表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
  作者: ひじきとコロッケ
モリコナ
141/345

襲撃されたので撃退した

「なるほど。薬師ギルドの作業部屋は確認するまでもなく、か」

「うん、多分中に三人は潜んでいたと思う。だから逃げてきちゃった……」


 歩きながら何があったか確認したところ、薬師ギルドに向かったがすぐに引き返してきたとの事。妹さんに協力してもらう話もあるし。相手を確認せずに戻ってきたのを申し訳なさそうに言うするエリスの頭をなでる。


「気にしなくていいよ。むしろ、よく気付いて引き返した」

「そう……なの?」

「ああ。幾らエリスでも三人相手にマルティさんを守りながらってのは危険だからね」


 にへら、と笑顔になるので少し強めにワシャワシャする。柔らかい毛並みが気持ちいい。俺にとっての優先順位は言うまでも無くエリス>越えられない壁>マルティ。ポーレット?壁の中にいるんじゃないかな?

 さて、仕方ないのでマルティの自宅に向かうか。


「さて、薬師ギルドがどこまで腐ってんのかわからないけど、あとは妹さんの伝手、ですね」

「そうだな。あ、そこを右。あと少しで着くよ」




「なるほどね……話はだいたいわかりました」


 貴族と言っても、末端となるとその家は比較的つつましい上に、警備らしい警備もなく、むしろシーサーペントを討伐するほどの冒険者なら大歓迎と言わんばかりに歓迎された。そして事情が事情なので、マルティの妹、シシィとの話し合いの場が持たれた。一応、マルティの両親、つまりヤナオ・ラグリスも同席だ。え?敬称?爵位すらないくらいに末端らしい。


「確かにサディ殿下は二ヶ月ほど前から学院を休学しています。みんな心配しているのですが、そう言う事だったなんて」


 顔を曇らせるシシィにヤナオが付け加える。


「だが、薬が出来ましたと言って、気軽に行けるものでもないな」

「そうね」


 もっと力のある貴族ならあれやこれや出来るのだろうが、と言う意味だな。確かに上級貴族なら「お見舞い」というのも貴族の付き合いと言う事で可能なんだろうが、ラグリス家の場合には「木っ端貴族が……身の程をわきまえろ」と門前払いを食らうのだろう。


「ですが……うーん……よし、決めた」

「決めたって何を?」

「サディ殿下って、気さくで誰にでも親しくしてくださる、とても良い方なの」

「ほう」

「だから、学院には殿下が突然休んでしまった事を心配している友人が大勢います。その中で信用出来て、実家がそれなりに力がある、そういう子に連絡を取ってみます」

「おお!」


 マルティさん、顔に出すぎです。

 だが、かすかに道がつながったかな。

「では早速」と手紙を書くため部屋を出て行くシシィさんを見送り、さらにこの後の動きについてヤナオさんが色々と懸念していた。木っ端貴族と言われていても、一応は王族の血を引いているだけあると感心した。


「さて、リョータ殿。今回の件、片付くまでの間、我々家族が少々危険になる、と言う認識をしているのだが」

「おそらく、としか言えませんが」

「フム、となると……」

「参考程度ですが、仮に……仮に第三王子として、彼らの派閥が色々やっているとした場合……信用出来る、出来ないの区別って」

「ある程度はね。娘の心当たりもだいたい予想はつく。だが、その他となるとなかなか難しいな」

「難しい?」

「第三王子派はいわば新興勢力だ。何しろ成人したばかりだからね。第一王子、第二王子派は比較的わかりやすいんだが、そこに潜り込んで結構な数を引き込んでいるらしい。そして、それが誰なのか……」

「なるほど。昨日までは第一王子派でしたが今日からは第三王子派です、というのがあり得ると」

「そう言う事。娘の心当たりは問題ないが、その他は何とも」


 ヤレヤレ、面倒な事になってきたな。


「そこで、無礼を承知でお願いしたい」

「え?」

「おそらく、娘からの連絡で、色々動けば……早ければ明日にでも薬を届ける事が可能になる」

「意外に早いですね」

「それだけのコネを使うと言う事だ。だが、その分目立つ」

「なるほど。つまり、投薬が終わるまでの十日間の安全確保がしたい」

「ご名答。正式な依頼はこの後すぐに出すが、私たちの護衛をお願いしたい」

「ふむ」

「もちろん、報酬は正規の金額に色を付けることを約束しよう」


 十日間の護衛って結構な額になるけど、払えるんだろうか?ま、いいか。そのくらいはどうにか出来るくらいには資産があるんだろう。一応は先祖をたどると王族になるというお貴族様なんだし。

 それに、これを機にのし上がっていけるのなら護衛にかかる費用など(はした)金、と考えているのか。確かにうまく行けば王族に恩を売れるし、第二王子の覚えも良くなるだろう。あれ?でも、色々と証拠が出揃ったら相手は窮地に立たされる。となると、全力で潰しにかかって来そうじゃないか。護衛が面倒になりそうだな。


「護衛を引き受けるのはいいのですが、かなりの妨害工作が予想されます。正直なところ、普段どおりの生活を送ろうとしたら守りきれません」

「でしょうな」


 ウンウン、とうなずかれたが、当然承知していたという感じだな。自分たちが危険な橋を渡ろうとしているって気づいていながらも進むことを選んでいるのか。貴族って怖いな。


「現時点では完成した薬を持ち込まない限りはどうにもならないから、薬を狙っているのでしょう。しかし、投薬が始まったら……投薬自体の妨害もする。そして、見せしめの意味も込めて我々も、といったところでしょうな」


 うーん、そんな短絡的なことをするかな、とも思う。薬だけを狙っているなら、色々と握りつぶすことも出来るだろうけど、末端とは言え貴族を襲撃したら、誰がやったかを隠すのも難しくなっていくはずだ。

 そうなると、「守る」ために、全員工房に連れて行くのがお手軽かな。秘密を守ってもらうのは少々面倒になりそうだけど、この街を去るときに転移魔法陣を壊してしまえば問題ないだろうし。

 そう思って提案しようとしたら、エリスの耳がピンと立ち、尻尾が二回。


「エリス?」

「あの、この家の二階って」

「ん?それぞれの部屋があるけど」

「シシィさんも?」

「まさかっ!」

「エリス、外へ!」


 声を聞くが早いか、エリスがすぐに部屋を飛び出していく。リョータもすぐに後を追うが、部屋を出た時点でエリスが玄関を出た音が聞こえた。相変わらず足が速い。

 そしてすぐに外で声が聞こえ、剣戟(けんげき)の音がする。


「ポーレットは残れ!その剣(ラビットソード)があれば負けることはないだろ!」

「え?ええええっ!」


 振り回すだけで鉄すら切り裂く剣だからな。

 玄関を出ると、三人の軽装の男とエリスが切り結んでいる。一人が猿轡(さるぐつわ)して縛り上げたシシィさんを抱えている時点で、もう色々とアレだな。ついでに、切り結んでいるというのは表現がおかしいか。男たちが持っている剣は全部根元から斬れちゃってるから。

 さて、巻き込んでしまうのは後で謝るとして、


「スタンガン」


 バチンという音とともに、男たちが硬直し、ゆっくりと崩れ落ちる。エリスが慌ててシシィさんを抱きかかえてこちらに。


「エリス、ありがと」

「うんっ」


 さて、この男どもはどうしたらいいんだろう……ん?


「リョータ、馬車が逃げていくよ!」

「了解」


 倒れてる連中を飛び越して道路へ。なるほど馬車が全力で逃走開始。わかりやすいというか、考えが浅いというか。まだ射程距離なんだよな。馬はかわいそうだが……


「スタンガン、強め」


 幸い近くを歩いている人もいないので、少し強めにかけると馬車を引いていた二頭の馬が転倒、引きずられるように馬車が倒れ、御者が放り出された。


「大丈夫?」

「ああ。あそこで倒れてる。ちょっと回収してくる、中へ」

「うんっ」


 御者と馬車に乗っていたもう一人を縛り上げて屋敷に引きずり込み、侵入してきていた三人とともに転がしておく。馬車は……馬が意外に早く復活したので引いてきて屋敷の前に停める。で、どうしたらいいのか全く見当がつかなくなってきたので、エリスを護衛に残し、ギルドへ向かう。

 この状況で追加の襲撃が来るとは考えづらいが、万一のときは「正当防衛、容赦なく斬り捨てていいから」と言っておいた。ラビットソードで殺さないように戦うって難しいからな。

 ああ、エリスの脚力なら蹴るだけで気絶……無理だな。骨折で済めばラッキーという未来しか見えない。

連休モード終了です。

つまり、次の更新は普通に土曜日です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ