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  作者: ひじきとコロッケ
モリコナ
136/347

依頼完了?

「マルティさん、少し大変なところ申し訳ないですが、ロックベアの状態だけ見てもらえます?」

「はぁ……はぁ……あ、ああ、うん。見よう……えーと……え?うん……これは……うん!うん!」


 若干、顔色が悪いままだが目の色だけが興奮した感じに変わった。


「いい!いいよ!最高だ!」

「良し!それじゃ早速!」

「そうしよう。私の道具はそこだな」


 ガサゴソとリョータがさっきまで背負っていた荷物を広げ、色々な道具を並べていく。


「俺たちに手伝えること、ありますか?」

「ロックベアの解体を手伝ってくれ。このサイズは一人では時間がかかる」

「わかりました。エリス、周囲の警戒を頼む」

「はい」

「ポーレットは俺と一緒にマルティさんの手伝い」

「わかりました」


 適材適所。指示を出したらラビットナイフを取り出してマルティの指示に従う。


「じゃあ、頼むよ。まずこことここに印を付けて……」


 マルティの道具から印を付けるペンを出して言われた場所に×印を付ける。付けたあたりには刃を入れないように、と言う目印だ。


「ここからここまで切って、ここも切って。これできれいに開けるから」

「はい。ここから……ここへ、と」

「うんうん……って、えええええええっ!」

「え?何?何かマズかったです?」


 まさか、切りすぎた?


「そ……そそそそ……その切れ味はなんだい?!」

「あ」


 そっちか。


「えーとですね。冒険者には色々秘密がありまして」

「それはそうだろうけど……ロックベアの皮をスパスパと切り開くナイフなんて見たことがないよ?」

「マルティさん、リョータの持ってる物はだいたいこんな感じなので、そういうものだと諦めてください」

「そうなのかい?」

「諦めるって……ポーレットの言い方がちょっと辛辣……あとでお仕置きな」

「そんなご無体な」


 小芝居を入れながら解体は進む。


「うーん、ロックベアの解体は何度か経験があるけど、あばらも胸骨もスパスパ切り裂くとは」

「普通はどうするんですか?」

「こういうノコギリの登場だね」

「そりゃ時間がかかりそうだ」

「うん。そういう意味では実に助かるよ」


 解体にかかる時間が短いということはそれだけ良い状態の素材になるということで、まだ解体中なのにしきりに感謝された。


「そーっとだぞ、そーっと出して……よし、ここへ」

「はい」

「次は……ここを切って……よし、ゆっくりと……トレイを出してくれるか?」

「はい、ここに」

「よし」


 取り出す物を取り出すとすぐに切り分けたり何かの液体を振りかけたりといった作業にかかる。ここから先にできることはせいぜい、風で舞った土埃がかからないように周りを布で覆うくらい。


「素晴らしい」

「え?」

「ロックベアの素材で、こんなに状態がいい物と言うのは見たことがない」

「へえ……」


 俺はロックベアなんて見たのも初めてだからよくわからんが。


「ま、それはそうでしょう」

「え?」

「血をほとんど流させず、心臓の動きだけを止める。そんな討伐ですからね」

「そうなのか?!」

「まあ……はい」

「そりゃすごいな!」

「そんなのができるのは世界中探してもリョータくらいだと思いますよ」

「うんうん、素晴らしい技術だ。そして、ありがたい。最高の素材を獲得出来たんだ。最高の薬にしてみせる。それが出来なきゃ薬師の恥だ」


 マルティも上機嫌で作業が進み、三十分もしないうちに大きな瓶に詰められ厳重にフタがされた。


「これで三日間寝かせる。そのあとも色々工程があって全体で十日ほどかかるが、続きは街に戻ってから」

「そうですか」

「実にいい素材だ。最高級品ができる予感しかないよ」

「それはまたなんとも……良かったです」


 マルティがテキパキと道具を片付けている間、ポーレットと手分けしてロックベアの解体を行う。薬としての素材価値はないが、肉と毛皮は需要があるので持って帰ろう。




「それではこれで」

「うん。ありがとう!」


 薬師ギルドの前でマルティと別れ、その足で冒険者ギルドへ向かい、依頼完了の報告とついでにロックベアの売却を済ませる。


「と言うことで、数日のうちに街を出ますので」

「えと……はい……残念です」


 受付嬢三人の恨めしそうな視線。そういう性癖持ちにはたまらないご褒美だろうけどな。


「予想以上に稼げたから晩飯はちょっと豪勢に行こうか」

「私としては借金の返済に充てたいのですけど」

「私は美味しいものが食べられればそれでいいな♪」


 ポーレットが集めた情報に基づき、ちょっぴり高いけどウマい店に行き、ちょっとだけいいものを食べる。頑張った自分たちへのご褒美って奴だな。




 翌朝、モーニングセットがいい感じという店で朝食を済ませて宿に戻ってきたら、ギルド職員が二人、待ち構えていた。


「……依頼はもう受けないと話したはずですが」

「それが……問題が起こりまして」

「問題?」

「これを」


 思わず渡された依頼票を受け取ってしまったが……受付日付は、今朝?で、ロックベアの素材採取?


「どういうことですか?」

「朝イチでマルティさんがこちらに。そしてこの依頼を出して行かれました。出来れば……その、リョータさんにお願いしたい、と」

「え?」


 何か手違いがあって材料が足りなかったとか?とポーレットを見るが、


「必要な素材は十分すぎるほどあったと思います。薬の調合は詳しくありませんが、作業も的確だったと思うのですが」

「そうだよな。採取素材も変わっていないし」

「さらに追加で必要になったとか?」

「……直接聞かないとわからないな」


 依頼票を職員に返し、「ちょっと様子を見てきます」と伝えて薬師ギルドへ向かう。そしてそのままマルティの仕事部屋へ向かうと、なかなか大変な状態の部屋で憔悴(しょうすい)しきった表情のマルティが片付けをしていた。そう、片付けが必要なほど、部屋の中は荒らされていた。


「マルティさん」

「リョータくんたちか……ああ、依頼を受けてくれるんだね。ありがとう」

「これは一体?」

「えっと……その、ついうっかりして……瓶を落としてしまって。それで……」

「瓶を落とした程度でこうなるんですか?」

「う……」


 陶製の瓶が床に転がっているが、明らかに蓋を外して中身をぶちまけたようになっているし、中身の上に他の液体や粉末をわざと振りかけたようにもなっている。それに、瓶を落としただけなら、瓶が割れているはずだが、無傷だ。


「えっとね……その」

「マルティさん」

「は、はい?」

「依頼の内容は……薬を作るためにロックベアの素材を採取、ですよね」

「うん。そう……だけど」

「薬が出来ていないと言うことは……依頼は完了していません」

「え?」

「依頼は完了していません。二人とも、そうだろ?」

「リョータがそう言うならそうだよね」

「はあ……ま、そう言うことになりますね」

「マルティさん、調合の道具や他の材料はありますか?」

「え?ああ、うん。あるよ」

「最初の加工のあとに使うものもすぐに用意出来ますか?」

「えーと、うん。あっちの棚にしまってある。少し足りないものがあるかも知れないが、ギルドの倉庫に行けば足りるはずだ」

「ではすぐに用意して下さい。エリス、マルティさんの手伝いを頼む」

「うん、わかった」

「ポーレット、魔の森に行く仕度を」

「了解です」

「マルティさん、準備ができたらエリスと魔の森へ。門で合流しましょう」

「ちょ、ちょっと待ってくれ。何が何だか」


 マルティさん、もう少しこう……空気読んで。

一応、いつも通り、土曜と祝日更新出来そうです。

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