王都で始まる羞恥プレイ(?)
「と言う状況なので、明日は朝イチで街を出るから」
「はい」
「はあ……何なんでしょうね」
エリスは別に冒険者ギルドの仕事のことなどどうでもいいと思っているし、ポーレットはポーレットであきれ顔だ。
「モリコナ全体で、こんなにも冒険者のレベルが落ちていたとは」
「え?」
「いえ、私はモリコナの魔の森に入る仕事はこの二十年ほど無かったのですが……聞いてる限りでは、かなりレベルの低い依頼がそのまま放置されているみたいですね」
「レベル……低いのか?依頼票は全然見てなかったけど」
「普通に考えて、ベテランパーティを同行させるっておかしいですよね?」
「あ、そうか。俺たちに同行させるようなベテランがいるならそいつらにやらせろよってことか」
「そうです……多分、今この街にいる冒険者、一番上でもCランク数名ってところじゃ無いですかね。護衛で一緒に来ていた連中以外では」
「そして、腕のいい冒険者は船の護衛にばかり行ってしまう……ってことか」
産業構造の闇を見たような気がする。
「まあ、本当に困ったら王都の冒険者ギルドへ依頼が回されるでしょうから、放っておくというのは賛成です」
「そうだな。気にするだけ無駄だな」
「ま、このレベルの低さがこの街だけならいいんですけど」
翌朝、街を出ようとしたら数名のギルド職員が門で待ち構えていたが、事前に用意しておいた「依頼は一切受けません」と書いた紙を掲げて行進して事なきを得た。血の涙を流しそうな人がチラホラいたが、ポーレット曰く、
「あれ、関わりだしたら年単位でここにいる羽目になりますよ」
と言うことなので、逃げるのが正解だ。
街の外に出てしまえば、さすがにギルド職員も追ってこない。仕事もあるだろうしね。と言うことで、順調に旅は進む。何しろ街道に盗賊が出ることもほとんど無く、狼などの肉食動物もほとんど見かけないので、逆に時折茂みから出てくる鳥や鹿にホッとするほど。
途中で二日ほど雨で足止めを食ったりした程度で十日後には王都モリコナに到着した。
「見えてきましたね、アレがモリコナです」
「へえ。さすが王都と言うだけあってデカいな」
街へ入ろうとする列の最後尾につくが、長い列でもないのでそれほど待たずには入れるだろうと思いながら、街の様子を眺める。
魔の森へ繋がる山から海まで五キロほどだろうか、その全体を外壁で囲んだ巨大都市で、海の魔物退治は勿論、魔の森にも結構な難易度のダンジョンがあり、冒険者の質も高い……というのが二十年ほど前までの評価だとポーレットが言う。
「二十年もあると冒険者って結構入れ替わるので、今はどうだか……という感じですけどね」
「ちなみにその二十年間、お前はモリコナに来たことは?」
「依頼の関係で通過するだけなら何度か往復してます。船による海上輸送が発達していると言っても、街道沿いには村がありますから、行商人の護衛の依頼はあるんです」
「荷物持ちとしては最適だしな」
「うぐ……それに、船の護衛に冒険者が流れて言ってしまいますからね。行商人の護衛を受けると端から端までの長期契約になることが多いんです」
「そうすると、途中で街に立ち寄っても」
「依頼人が仕入れをするために二、三日滞在するくらいですね。宿の手配は行商人がしますから、冒険者ギルドには立ち寄りませんね」
「そんなわけで、今の状況はあまりよくわからない、と」
「ええ」
「一ついいか?」
「はあ……はい」
「冒険者のレベル、やっぱり落ちてると思わないか?」
「そうですね……多分落ちてますね。アレを見る限り」
王都に入る門には当然ながら警備の衛兵が立ち、街に来る者達をチェックしている。だから完全武装が数名いるのは普通のこと。さらに街に入るときの通行料の徴収やらなんやらで書類手続きをする者がいたりするのも、不自然なことでは無い。
だが、そういう素振りの無い数名がビシッと立って、こちらを凝視しているのは……不自然だろうな。
「エリス、どう?」
「えーと、「来たようですね」「多分、あの三人です」と小声で話してます」
当人たちは小声でも、風下のこちらにいるエリスにはよく聞こえるようだ。
「さて、どうしようか」
他の国ならともかく、モリコナにある街は尽く魔の森から海まで街壁を造っているので、迂回するというルートが無い。勿論魔の森に面する高い山を登っていくとか、どうにかして海を進むとか言う選択肢はあるが、お手軽にできることでもない。そして、街を通り抜けるにはあの門を通るしか無く、通り抜けるのも冒険者証を見せた後、衛兵たちから簡単な質問があったりするので、全力疾走で駆け抜けると言うこともできない。
「二人とも、ギルド職員から話しかけられても応じないようにね」
「はい」
「いいんですか?」
「いい。どうせロクな事にならないし。何を言われても「リーダーのリョータに聞いて下さい」で」
「「はいっ」」
さて、もうすぐ俺たちの番だな。
「リョータとエリスとポーレットの三名。リーダーはリョータ」
「はい、俺です」
「Cランク冒険者で……」
「冒険者証がこれです」
「ふむ……問題ないな。通っていいぞ」
「どうも」
軽く言葉を交わしてから通ろうとしたのだが、衛兵がスイと横に視線を向けた。
「……アレ、お前ら待ちのようなんだが」
「知りませんよ」
「そうか?」
「そうでしょう?Cランク冒険者の到着をギルドの職員が何人も出向いて待ち構えているなんて」
「それはまあ、そうだが」
「さ、行こう!」
「はいっ」
実に不毛というか、街に入るときのやり取りとしてはすこし変わった感じではあるが、そのまま通過する。
いや、通過したかった。
「「「ようこそ!王都モリコナへ!」」」
五人という、ちょっと非常識な人数が一斉に駆け寄ってきたのだが、
「どうもありがとう!では!」
>リョータたちはにげだそうとした
>しかしまわりこまれてしまった。
「俺たち、この国で依頼をこなそうとかそういう予定がないんですが」
「もしものための蓄えはあって困らないと思いますよ」
金なら結構溜め込んでるんだけどな。
「お話だけでも」
「断っていただいても構いませんが、できれば受けていただきたくて」
完全に詐欺師のセリフなんですが。
ちらりとエリスを見ると……「ポーレットを置き去りにして逃げますか?」と目で訴えてきてる。いや、ポーレットを置き去りにしちゃダメだろ。
ポーレットを見ると……「私を置いていったら後悔させますよ?」と、妙なオーラを漂わせている。お前、何する気だよ。
仕方がないので、囲まれたままギルドまで歩く。
周囲からは「何だあれ?」という視線が集まる。なんだよこの羞恥プレイは。




