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  作者: ひじきとコロッケ
ルトナーク
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ポーレットの魔剣

「さて、材料を……」


 街を出て工房に移動し、保管庫から材料を出してくる。

 ホーンラビットの角は取れたて新鮮を用意。魔法陣のインクは作り置きがあるのでそのまま使用する。


「角の粉砕……続いて刃の生成……よし」


 コンコンと指で叩いて、定着したことを確認し、鞘に収める。リョータにエリス、ポーレットの三人分の使用者登録は街に戻ってからまとめてやろう。

 問題はギフト持ちのポーレットが魔力を使えるかだが、多分問題ないと思う。魔力と魔素の理解が正しければ、ポーレットにも魔力はあるし、ギフトに魔力を持って行かれると言っても百%吸い上げられるわけではないはず。そして、ラビットソードの必要魔力はとても小さい。それこそリョータが切れ味最大を維持するように魔力を込め続けても一日維持できるほどに……気力が続かないからやらないけど。

 それにそもそもポーレットのギフトは「背負った荷物の重さをゼロにする」である。

 つまり、何も背負っていなければ、そのギフトは発動せず、魔力が普通に使えるはず。

 と言うか、多分……完全に仮説だが、大して重くない荷物ならほとんど魔力を使わずに発動しているのではないだろうか?

 今までに会ったことのあるギフト持ちが軒並み超人レベルだらけで細かな調整が利きそうになかったので、あくまでも仮説であって確証はないが。




 そして翌日、魔の森に入ると早速ポーレットに短剣を渡す。


「と言うことで、今日はこの短剣を使ってホーンラビットと戦え」

「これ、昨日買った中古ですよね?」

「おう。それと」

「それと?」

「荷物を背負うな」

「はい?」

「荷物を背負わずに剣に魔力を流しながら使え」

「えーと……あの、私……ギフトってのがある感じなので、魔法は使えないのですが」

「そう言うと思ったが、その考えを捨てろ」

「はい?」

「命令だ。捨てろ」

「いや、捨てろと言われても痛たたたた!」


 左手の紋章から激痛が走ったらしい。


「わかりました!捨てます!捨てます!」


 宣言したら痛みは治まったらしい。


「ハア、ハア……何なんですかもう……」

「ほら、エリスが探してきたぞ」

「え?うわっ!こ、心の準備が!」

「剣持って構えろ!」

「は、はい!」

「剣を持つ手に少し集中して、魔力を流し込め!」

「ど、どうやればいいんですか!」

「うーん……荷物を背負うときの感じで!」

「もっとわからなくなった!」


 ギャアギャア騒いでいる間にエリスがすぐそばまで戻ってきた。


「よし、頑張れよ!」

「はあ……はい」


 エリスがガシッと肩をつかんでホーンラビットの真正面へ立たせると仕方なく短剣を構える。そして


「うう……えいっ」


 かすかだがラビットソードの刃が光った。成功だな。そして魔力登録も行われたから、俺とエリス、ポーレット以外は使えない。

 残念ながら剣はあらぬ方向へ向いてしまったが、ホーンラビットはポーレットを敵として認識しており、すぐに反転して飛びかかる。


「とおっ」


 サクッ


 トン……


 ドサ


「ほえ?」


 あっさりとホーンラビットの首が落ち、勢いのまま飛んでいた体も地面に落ちた。当のポーレットは切った感触が無かったせいか、放心状態だ。


「おーい、さっさと解体しろよ」

「あ?え?あ、はい!」


 慌てて地面に落ちたホーンラビットに向かい処理を始めようとした手が止まる。


「何なんですか!これ!一体何がどうしてこんな切れ味に!」

「ポーレット、落ち着け」

「これが落ち着いていられますか!一刀両断ですよ!一刀両断!この私が!荷物持ち以外に取り柄の無い私が!ホーンラビットの首を!」

「取り柄が無いって自覚してるのを再確認出来たのはいいんだが、さっさと解体してくれないか?」

「でもでも!」

「エリスが次を探しに行ったぞ」

「え?」

「五分も経たずに戻ってくると思う」

「えええええ!」


 当たり前だが五分で解体処理は出来なかった。ま、いいけど。




 日が傾き始めた頃に狩りを終えて街へ引き上げる。リョータとエリスがそれぞれ三羽ずつ。ポーレットは五羽である。


「新記録ですよ新記録!」

「お、おう」

「一日でこんなに狩れる冒険者なんて、なかなかいないと思いますよ!」


 興奮気味のポーレットに、俺たちなら二桁行けるんだけど、とは言えない。と言うか、普通の冒険者も二桁行けると思うんだけどな。


「とりあえずポーレットにもその剣が使えたな」

「あ、はい。凄いですね、これ」

「と言うことで、ギフト持ちでも魔力はあり、魔剣に魔力を通すことが出来ることがわかった」

「へ?魔剣?」

「おう、魔剣だぞ」


 ポーレットが(しば)し固まる。


「え……ま……まけ……ええええええええ!」


 どどどど、どうしましょう!魔剣……これが、魔剣だったなんて!と、ポーレットの表情が面白いくらいに色々と変わる。

 そりゃそうか。

 他の冒険者との付き合いはあまり多くないので断言できないが、この世界では魔剣というのはかなりレアだ。

 前世で読んだ異世界物はそれほど多くないが、だいたいの場合でダンジョンは不思議現象の寄せ集めだった。魔物を倒すとその死体は光の粒のようになって消え、アイテムがドロップする。魔石を始めとする魔物素材を残して。そして、宝箱とかダンジョンコアとかそういうのがあって、魔道具……それもかなりガチの奴が手に入り、トンでもステータスの武器や防具が手に入る。

 だが、この世界のダンジョンは基本的に自然洞窟で、空気の流れが悪いために魔力がたまっていると言う理解でいい場所。そして、魔物素材を集めるために潜った者たちが志半ばで倒れて残した遺物が濃い魔力にさらされ続けて変異した物が魔道具として稀に発見される。

 一応、魔道士組合とかそう言うのが各国に有り、長年の研究成果として遠距離での通話が可能な魔道具とか、ほんのり冷えて生鮮食品をある程度長期間保存可能にするような魔道具なんかは開発されている。

 だが、その程度だ。

 Aランク冒険者でも魔剣の類いを持っているのはごく僅か。Sランクでも持っていない者は珍しくないというのだから、そんな物をポンと渡されたポーレットの驚きは理解できる。


「ポーレット、あらかじめ言っておくが」

「は……ひゃい、なんでひょうか?!」


 落ち着け、噛みまくってるぞ。


「それ、俺とエリス、そしてポーレットにしか使えないから」

「え?」

「三人以外には使えない。そういう風になっているからな」

「ええええええ!」


 その驚きは、三人にしか使えないという事実に対してか、それとも「それじゃ売って金に換えられないじゃないか」のどちらだろうか?前者であって欲しい。

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