色々と顛末
適当に宿をとって落ち着いてから読む事にする。
「ふーん」
「何が書かれていたんですか?」
「ああ、えっとな……まずは」
ストムがモンブールに仕掛けていた戦争の件。正直なところ、この情報は要らないのだが……今までのところ少しばかりの小競り合いはあるが、本格的な軍と軍のぶつかり合いには発展していない。今のところ様子見と言ったところ……ではなく、ストム側で魔の森素材が枯渇し始めて、まともに軍を動かしても勝ち目はない、と見ているのではないか?とアルジャックは結んでいる。傷の治療に使える薬草や武器の整備に使うような油脂、鉱石と言った物はいわば消耗品。鮮度が大事な物も多く、魔の森素材を輸入に頼っているストムはいきなり補給が断たれたような状況なのだ。
「補給を軽視するのはバカの所業……か」
「なんですか、それ?」
「何でも無い。次」
第三王子のもろもろの件。これはもう放っておけば良いのだが、続報として。ザック・ベグリーがかなり堂々と……文字通り白昼堂々、第三王子の企みを公表。腹の探り合い、だまし合いの経験の浅い第三王子は誰かに罪をなすりつける事も出来ないままに捕縛。もちろん、王族を捕縛するなど異例中の異例。だが、それが王位継承権者を暗殺しようと目論んだだけならまだ良いが、標的以外に害が及んだ上に、毒で苦しむ者を救おうとしたのを妨害し続けたのが悪手。言い逃れ出来ない状況を自ら作り上げてしまった形になり……処刑されたという。
「王族の処刑って……」
「少なくとも私が知る限りでは……ありませんね」
マルティとサディ殿下の件。これが意外な事に、OKが出たという。なんでも、危険を顧みずに魔の森へ向かい、薬を作り上げただけでなく、その投薬もひそかに、誰にも気付かれず、どういう手段を用いたかもわからないままに的確に行われた。しかも、その途中で第三王子派による妨害があったが、何の障害にもならなかったという……手腕が買われたらしい。
「リョータありきの方法を手腕とか」
「人材を探し出せる、見つけ出せるってのも才能だと思うが」
アルジャックからの伝言は……さらに続いていた。
マルティからは、いくら感謝してもしきれないとの言葉があり、今後この国で何か困った事があったらいつでも頼ってくれとのこと。
「王族の力を借りる気満々だな」
「アレ?そういうのも才能だって言ってませんでした?」
そして、一応は慣例に則って、婚約が結ばれた。その後の流れも慣例に則るのだが、結婚は一年から二年後になるという。そして、出来れば結婚式に参加して欲しいと。
これにエリスとポーレットはキャーキャーと騒ぎ出した。二人とも冒険者生活などしている上に奴隷の身ではあるが、女の子だという事だろう。
「リョータ!絶対に結婚式に出ようね!」
「えーと……」
「私と一緒に出るの……イヤ?」
「嫌ではないけど……」
上目遣いで言われたらイヤとは言えない。だが、色々面倒くさそうだな。マナーとか。
「えーと、さらに続いている……げっ」
ザック・ベグリーからの伝言が書かれていた。第三王子派を片っ端から捉えて処分しているが、アレで中々の人たらしだったらしく、派閥に結構な数を引き込んでいたという。洗い出しはなんとか完了しているが、所在の確認、捕縛にはまだ少し時間がかかり、下手をすると逆恨みした者がそちらに向かうかも知れない、と。
「自業自得というかなんというか……やめてくれ」
「どうするの?」
「エリス、すまないが、もうしばらく……この国を出るまでは警戒を続けてくれ」
「ん、わかった」
長旅で疲れたので、二、三日はゆっくりしてもいいと思っていたが、明日にでも出発しなければなるまい。
「とりあえず、メシ。そのあと買い出しだ」
「はいっ」
「はあ……わかりました」
気の抜けた返事をしたポーレットのこめかみがしばらくグリグリされたのは言うまでも無い。
「リョータ、後ろから五人」
「マジか」
翌朝、比較的出入りする人数の多い時間帯に人混みに紛れて街を出たのだが、あっさり追跡されていた。ディジにつくまで追跡がなかったのは、確実にリョータたちを確認してから追うためだろう。
「振り切る」
「不可能ですね……この先しばらく一本道です」
「撃退するしかないのか」
東、つまり国境を越える方向へ行く者はあまり多くない。襲撃された時に少々派手にやっても周囲を気にする必要は無いのは都合が良いと言えば良い。
「でもなぁ……撃退って、その後始末が大変なんだよな」
「そうですね」
現時点でエリスの索敵に引っかかっているのは五人。だが、実際にはその後方部隊もいるだろうから、戦い始めたら追加が来て……というそれだけでもまず面倒な流れがある。現時点でリョータの電撃魔法はあまり知られていない魔法だから、相手が何十人いようとも瞬時に無力化出来る。だが、そのまま放置していくと、いずれ復活し、人数を増やして追ってくるだけで何の解決にもならない。
では、殺した場合は?まさか死体を放置していくわけにも行かないだろうから、どこかに埋めるしかないのだが、こんな街道沿いでそんな事をしていたらすぐに誰かに見つかる。何があったか弁明するのが面倒だ。
「どこかに開けていてあらかじめ落とし穴を用意しておいても気付かれにくそうな場所があれば一番いいんだが」
「リョータ、あそこなんてどうかな?」
「ん?」
少し先行していたエリスがちょうど坂を登り切ったところで、遠くに少し開けた場所を見つけてきた。
「よし、少し急ぐぞ」
さっさとこの国を出たいと言うのと、面倒事を片付けたい。二つの意味で急ぎたい。
「よし、悪くないな」
サッカー場くらいの広さがあれば、隠れて近づいていきなり不意打ちは不可能。周囲にある木々もまばらで、隠れて矢を撃つために移動してきたら丸見え。魔法も然り。そもそもエリスの索敵をくぐり抜けるだけでも大変だろうし。
あとはどうやって撃退するか……一番手軽なのは落とし穴方式だろう。
リョータの魔法なら一瞬で穴を掘れるから、落とし穴に気づかれる心配は要らないし、落としたあとにすぐに塞いでしまえば片付けも楽々。
迎撃ポイントをどうするかと考えていると、エリスの耳がピンと立った。
「リョータ、追っ手が戻っていくよ」
「へ?」
どういうことだ?とエリスを見つめるが……いや、見つめてどうなるものでもないか。
「他に何かわかる?」
「チラッとだけ……『これ以上は』とか『がいこうもんだいに』とか聞こえたかな」
「ん……もしかして……ポーレット、ここってモリコナを出たくらいの位置か?」
「私も国境線の詳しい位置まではわかりませんが……多分そうですね」
リョータたちはただの旅の冒険者。国境を越えるのはランク的には申し分ない。だが、貴族が私兵を差し向けるのは?人数規模と、追っている相手、目的を明らかにするならなんとかなるかも知れない。だが、冒険者を私的な理由で追ってます。私的な理由とは何かって?逆恨みです、と言うか追ってる理由を明らかにするのはNGです。でも追いかけます。
ダメだな。他国への侵略行為と見なされてもおかしくない。
追ってきた連中が引き返していったのは、そんなところが理由だろう。
「まあ、コレで追ってこなくなるならありがたいけど、少し様子を見るか」




