やっと片付いた?
ギルドではロクに尋問も出来なかったらしいが、貴族が連れて行くのならそれなりに丁寧な尋問がされるから、誰の指示なのかすぐにわかるだろう。
「それに、冒険者ギルドのマスターの自宅を襲撃だぞ?王族と言えど、それなりの処分が下るはずだ」
「仮に……仮にですけど、第三王子が糸を引いているとしても、直接指示を出すのは下っ端では?」
「そこも抜かりはない、と聞いている」
「もしかして、ベグリー家ってとんでもない家だったり?」
「そうだな。少なくともモリコナ国内であの家に楯突く貴族はいないと思う」
制度によっては公爵クラスか。
「ま、明日の朝までには決着がつくだろう」
「それはそれですごいですね」
そして、アルジャックの予想通り、翌朝出発直前にベグリー家からの連絡が入った。
「黒幕は第三王子で確定……ではないらしい」
「え?」
「実際には第三王子を唆した者がいると」
「うわあ……」
「ま、これ以上首を突っ込みたくないだろうからあまり詳しくは言わないが、第三王子派は壊滅だな」
「残り五日間、安心して通えるわけですね」
「普通は城に入れない奴が通っている時点で色々おかしいんだが」
アルジャックのぼやきは聞こえなかった事にして、日課をこなして行こう。
朝の訪問時は特に何事もなかったのだが、昼の訪問時、マルティが薬を飲ませている間にアニエスに呼ばれた。
「城内が少々騒がしいのですが」
「少々と言われてもですね」
「もう少しはっきりと言いますと、第三王子とその派閥貴族が集められて、その……」
「捕らえられた?」
「はっきりと確認はしておりませんが、おそらく」
「ふーん」
「ふーんって、仮にも王族とそれを支援している貴族ですよ?」
「すみませんが、私はこの国の出身どころか、通りがかっただけの者でして」
「そ、そうですか」
「はい。ですので、この国の貴族がどうのと言われても、いまいちピンとこないのです」
「はあ……」
アニエスが、薬を飲んだあとに体調はどうか?なんてことを話している二人の方をそっと見る。
「とりあえず、安全になった……のでしょうか?」
「おそらくは」
母親が同じ上に、かなり溺愛しているという第二王子が何かをするとは思えない。
では第一王子は?黙っていても王になれるならどっしり構えているだろう。
「そうですか」
「好きなんですね」
「え?」
「サディ殿下のことが」
「え?は?いえっ!そのっ!」
コイツもか!
この国の他の王族がどんな方か、見たこともないから何とも言えないが、確かにかなりの美人だし、物腰も柔らかい。ある程度の付き合いがあれば、誰彼構わず惹きつけそう、とも言えるが……時にそれは、カリスマと錯覚されることもあり、思慮の足りない者が勝手に危険視するということもあるのだろうか?
「とりあえずの危険人物はどうにか排除できたと思いますが、警戒は怠らないようにお願いします」
「わかりました。お任せください。そして、引き続きお願い致します」
深々と頭を下げられてしまったが、薬を作ったのも飲ませてるのもマルティだってこと、忘れないで欲しい。
第三王子派が一斉に捕まったと言っても、王女付きの侍女が噂で聞いたレベルでしかなく、それ以上を確認するすべもないので警戒は継続。だが、エリスが周囲を探っても、アルジャックの家周辺を監視している者はおらず、城への行き来も特に問題はなく、順調に投薬が続けられ……
「そうですね。これで大丈夫でしょう」
「本当にありがとうございます」
「ただ、ずっと寝たきりでしたから、少しずつ体を慣らしていきましょう。食事の方も……」
これで城への訪問は終了になる。
「本当にありがとうございました」
改めて頭を下げるアニエスに、小さな壺を渡す。
「これは?」
「一人分の薬です」
「……」
「第二王子に渡るように出来ますか?」
「っ!それは……わかりました」
念のため、と言う奴だ。
第二王子は第一王子に負けず劣らず聡明だと聞いているから、うまく使うだろう。
それに、あと三人分ほどがマルティの手元に残っている。使い方を誤ると身の破滅を招く代物だが、そこはうまいことやりくりしてもらおう。
「それではこれで失礼します。それと、最初に話したとおり、この布は燃やして捨ててください」
「わかりました」
アルジャック家に戻り、こちら側の魔方陣はすぐに焼却する。
アニエスが何らかの思惑を持って行動しようとした場合、転移魔方陣はいろいろと使い道がある。だが、対になる魔方陣がないと全く効果がないし、そもそも起動する方法すら知らないだろうから、ただの不思議な模様を描いた布だな。
「それじゃ、送り届けてくる。ギルドで待ってろ」
「わかりました」
アルジャックが一家全員を馬車で送り届けるのを見送る。
「ギルドに行くと……色々あるんだろうなぁ」
「ですねぇ」
エリスとしみじみ語っていたのだが、
「でも報酬は頂かないと!」
ポーレットはぶれないな。まあ、報酬はもらうけど。
アルジャックが戻ってきたところで、報酬その他の話をつける。
「まずこれが、元々のロックベア素材採取の報酬だ」
依頼票に書かれたとおりに置かれる。
「次が、手紙の配達……これ、ギルドからの持ち出しなんだがな……」
渋々といった感じで置かれるのだが、それをリョータたちに言われても。
「ま、本来はここまでなんだが……ベグリー家から今回の件で特別報酬が出ている」
「へ?」
「名目としては、国内の不穏分子捕縛の賞金だ」
そう言って中金貨が置かれた。
「ちなみにギルドにも同額支払われた」
「……かなりの黒字では?」
「まあな」
もちろん、ギルドが年間に稼ぐ額から比較すれば小さいだろうが、一つの案件で稼いだとみればかなりの額だろう。
「それとこれが、マルティ・ラグリスからの手紙だ」
「手紙?」
「おそらく今回の件についての礼が書かれているんだろうが……律儀な男だな」
中身はあとで読むとして、封をされた手紙を受け取る。
「そして、追加。ベグリーからの裏情報だが……国として報奨金を出す用意があるらしい。色々あるからひと月ほどかかるらしいが」
「裏情報?」
「ある意味第三王子が仕掛けたクーデターのようなもんだ。おおっぴらには出来ないってことさ」
「その報奨金をもらったら、国から出られなくなるとかありません?」
「無いと思うがな……」
断言してくれよ。思うだけかよ。
「それじゃ、そういうことで」
「待て、話は終わってないぞ。どこへ行く?」
話を切り上げようとして立ち上がったら止められた。
「元々、さっさと通り抜けようとしていたところだったのを、仕方なく引き受けた依頼なのでさっさと出発したいんですが」
「しかしだな」
「ならこうしましょう」
「ん?」
「報奨金は全部ギルドに寄付で」
「おいおい……」
「その代わりと言っちゃあ何ですが」
後にポーレットは語る。このときのリョータは、たいそう悪い笑顔だったと。
「俺たちが色々動いたこと、秘密にしてもらえません?」
少なくともラグリス家とベグリー家には知られているが、肝心のサディ王女も王女付きの侍女も、リョータの顔はロクに見ていない。
ラグリス家とベグリー家は話を通しておけば、リョータたちについての追及があったとしても、知らぬ存ぜぬを通してくれるだろう。
あとはギルドもそうしてくれれば。
「わかった……ったく、報奨金、きっと大金貨数枚レベルだぞ?」
「必要そうに見えます?」
「私は必要です!」
ポーレットの魂の叫びはスルーした。




