次のフラグはシーサーペント
扱いが悪くないとは言え、少しでも借金は減らしたいのだと主張。
「ここはどうにか交渉を……うぷ」
「寝てろ!」
「はぃぃ……」
まだ調子が今ひとつのエリス共々寝かせておく。
日が沈むより少し前にスハイに到着し、超大型飛びエイが水揚げされると、当然ながら注目を集め、すぐに商人が集まって騒ぎ始めた。
「船の点検をしたらすぐに出発する。船から下りていてもいいが……そうだな三、四時間程度だから遠くへ行くなよ。出港するときにいなくても待たないからな」
船長の言葉もそこそこに冒険者たちはゾロゾロと下りていく。超大型の討伐祝勝会をするらしいが……
「すみません、二人を休ませたいので」
「うん……まあ……そう……だな」
全く動けそうにないポーレットを背負い、どうにか歩けるエリスの手を引いて船を下りるとすぐ近くにある待合所のようなところへ入り、守銭奴ハーフエルフを長椅子に寝かせる。
「はい、冷たい水」
「ありがとうございます」
「……ございま……うぷ」
ついでに冷たい水に濡らした布を額に乗せてやると、少しは気分も良くなったようだ。
「はあ……これさ……最後まで船で行けるか?」
「既に運賃は……払ってますし、護衛の依頼も……うけちゃって……ます」
「あのな。ある程度ほかのパーティと分担して、ってことだけど……俺たち、ほとんど何もしてないからな?」
「超大型……討伐したじゃないですか」
「それはそうだが」
「それに、超大型が来るって……予想もしましたし」
微妙に役に立ってるんだが、それでも二人が船酔いでほぼ動けないというのは居心地が悪い。
「それにもう一つ」
「ん?」
「多分、まだ大型が……出ると思います」
「マジか」
「ついでに言うと……シーサーペントも」
「ちょ……」
一体いくつのフラグが立っているんだと言いたいレベルだな。
船酔い二人のために依頼を中断して船を下りるという選択肢もあったのだが、シーサーペントが出るかもと聞いてはちょっと放っておけない。
「他は?」
「私が聞いたことがあるのはそのくらいです。ただ」
「ただ?」
「シーサーペントのサイズはとんでもなく大きいと」
「マジか」
護衛の二パーティは腕も悪くないが、シーサーペントの対応が出来るかというと……無理だと思う。リョータも絶対倒せる自信がありますと自惚れるつもりは無い。最悪、最大出力の電撃を食らわせれば逃げる時間稼ぎぐらいは出来るだろうけど。
二人にはしばらく休んでいるように伝えて、船長を探しに行く。さて、信じてもらえるだろうか。
船のそばでアレコレと指示を飛ばしている船長を見つけたので話をすることに。
「ポーレットからの情報なのですが」
「ああ、うん、聞こう……っと、ちょっと待ってくれ。その荷物はそっちの船だ」
超大型の運搬で時間がかかってしまったために、少し補充をするのとやむを得ずここでいくつか荷物を下ろし、別の船に振り分けるのと、色々忙しいようだ。
「ああ、すまない。それで?」
「ポーレットが三十年以上前に聞いた話らしいのですが、まだ大型が出る可能性があると」
「ふむ」
「それから……シーサーペントが出る可能性もあると」
「にわかには信じられんが……うーむ……俺も船に乗って二十年だが聞いたことが無いな」
「そうですか。まあ、警戒をしておいて損はないかと」
「うーむ……しかし、シーサーペントか」
「ああ、そうだ。かなり大型らしいです」
「ますます信じられんが……」
「その話、俺は聞いたことがあるぞ」
すぐそばにいた船長より年かさの船員が話に入ってきた。
「ん?そうか……」
「ああ。俺の親父がそういう経験があるって話してた」
「むむ……」
「多分、ポーレットは俺の親父から聞いたんじゃ無いかな?」
「可能性はあるな……だが……うーむ」
船長としては難しいところだろう。この先さらに大型エイが出る、さらにシーサーペントも、となると……
「護衛を増やす……しかし、今から増やすとなると」
「うーむ」
冒険者ギルドに話をもっていけばすぐにでも人は集まるだろう。だが、護衛を増やすというのはその分経費がかかる。護衛に対する報酬だけでなく、乗せた分だけ食料を積まねばならない。しかも大型エイにシーサーペントとなると、
「仮に……仮に討伐したとして、船に積みきれん……うーむ」
「隣のペリアまでの間だけでも一隻つけるか?そっちに積み込めばいい」
「だが、空振りになった場合、大赤字だ」
「うーむ」
大型エイという臨時収入はあった物の、船足が落ちて到着が遅れるというのはそれだけで損失を生み出す。オマケにまだこの先に障害が出る可能性が示唆されている現状では実に難しい選択となる。
船の運航だとか収支なんて門外漢なので、専門家に任せて……
「すみません、そろそろ出港ですよね……俺の仲間を呼びに行ってきます」
「待ってくれ」
えー。
「一つ確認したい」
「はい」
「君は……いや、君たちは本当にストムでシーサーペントを討伐したのか?」
「信じるも信じないも勝手ですけど……討伐しました。ただ、そのサイズがどの程度……つまり、シーサーペントとして大きいのか小さいのかまではわかりませんが」
「ふむ……わかった。色々と手配するが……出港前にまた少し話をさせてくれ」
イヤな予感のする台詞だが……仕方ないか。
三時間ほどして出港となり、待合所から船に向かう。さすがにポーレットも復活しているが……
「また船……」
「お前、自分で船移動にしたの、覚えてるよな?」
「それはまあ……そうですけど……うう……」
甲板まで上がると、他の二パーティが船長たちと話をしていたのでスルーするわけに行かず、立ち止まる。
「話は聞いた」
「そうですか」
「だが……船酔いして寝込んでいるような奴の話なんか信じられるか、と言うのが俺たちの見解だ」
「……そうですか」
ま、そりゃそうだな。
「とりあえずペリアまでの間、もう一隻があとを着いてくることになった。空荷で行くからな、何も出なかったら船長たちは大損だ」
「そう言われても」
「ま、具体的に何、と言うのは決まっていないが、覚悟しておけって事だ」
勝手な話だが、「わかりました」とだけ応えて船室へ。
「さて、ポーレットの借金が増えそうなんだが」
「何故ですか。私はそう言う話があったという情報提供をしただけで」
「それはそうだが、あの連中が納得してないんだよな」
「それに、大型が出るって話は当たったじゃないですか」
「そうなんだよな。それがスルーされているってのが腹が立つ」
ま、最悪の場合は……逃げる?でもな……冒険者ギルドが介在している以上、逃げるのは無理だよな。この先も何かと世話になる組織。信用第一。さて、どうした物かと考えてみるが、こんなあやふやな状態で考えがまとまるはずもないまま、船は夜明けを待たずして出港した。




