはなかったが、前後左右を衛兵に囲まれての移動は晒し者もいいところだ。
詰め所に入るとそのまま取り調べ用の部屋へ。三人揃っての取り調べになったのは幸いだな。
「Dランク冒険者ダドリから、街やタワーでお前らに襲われたという通報があった」
「そうですか」
「冒険者ギルドにも確認したが、どうも要領を得なくてな」
ん?どういうことだ?
「ダドリたちは、もともとポーレットをポーターとして契約していたが、それが反故にされたと主張している。そしてその件で話をしようとする度に一方的に暴力を振るわれると」
「はあ……」
「だが、冒険者ギルドでは、少なくともポーレットとの先約などはないという話。個人的な契約までは承知していないと言うから、そこは何とも言えんが」
「ポーレットは少なくとも五年はこの国に来ていないと思うんですが」
「そうなのか?」
「はい。ずっとルトナークにいました」
「なんでまたそんなところに」
取り調べをしているのは警備班の班長で衛兵としての経験も長く、ポーレットがポーターとしてそこそこ有名だというのは知っている。そしてその真価はタワーマウンテンのようなところで十二分に発揮されることも。だから、なんでわざわざそんなところに五年も居続けたのかが不思議に見えるのだ。
「ポーレットは借金奴隷になっている。五年ほど前にとある奴から借りて奴隷になった。今はその借金を肩代わりした俺が主人になってます」
「ふむ。確認させてくれるか?」
「どうぞ」




