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  作者: ひじきとコロッケ
モリコナ
131/346

優秀な冒険者に依頼をこなして欲しい冒険者ギルドの苦労

「さすがにあのサイズがぶつかったら、沈むよな」

「うん……リョータ、どうしよう?」

「そうだな……エリス、あと何回くらい跳べそう?」

「うーん、ちょっとまだ……あと二回くらいかな……ゴメンね」

「わかった……ってうわわっ」

「わわっ」


 船の揺れが一向に収まらない。


「エリス……どう?聞こえる?」

「多分、方向転換したと思う」

「そうか。わかった」


 あのサイズ相手だと相当な威力の魔法を叩き込まないと一撃で仕留めるのは無理。そして、一撃で仕留めなかったら船が沈む。全くもってとんでもない状況だ。


「イメージする魔法は……うーん……こうして……こう……こう……かな?」


 少し時間がかかるか?ギリギリで間に合うといいが、とイメージの展開を始める。だが、揺れが大きすぎて狙いがつけづらい。


「リョータ……大丈夫?」

「何とか……だけど、この揺れがキツいな。狙いがつけづらい」

「どのくらい揺れなければいいの?」

「そうだな……三、いや二秒」

「わかった。それじゃあ……私が何とかする!」


 まだ万全では無いだろうに、しっかりこちらを見据えて断言してきた。


「わかった。合図するから頼む」

「任せて」


 イメージする魔法は……空気をぎゅっと圧縮していくイメージ。魔力という目に見えない力で固め、周囲の空気をどんどん吸い込んで圧縮していくと圧縮していくだけ温度が上がり……ほのかに光を放ち始めた。うん、普通では出来ないレベルの圧力になると、プラズマになるくらい温度が上がるんだな……まあ、物理法則が地球と全く同じとは限らないからなんとも言えないが。


「な、なんだ……アレ……」

「リョータの魔法か?」

「え?何あれ、あんな魔法見たことないんだけど」

「さっき雷落としたのもすごかったけど、今度はさらにスゲえな」

「熱い!何かすっごく熱くなってないか?」


 周りが騒ぎ出すほどの熱を生み出した光球が船の真上に生成された。そして、右方向、真っ直ぐこちらにシーサーペントが向かってくるのが見えた。


「リョータ……来たよ!」

「まだ……もう少し……」


 ザバッとシーサーペントが海面から顔を持ち上げ、デカい氷のボウルに浮かぶエイに狙いをつけ、加速した。


「よし!行こう!」

「うんっ……っく!」


 わずかに苦しげな声を上げながらもエリスがリョータを抱えて跳躍する。


「タイミングは……よし……ここ!」

「くっ!」


 エリスが足場を作り、わずかに落下が止まる。そして、同時にシーサーペントがデカい口を開いた。


「食らいやがれ!」


 魔力をコントロールして、プラズマ化するほどに圧縮した空気の玉をシーサーペントの口めがけて撃ち出す。魔力による物理コントロールは精密かつ高速で、シーサーペントはそれが近づいたことには気付いたものの、回避する余裕などあるはずも無く、そのまま口の中へ。そして喉の奥に到達すると同時に圧縮していた魔力を解除すると、爆発的に膨れ上がり、高温と圧力でシーサーペントの喉が弾け飛び、何が起きたか全く理解出来ないと言った表情――に見えるだけだろうけど――のシーサーペントの首が高く飛ばされ、ザブンと海面に落ちた。


「やったぜ……へへっ」


 討伐完了。周りがポカンとして、やや遅れて歓声が上がる中……魔力切れ、つまり酸欠を起こしてリョータはぶっ倒れた。




「ん……」

「リョータ、大丈夫?」

「んあ……うん」


 気がついたら、エリスの膝枕という天国にいた。と言っても、エリスの顔色は相変わらず悪いので、慌てて体を起こす。


「だ、大丈夫?」

「それはこっちの台詞。エリスこそ……平気?」

「う……うん」

「正直に答えて」

「ちょっと……その……」

「寝てて」

「はい」


 リョータが起きたのに気付いて船長がこちらにやって来た。


「大丈夫か?」

「ええ。ただ単に魔法を使いすぎて疲れただけなので」


 ぐう、と腹も鳴った。


「はっはっは!まあ、そっちの嬢ちゃんも多分そうだろうって言ってたが、その様子なら大丈夫そうだな。メシはすぐに用意させる」

「どうも。えっと、どうなったんです?」

「アレを見てくれ」


 見ると、船の右側にあとを着いてきていた船が併走している。そして甲板のヘリから覗き込むと、シーサーペントが両方の船に繋がれて曳航(えいこう)されていた。千切れ飛んだ頭は向こうの船に乗せられているという。


「全くとんだ災難だが……被害ゼロで済んだのはリョータのお陰だな」

「ははは……それほどでも……あるけど」

「ぶははははっ!一応自覚はあるんだな」


 バンバンと背中を叩かれ、釣られて大笑いしてしまう。


「一応この先、予定を変更してベプラに寄港する。アレをずっと引っ張っていくわけには行かないからな。だが、もう予定を大幅に遅れている。本来なら王都モリコナまで行きたいが、とてもじゃないが遅れを挽回するのは無理。と言うことで、ベプラで終了だ」

「いいんですか?」

「なーに、超大型エイに大型エイ二匹、そしてシーサーペント一匹。コレだけあって損害ゼロだぜ?誰も文句は言わないさ」


 そういうものらしい。

 次の港ベプラへの到着は三日ほどかかる予定なのだが、結局五日かかってしまった。その間リョータはシーサーペントが痛まないように氷のデカいボウルを作る役目を与えられた。一応、護衛仕事では無いという扱いで報酬が別に支払われるが……なんだろうな。




 ベプラへ到着すると、すでに冒険者ギルドの職員が待機しており、護衛仕事がここで完了したという手続きをしていく。そして、船長からはシーサーペント冷却代として金貨を受け取った。


「実際、コレだけの成果があるとランクを上げたいのですが、ランクを上げないようにと言う通達が出ていまして」


 心底残念そうに言うギルド職員に、ギルドの宿が一杯だと聞いたので、とりあえず宿を探すべく街へ。


「で、ポーレットをこうしてベッドの上に放り投げて」

「うわっ……っぷ」

「さて、放っておいてメシにしようか」

「はい」

「うう……」


 船を下りたが、未だ復活しないポーレットを置き去りにして、評判のいい食堂で夕食を済ませる。なお、その評判というのはポーレット情報だったのだが、その実は冒険者たちの評判をベースにした精度の高い情報で、安くてうまい店だった。当然当人は悔しがったが、真っ青な顔でまともに歩ける状態で無いのに連れて行けるわけも無く、宿の食堂でパンとスープを用意してもらい、それで済ませた。「私だけこんな……」と文句を言われたが、自業自得だと言い聞かせた。




「特に急ぐ旅でも無いけど、この街に用があるわけでも無いので、準備を整えたら出発しよう」

「「はい」」


 翌日、ようやく復活したポーレットとエリスに次の街へ向かうための買い物に行かせた。一応冒険者ギルドで確認したところ、街道が塞がれているとか橋が落ちているとか言う話は無いようなので、徒歩で向かうことにする。

 そして、二人に買い物をさせている間、冒険者ギルドで護衛の仕事でも無いかと探す。うまく行けば馬車移動で楽が出来るし。


「ま、早々護衛の仕事があるわけでも無いか」


 モリコナの場合、街から街の移動は船を使った方が安全で早い。少々値が張るが。と言うことで、定期馬車は他の国に比べると数が少なく、商人が荷運びの護衛を探すと言うことも少ない。そして、船に乗せてしまえばいい、と言う考え方から、荷物運びの仕事も少ない。


「そう言うわけでして、護衛の仕事となると船、と言うことになります」

「さすがにちょっと受けたくないんですよね」


 ギルドの受付嬢が船の護衛の紙を数枚差し出してきたが、受けるつもりは無い。

 今回、三人中二人が船酔いし、さらに一人は最後まで復活しないとか、普通だったら依頼失敗扱いでもおかしくなかったのだ。超大型エイとかシーサーペント騒ぎがあったからいいようなものの、もしも何ごとも無かったらと思うとぞっとする。


「冒険者ギルドとしては、シーサーペントすら討伐するほどの腕を見込んで魔の森で採取をお願いしたい素材があるのですが」

「お断りします」

「うーん、なんとかなりませんか?」

「俺たち、三人しかいないのでダンジョンに潜るのはちょっと」

「えーと……その、ベテランパーティと一緒にと言うのは……」

「それもちょっと……」


 金に困っているわけでも無く、それらの難易度の高いという依頼も、緊急性が高いというわけでも無く。ドラゴンに街が襲われるとか言う事態ならともかく、時間的猶予があるなら、ダンジョン探索経験の豊富な人を探した方がいいだろう。


「と言うことで明日にでも街を出ます」

「そ、そん……あ、せめてこの!この依頼だけでもっ!」


 腕に抱きついて胸を当てれば決心が揺らぐとでも思ったのか縋り付こうとしてくるのをかわしてギルドから逃げ出した。ギルドの宿に泊まっていたら逃げられなかったので運が良かったと思う。えーと、街を出ることは伝えたからいいよな?

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