タワーマウンテンに登ろう
麓にある登り口としか言いようのないところの周囲には、他の街のダンジョン入り口同様に冒険者たちが登る準備をしていたり、下りてきた疲れを癒やすべく小休止したりしているのが見える。
「こうして見ると、結構大人数で行くんだな」
「そうですね。十日前後かけて登るのが割と多いですから、荷物も結構な量になるんですよ。だいたい少なくても七、八人ですね」
「荷物の大半を持ち歩けるポーレットは優秀だな!」
「もっと褒めてもいいんですよ!ついでに借金も減らしていただけると!」
「借金は自業自得だしなあ」
「うう……だまされただけなのに」
「自己責任って奴だよ」
軽口を叩きながら壁面に沿った坂道を上り始める。登り始めは幅五メートルほどだが、すぐに十メートルほどに広がる。ポーレットによると今日行ける範囲でも幅二十メートル以上になるところがあると言うから、実に不思議な場所だ。
そんな坂道を先頭をエリス、真ん中にポーレットという隊列で進んでいく。索敵&前衛のエリスを先頭に近接、魔法戦闘も可能なリョータを最後尾にして一番戦闘力の低いポーレットを真ん中という、特に工夫のない編成だ。
「ついてきてる件」
「みたいですねぇ」
隠す気もないのか、あの四人が堂々とあとを着いてきている。
「ポーレット、あの四人になんかやっただろ?」
「ひどい言われようですが、何もしてませんって」
「じゃあ、なんでこんなにしつこくついてくるんだ?」
「きっとアレです。この可憐な私にほれて「ないな」
「ひどっ」
ポーレットはまあ、そのままとしておこう。
「エリス、どうだ?」
「少し先が広いみたいです」
「そこで相手をするか?」
しばらく歩くと、なるほど幅が二十メートルほどの広い場所に出たので、足を止めて振り返る。
「ほう、逃げ切れないと判断したか?」
「いいねえ。聞き分けがいいと長生き出来るぜ?」
「頭の悪そうな台詞だな」
「「「「何だと?!」」」」
問答無用で武器を抜いたので、こちらも一応剣を抜くと、エリスがすぐ隣で同じように構える。ポーレット?俺たちから距離を取ったが、それはそれで正解だ。
「俺たち相手にやる気か?」
「へへっ……痛い目見るぜ!」
実に頭の悪そうな発言の後にこちらへ駆けてきた。今まで散々撃退されているという事を覚えていないのだろうか?
「結構強めのスタンガン」
「ぐぅわっ!」
「ふぉぇっ!」
「ぬべらっ!」
「ぽぽぃ!」
それぞれ変な声で倒れ、ゴロゴロと十メートルほど転がって止まった。
「とりあえずあのまま放置……念のため追加でスタンガン」
ビクンッと痙攣する四人がとても気持ち悪い。
「通行の邪魔では?」
「邪魔をしてるのはあいつらであって俺たちではない」
「まあ、そうですけど」
ポーレットは少し不服そうだが、じゃあ何が出来るかというと……なあ?
「ま、行くか」
「はいっ」
これ以上関わっても何もいい事はないだろうから、先へ進もう。
そして一時間おきに小休止を入れながら進む事四時間ほど。
「そろそろ魔物が出てきます。まあ、この辺だとホーンラビットですけど」
「こんなところにも出るのか」
「出ますね。ほら、あれ見てください」
指さした上の方、壁面にいくつもの穴が見える。
「穴というか、裂け目というか……そんな感じのところを巣にしているみたいですね」
「へえ」
「この先で出てくる魔物もだいたいそんな感じです」
「じゃあ、ここで出てくるのは小型の魔物ばっかりなの?」
「いいえ。上に行くともっと大きな穴が開いてるところがありますので」
「なるほどぉ」
「でもさ、あの穴に住んでるってことは……タワーマウンテンの中ってどうなってるんだ?」
「色々言われてますけどね。中は空洞になってて、魔物だらけだとか」
「ありそうだな」
ポーレットが知る限りでは、過去に数回穴を空けて中を確かめようとした者がいるらしいが、とにかく固くて断念したらしい。
「リョータの魔法なら開けられそう」
「んー、無理じゃないかな」
エリスの期待には応えてみたいが、それは帰りに試す事にしようか?
今回はあまり登らないので、通常なら帰りに採取するような薬草やら木の枝、葉っぱ類を採取しながら進んでいく。荷物の重さを気にしなくて良いポーレットは実に優秀だと思い、何となく頭を撫でる。ついでにエリスも。
「んななっ!何ですかっ!」
「んふぅ~」
「いやあ、二人とも優秀でありがたいなあって」
「ほ、褒めても何も出ませんからねっ!と言うか、褒めるくらいなら借金の帳消しを」
「それは却下な」
スタンガンによる昏倒は半日くらい続くらしいので、その日は四人が追いついてくる事もなく、適当に開けた場所を選んで野営の仕度にかかる。
「若干斜めという事さえ目をつぶれば、外と変わらんな」
「そうですね」
「まあ、まだ低いですから。高いところまで行くとだいぶ変わりますよ」
「へえ」
「どんなふうに変わるんですか?」
「んー、明日の夜にはわかりますけど、具体的には魔物の数が増えます」
「なるほどね。見張りの重要性が上がる、と」
「そう言う事になります」
「と言う事は三人だとキツいか?」
「そこまではなんとも言えませんね」
「明日の夜の様子次第ではメンバー追加も考えるか……」
「これは私の勝手な予想ですが」
「うん?」
「おそらくメンバー追加しなくてもいいと思います」
そして、ポーレットはその理由を述べた。
まず、そもそもの戦闘力がそこらの冒険者と桁違いだという事。ロックベア相手に全く苦労せずに倒せる戦力はこの先強くなっていく魔物相手にも不安要素がない。通常、野営の見張りは二人で起きている事が多いのだが、それは一人が食い止めている間にもう一人が他の仲間を起こすという役割分担があるから。だが、この三人の場合、リョータかエリスのどちらか一人がいれば、多数の魔物に囲まれているとかでもない限りは全く問題ない。見張りが一人でいいというのは大きなアドバンテージだ……ポーレット単独の見張りは正直不安だが。
そして、エリスの索敵能力。多くの獣人を見てきたが、やはりエリスの索敵能力は頭一つどころか三つほど飛び抜けているという。リョータは普通の獣人がどの程度かほとんど知らないというか、エリスが普通だと思っているのだが、それがそもそも間違い。数百メートル単位でほぼ正確に何がどれだけいるかを把握してしまうなんて事はあり得ない。せいぜい数十メートルの前方に何かがこの位いるというのを大まかに把握するのが精々で、寝ていてもすぐに気付いて飛び起きるエリスはやはり規格外らしい。
「まあ、一番の規格外はリョータですけど」
「俺?」
リョータの単純な近接戦闘力は……ほぼ見た目通り。ラビットソードという底上げはあるが、身のこなしやリーチは見た目通りで突出したところはない。
だが、これが魔法となるとガラリと変わる。無詠唱で見た事もないような魔法が連発される。しかも広範囲かつ味方に当たらないように精密に制御して。そんなのは各国のトップである宮廷とか王宮とかが頭につくような魔術師でも不可能。少なくとも今までにポーレットが見てきた中ではSランク級の冒険者すら足元に及ばない程だと付け加えられた。
「なるほどねえ」
「あんまり実感なさそうな返事ですね」
「だって……なあ?」
「はい。最初からずっとこんな感じですから」
「やっぱり」
ポーレットがぺちと額に手を当てる。
「まあ、いいです。あくまでも今時点での予想でしかないので」
「おう。だけどポーレットもなかなかのモンだぞ」
「え?」
「そうですね。色々知ってて勉強になります。頼りにしてますよ」
エリスの一言でポーレットの表情がおかしくなった。コイツ、荷物運び以外で頼られるのってほとんどなかったんだろうな。
野営の間の見張りは三人が交代で行ったが、ホーンラビットがたまに襲ってくる程度で特に問題なし。と言うかあいつら夜中も活動してるのかよ、と新しい発見だった。ポーレットによると「当たり前の事ですよ」とのことだったが。




