前向きに反省会など
そして翌日、朝食を終えて歩き出し、そろそろ昼になるかという頃。
「ほう、逃げ切れないと判断したか?」
「いいねえ。聞き分けがいいと長生き出来るぜ?」
「昨日と台詞が全く同じだな」
「「「「何だと?!」」」」
なんで追いついてくるんだよ……息が上がってゼイゼイ言ってるのがなんか……残念な連中だな。
「一つ、いいか?」
「命乞いなら聞かねえぞ」
「こっちの要求はシンプル。その女二人をこっちによこせ。それだけだからな。それ以外の話は聞かないぞ」
「あー、そうじゃなくて」
これ、俺が言わなきゃダメなんだろうな……
「お前ら、ずいぶん軽装だな」
「うぐっ」
「う、うるせーよ!」
「お、おおお……俺たちはベテランだからな」
「そうそう!荷物を最小限にするのは慣れてんだ!」
こいつら、俺たちの後をつけてたら登り始めたもんだから引っ込みがつかなくなってそのまま、と言うパターンか?
「なあ二人とも」
「何でしょうか?」
「あまり聞きたくないのですが、はい」
「あいつら、馬鹿なのか?いや、馬鹿だよな?」
「馬鹿ですね」
「馬鹿ですよ」
「聞こえてんぞ!」
「誰が馬鹿だって?!」
「知ってるか?馬鹿って言う奴が馬鹿なんだぞ!」
「何だ、少しは知的に言い返せる……いや、全然知的じゃないな」
ギャアギャアと騒ぎ始めたのでとっとと片付けよう。
「もう少し強めのスタンガン」
「「「「ぎゃんっ!」」」」
これ以上強くすると、こちらにも被害が及びそうなギリギリの強さで放つと、その場で崩れ落ちた。幸い傾斜が緩い場所だったようで転がり落ちたりはしなかったが……
「通行の邪魔ですね」
「後続のパーティが良心的な事を祈りましょう」
「え?良心的じゃないとどうなるんだ?」
「聞きたいですか?」
いえ別に。
こんな感じで登り続けて夕方になり、野営出来そうな場所に陣取って食事にする。
「とりあえず今夜はここで野営して、明日は朝から下っていくということで」
「予定通りだな」
「一応は」
「帰りにあの人たち、待ち構えていそうですけど」
エリスが心底嫌そうに言うのにリョータとポーレットもうなずく。
「まあ、その時はその時だな」
「んー、さすがに手を下すのは看過出来かねるのですが」
「ポーレット、俺の生まれ育ったところにはこんな格言がある」
「どんな格言ですか?」
「死人に口なし」
「それ、絶対にいい意味じゃないですよね?」
「まあな」
「否定しないし」
まあ、それはそれとしてどうしたもんかな。
「まあ、さすがに今回のは目に余りますし、ギルドへ報告すればいいと思います」
「報告ねぇ……」
「結構効果があると思いますけど」
「え?」
「二人ともあちこちの国の王族やら有力商人とつながりがあるようですし、ギルドとしても軽く扱ってはならない人物だとみていると思います」
「それはまあ、認めるけど」
なし崩し的な部分が多いけど、結果的には色々とパイプが出来ている。でも、下手に利用するとそのあとが色々と面倒くさそうなんだよな。
「で、下り始めてわずか一時間でこいつらか」
ため息しか出ないんだが、一応口上は聞いておくか。
「ほう?こんな程度でもう引き返すのか?」
「所詮その程度って事だな」
いや、むしろお前らの体調が心配なんだが。顔色もなんか悪いし。おそらくメシもろくに食ってないんだろうな……はあ。
「さっさとその二人をこっちによこしな」
「俺たちならもっと有効活用出来るぜ」
「言いたい放題のところで申し訳ないが、仮に、万が一にもこの二人を手放すとしてもお前らのところにはやらないぞ」
「何だと?!」
「そもそも手放す予定もないしな」
「チッ、まだわかんねえみてえだな」
「やっちまおうぜ!」
「おう!」
「スタンガン、強め」
「「「「ぎゃうっ!」」」」
四人をそれぞれロープで繋ぎ、丈夫そうな木の枝から吊す。他の冒険者からどんな風に見えるかという点で一抹の不安はあるが、聞いている限りでは普段の素行も良いと言えるような面々ではないらしいから、
「このまま放置されて餓死しても恨むなよ?」
「う……あぅ……あ」
まだ痙攣しているようで、あうあう状態だが知ったことではない。
「いいんですか?」
「別にいいだろ」
どうにかしたいのは山々だが、護衛中に襲ってきた盗賊とはわけが違う。バッサリ斬り捨てるほどの覚悟はないし、かと言ってアレを引きずってギルドまでと言うのも労力に見合うかというとな。
やや不満げ、というか心配事の種が残ったと感じているようなポーレットを促して先へ進む。少なくとも街へ戻るまでの間にアレに追いつかれることはないだろう。
「さて、それではタワーマウンテン初アタックの反省会を行います」
「「はい」」
結局あの後は特に何ごとも無く無事に戻ってきた。一応、帰りの道すがら、ギルドに報告すべきかどうかを話し合ったが結論は出ず、報告は見送ることとした。報告することによるメリットは、今後つきまとわれなくなるだろうと言う程度の割に、それなりに証拠を取りそろえたりしなければならない面倒の方が多いためだ。こちらの目的はあくまでもタワーマウンテンの高所にある素材の採取であって、冒険者としてのランクアップとかそう言うのは二の次三の次。余計なゴタゴタもこの街を離れてしまえば解決するのだから、放っておこうと言うことに決まった。
そしてそれはそれとして、タワーマウンテンを登ってそれぞれが感じたこと、改善すべき事が無いかを話し合う場を設けることにしていたので、戻ってきた翌日の朝から開催だ。
「まず私からいいですか」
「いいぞ」
「ではエリスさんに。えーと……」
隊列の中央にいて全体を見ていたポーレットが、これまでの無駄に長い経験からアレコレとアドバイスをしてくる。魔物が襲ってくるなどの、何らかのアクシデントが発生する危険性もあるような場所ではなかなか話す余裕のないことを一つ一つ丁寧に。エリスもエリスで指摘されることに思うところがあるらしく、素直にうなずきながら聞き入っている。
「そして次にリョータですが」
「おう」
リョータたちのパーティは三人編成。ちょっとそこまで、と言う程度なら問題の無い人数と実力だが、ある程度の深さ――今回は高さだが――まで進むとなると、これまで通りでは通用しない。通常なら二人、三人でこなすことを一人でこなさなければならない事が多くなる。そしてそれは一人にかかる負担が増えることとなり、その分疲労も蓄積しやすくなる。そして蓄積した疲労は時に冷静な判断を鈍らせるし、とっさの対応に遅れを生じさせる。ポーレットはこれまでの経験でそうしたことを実際に肌で感じて学んできており、ベテラン冒険者たちがどうやって対処してきたかも目で見てきている。そしてそれらを二人に告げることが自身の生存にも関わるから当然必死に説明をする。
ポーレットにとって幸いだったのは、リョータもエリスもそうしたアドバイスにはしっかり耳を傾け、少しでも疑問に思うことがあれば口にしてくれると言うこと。ポーレット自身もこのパーティでの役割は大人数のパーティの時よりも多くなるために、そのあたりも踏まえて、これから先どうするべきかをしっかり話し合った。




