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  作者: ひじきとコロッケ
ヘルメス
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ギフト

「隠さなくてもよいと言われていましたけど、必要なければ伝えなくても良いと思っていたのです……」


 ゴクリ


「あの四人を目標にするのはやめた方が良いです」

「はあ……」

「リョータさん、ギフトというのはご存じですか?」

「ギフト?」

「ええ。ギフトとは、言うなれば神から与えられた特別な才能、です」


 ラノベじゃ定番のアレか。


「例えば支部長もギフト持ちと言われています」

「ああ、ミノタウロスと格闘したとか」

「言うなれば頑健とか、頑強とかでしょうか。本気になった支部長には普通の武器での攻撃は意味が無いそうです」


 防御特化の能力(ギフト)か。


「人間でギフトを持っているのはかなり珍しいのですが、獣人の場合、ギフト持ちは多くて、あの四人は全員ギフトを持っているそうです」

「そうです……?」

「『ギフトがあります』ってわかる物はなくて、何となく体の奥からわいてくる力、と言うそんな感じだそうです」

「ああ」


 ステータスを見るとかそう言うのがないからわからないんだよな。


「リナさんは『剛力』とでも言えばいいのでしょうか。リョータさんの研修の時に、フォレストベアを狩ってますけど、彼女が本気で殴ったら、フォレストベアは……」

「ベアは……?」

「ただの地面の染みになります」

「マジですか?!」

「……実際に見ましたから」

「そうですか」

「ただ、加減が難しいそうですよ?」


 もしかして、初心者研修の時、命の危険があったのではないだろうか……放り投げられたり、締め上げられたり。


「ステラさんは『精密射撃』ですね。聞いた話ですけど、三百メートル以内で彼女が外すことはないそうです」

「……」

「ちなみに故郷の村の祭りで、百メートル程離れた所にリナさんが立って頭の上にリンゴを乗せて」

「射抜くんですか」

「いえ、皮一枚ずつ削って行って最終的には全部皮をむいてしまうそうです」

「え?!」


 そう言えば二本同時に矢を撃っていたが、そのくらいは朝飯前という感じなのだろう。


「ナタリーさんは『賢者』です。獣人は魔法を使うのが苦手なのですが、とんでもない魔力の持ち主です。まあ、彼女に魔法を教えた人が雑だったらしくて大ざっぱな魔法しか使えないそうですけど」

「そう言えばそんなことを言っていたような」

「ちなみに、例のリンゴの木の向こう側に大きな穴が開いてますよ。ナタリーさんが放った爆発魔法で開いた穴が」

「……あまり見たくないですね」


 王宮の魔術師としてスカウトされたとか言ってたな。放り投げられた俺を風の魔法で助けてくれたし、ホーンラビットの解体の時に埋めるための大穴をあっさり開けていた。実はすごい人だったんだな。


「シエラさんは『縮地』ですね。百メートルくらいの距離は、移動に時間がかかりません」

「は?」


 支部長を背後から蹴ったり、街まで異常な速さで往復したりしたのはそれか。


「応用すると魔物を解体するナイフの動き全体をゼロ秒にできるとか」

「ああ……フォレストベアも一瞬で解体してましたね」


 (かな)うわけがない。


「四人とも規格外だったんですね……」

「それに、あの四人は『生まれ故郷の村を守る』と言う目的のために冒険者になり、腕を磨いています。そして、その目的のために、Cランクより上を目指していません」

「なるほど」


 冒険者として目指すもの、生まれ持った能力、色々と向いている方向性とかそう言うのが違いすぎるという意味で、あの四人は性格的にも能力的にも尊敬に値する一方で、目標にするには少し違うと言うことか。


「あの四人の生まれた村はここから馬車で二週間程かかりますが、支部長の『初心者研修』の噂を聞きつけてここにやって来たんです。基礎からしっかり身につけたい、と」


 基礎をしっかり学んでいるからこそ、目的を見失うことなく進んでいける。そして、基礎がしっかりしているからこそ、誰かに教えることも出来る。改めてすごい人たちに教えてもらったのだと感謝する。


「ありがとうございました」

「いえいえ」


 ギフトについてはガイドブックに書かれていたのが見つかった。体内の魔力が特定の器官に作用してその能力――筋力だったり、何かの感覚だったり――が大幅に強化されるというのがギフト。ただし、そのギフトに全ての魔力が持って行かれるので、いわゆる『魔法』が使えなかったり、制限がかかったりする。ナタリーの場合は、『魔法を使うために必要な感覚』が強化されているという例外タイプに該当するために魔法は使えるが、「小さな魔法を使う」と言うコントロールが苦手といったところらしい。

 つまり、神が俺にチート能力(ギフト)を与えた場合……魔法が使えないという事態になっていた可能性が高い。そう言う意味では感謝だな。


 翌日は土砂降りの雨だったので、部屋でゴロゴロ過ごす……わけがない。午前中はロープの結び方練習。午後からはギルドの裏庭へ行き、こっそり魔法の練習。魔力のコントロールになれるためにも休まず続けるべきだと考えて。雨が降っていると水魔法の練習がしやすい。少々派手に水を作り出しても、バレにくいという程度だが。


 そして翌日、からりと晴れ上がった空の下、リョータは魔の森を普段と違う方向へ向かって歩いていた。

 普段は森に入り少し東に進むとすぐに北東方向へ進んでいたのだが、今日は南東方向。


「お、あった」


 縦横二十メートル程、高さ十メートル程の丸い小山。そこが今日の目的地だった。


「確かに昨夜聞いた通りの感じだな」


 昨夜、夕食の時に相席となった冒険者から聞いた場所にあったのがこの小山。そしてその麓には実に人工的な穴が開いていた。四角く、石造りの壁で囲まれたその入り口を入ると、部屋が一つある。縦横五メートル程、高さは三メートル程。そしてその奥にさらに通路があり、同じくらいの大きさの部屋がある。

 ここにあるのはたったそれだけ。明かりがないからあまりよく見えないけど。

 明らかに人工建造物で、ダンジョンと言うことになっているのだが、これだけしかないので、誰もこれ以上調べていないという。

 全面石造り。床に少し落ち葉や木の枝がある程度。これなら火の魔法が暴発しても延焼することはないだろう。火の魔法を試すにはこれ以上無いくらいよい場所だ。


「よし、やってみるか」


 道中狩ってきたホーンラビットの他、荷物を入れた袋を通路に置いてから、部屋の中央に立つ。通路から入る光だけの暗い部屋の中、いつも通り自然体になる。


 魔素が酸素と同等、つまり燃える材料としては最適なわけで、火の魔法はわずかな魔力でも威力の大きな魔法になる、という予想をしていた。実際、他の冒険者の話を聞いても、「攻撃魔法は火魔法が一番強力だ」という話をよく聞く。

 そして俺の魔法は、『魔法の本当』に従っているので、普通の冒険者よりも少ない魔力で大きな効果を引き出しているはず。だから、ここで試しに撃つ火魔法も結構な威力になるはず。程々にしないと俺が吹き飛ぶので、注意しないとな。

 石の床の上に落ちている落ち葉にほんの少しライター程度の大きさの火を()けるだけにしよう。


 イメージは固まったので魔力を流し込む。


 ……のだが、妙に魔力が吸い取られていく感じがする。イメージとしては小さい火のはずなのだが、思った以上に大きな火になってしまうのだろうか。マズい、止めた方が良いか?いやこのままだ。一回使ってみて感触をつかんでおくのも大事だと思う。イメージ通りに行こう。

 ゆっくりと目を開け、落ち葉を見て魔法を発動させる。


「火よ!」


 その瞬間、『火を点ける』イメージが強制的に何かで上書きされ、視界がいきなり明るくなった。

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