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  作者: ひじきとコロッケ
モリコナ
139/346

貴族はやはり面倒くさい その2

「えーと……大猟……ですね」

「ええ、頑張りました」


 マルティの護衛にエリスを付けて先に街の外へ向かってもらい、ポーレットと共にギルドでロックベアの買い取り依頼をするが、明らかに不審そうな表情をしている。


「あの……今朝の依頼、受けてないのにロックベアを?」

「いけませんか?」

「いえ、そんなことはありませんが」

「ならいいでしょ?結構高く買い取ってもらえるので助かるし」

「そうですか」

「ああ、それと」

「何でしょうか?」

「まだ街にはいますが、宿は引き払います」

「え?あの、ちょっと……」

「引き払います」


 今から工房に籠もるんだから、宿は不要だろう。詳細を言うつもりは無いけど。




 買い取りを終えると街の外へ出てエリスたちと合流し、街道を少し進んでから森へ入ると、あらかじめ設置しておいた転移魔法陣へ。


「ここへ乗って下さい」

「これ……魔法陣?ダンジョンでたまに見かけるとか聞いた事があるけど、実物を見るのは初めてだな」

「詳細はお教え出来ませんが、これから安全な場所へ移動します」

「安全な場所?」

「はい。安全かつ秘密の場所です。そこで薬を完成させましょう」

「わかった。何から何まで世話になるが、頼む」


 そして転移したら転移したで、


「この方角に海があると言うことは……大陸西部?」

「まあ、そうなりますね」

「詳細は聞かないでおくよ」

「ありがとうございます」


 マルティは薬師ギルドの職員という以前に王国の貴族だから、長距離を一瞬で移動するという技術が持つ意味を庶民のリョータ以上に理解しているだろう。しかしその一方で、その詳細を確認しようとしたり、秘密だと言っていることを漏らしたりしたらどうなるかというのも理解しているはずだ。そして、ロックベアという魔物がどれほどの強さかというのも知っている。リョータとエリスはそんな魔物をほぼ一撃で倒してしまうほどの腕前。そんな彼らがせっかく友好的に接してくれているのだから、それを壊すようなマネをしたくはない。そのくらいは考え、秘密にすべきと判断した。その判断が自身にとっても、王国にとっても正しいと願いながら。




「少し不便かも知れませんが、必要な物があったら言って下さい。街まで買いに行くので」

「ありがとう。だが、すごいところだな」


 工房に入るための転移はさすがにもう驚かなかったが、岩山をくりぬいて造られた工房には驚いていたので、リョータ的には満足だ。そして、奥の保管庫は色々とマズい場所なので入らないように注意しておき、調合に使えそうな部屋を一つ割り当てた。そしてついでに、


「ポーレット、マルティさんの手伝いをしてくれるか?」

「え……私がですか」


 嫌そうな顔をするなよ。


「一日あたり中銀貨一枚の返済としよう」

「お任せ下さい」


 さて、俺とエリスは……少しエリスの魔法の練習でもするかね。




「マルティさんからです。完成したと」

「おお!」


 宣言通り、十日で薬が完成した。赤い色の粉薬で、スプーン一杯程度を日に三回、十日も飲めば全快するという特効薬の完成にマルティが「やった!やったぞ!」と小躍りしている。


「早速街に戻りますか?」

「ああ。少しでも早く処方した方がいいからね」

「それじゃ、エリス、ポーレット」

「はい」

「ここの片付けをして、荷物を持ってきて。先に行くから」

「わかりました」


 モリコナ近くに転移し、街へ向かう間に、一つだけ懸念を話しておく。


「この薬、どうするんですか?」

「どうって……?」

「マルティさんが直接サディ殿下に飲ませるってことはないんですよね?」

「そうだね」

「そうすると、また事故(・・)が起こるかも知れませんが」

「ふむ、そうだな」

「勝手な推測ですが、薬師ギルドの上層部も信用出来ないと思いますよ?」

「それは……色々と疎い私でもそう思うよ。警備が薄いとは言え、ギルド内に入り込んで部屋を荒らされたのに、特に何も動いてもらえない時点でね」

「ではどうします?」


 はっきり言って、冒険者ギルドも信用出来るとは言い(がた)い。冒険者ギルドは国から独立した組織だが、上層部が貴族とつながりを作ってはいけないという決まりもない。むしろ、貴族や王族とつながりがあった方が何かと便利なことも多いし、実際ラウアールのギルドマスターのように貴族の一員として名を連ねているのも珍しいことではない。問題はそのつながりのある貴族がマルティの仕事を妨害する立ち位置なのかどうかだが、それを調べる余裕もないし、調べるという動きもマズい。


「サディ殿下に薬を飲ませるとしたら、誰が?」

「王女付の侍女だね。会ったことも無いし、名前も知らないけど」

「そういう意味ではなくて」

「言いたいことはわかる。だが、その侍女すら怪しんだ方がいいという意味だよ」

「え?この国、そこまで腐ってるの?」

「そこはなんとも言えないが、相手がなりふり構わなくなったらどう出るか……」

「なるほど」

「ちなみに王族の薬の処方の責任者となると宮廷薬師。この薬も彼の手を一旦経由する」

「その方は信用出来る方ですか?」

「正直なところ、何とも。実直な人物とは聞いているが……最近借金ができたらしく、その返済のためにどこかの貴族が支援したとかいう噂がある」

「メチャクチャ怪しいですよね?」

「そうなんだよ。どこかの貴族というのがなんともね」

「いえ、そこではなく」

「え?」

「実直な人物に借金ができるってところが」

「鋭いね。そこも確かに」


 実にわかりやすい動きだ。そして黒幕連中がバカなら話は楽なのだが、わかりやすい動きに意識を向けさせて、裏で色々と細かいところに細工している可能性が捨てられないという。それにそもそもとして、リョータが貴族云々(うんぬん)に関わろうとしても……ただの平民にできることなどたかが知れているどころか、何ができるかと言われても思いつく物がない。


「最終目標というか、最低限の目標がサディ殿下に薬を飲ませること。これは絶対にブレてはいけない」


 マルティが頷く。


「そしてそのためには……冒険者ギルドの依頼云々は後回し。そして、マルティさんが薬を作ったという事実も……もみ消されてもやむ無しとする、でいいんですか?」

「構わないよ。名声を得たいかと言われれば欲しいと答えるけど、本来の目的を見失ってまで欲しいものでもない」

「では……質問。サディ殿下と親しく、薬を渡しても心配ないという人物はいますか?」

「わかりやすいところでは第三妃ことロレリア妃。実の母親だからね。あとは第二王子ドニールと第二王女ジアナ。それぞれ実の兄と姉で、サディ殿下を溺愛しているというのは割とよく知られている」

「理想としてはその三人のいずれかに接触して薬を渡せればいいんですが」

「さすがに妃は無理だな。私の母が友人と言っても、王妃になってからは気軽に会える仲ではなくなってしまっている。この状況下では特にね。私程度ではお目通り願ってもかなうのは三年後とかになりそうだ」

「それじゃ意味ないですね」

「第二王子も個人的につながりが薄くて厳しいかな。それに今は仕事で王都にいない」


 いわゆる帝王学と言う奴で、国内の街を見て回り、政治とは何ぞやというのを肌で感じ取る……と言う事らしい。


「そして第二王女は私の妹が貴族学院の同級生で顔なじみ」

「それでいきましょう」

「え?」

「確認ですが、王位継承順位は第一王子、第二王子、第一王女、第三王子……つまり、第二王女は下位、でいいんですよね?」

「うん、合ってるよ」

「この状況下でサディ殿下を助け、さらに薬が残っているというのはこれから先も毒による暗殺が続くと仮定した場合、第二王子は権力的にはありがたいですが、うかつに近寄れません」

こういう系統の話がスラスラ書ける人ってすごいと思う。

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