仲間?
「はう……終わった」
どうにか二羽目を捌き終え、次の獲物を探す。
「右方向、百メートルほど先にいます」
エリスがピッと指さしてくれた。うん、なにかがいるように見えないんだけど、彼女が言うならそうなんだろうとそちらへ足を向ける。数メートル進んで二人から距離を取ると小石を拾って思い切り投げる。百メートルの遠投とはならないが、それでも二十メートルは飛び、草むらを派手に揺らして音を立てながら石が転がっていく。
これでしばらく待つと、草むらから飛び出してくる。
「えいっ!」
ホーンラビットがこちらを敵と認識して襲いかかってくる。鋭い角を避け、短剣で斬りかかるが、リョータの言うように全く手入れされていないため、鉄の棒で叩きつけているようなものである。多少のダメージは与えているが、ホーンラビットの皮下脂肪は少々の打撃は吸収してしまうため、簡単には倒せない。
普段の心がけが大事と言うことがよくわかるのもホーンラビット狩りが駆け出しからDランク手前くらいの冒険者向きと言われる所以でもある。
ようやく三羽目のホーンラビット狩りに取りかかったポーレットを横目にカードゲームをしながら思う。
ポーレットにラビットソードを持たせるべきだろうか?
特定個人限定モデルであれば、喜々として売り払いに行ったりする心配は無いが、そもそもポーレットに転移魔法陣だの工房だのといった秘密を教えてもいいのだろうかと悩む。
エリスは素直でリョータの言うことなら何でも聞くから、秘密だと言えば絶対に喋らない。多分、種族奴隷から解放して別れたとしても問題は無いだろう。だが、ポーレットは?
うん、何かダメな気がする。もう少し、人となりを知ってから判断した方がいい。急いては事をし損じるからな。慎重に行こう。
「えいっ」
ドスッ
「やっ」
スカッ
ホーンラビットのジャンプに合わせて斬りかかるが、三回に一回程度しか当たらないし、当たっても大したダメージにならず、戦闘の長期化が避けられない。だが、宿代その他を考えると二羽でトントン。三羽狩らないと本日の返済金額はゼロになってしまう。今度の貸主は比較的良識ある対応をしてくれそうだが、それでもある程度のペースで返していないと、いきなり「体売ってこい」と言われそうだ。
半端者故に忌避されやすいというのもあるのだが、一応これまで守ってきた物をそういう形で失うのはさすがにちょっと遠慮したいので頑張るしかないと、もう余計なことを考えずに短剣を振るうことにした。
あの二人はアレで、ストムでシーサーペントを狩ったり、ドラゴンを狩ったりしている実力者。薬草採取でEランクに上がった自分が同じようにホーンラビット狩りが出来るとか考えないで欲しいとは思うが。
気持ちを切り替えながら斬りつけたのだが、やはり集中し切れていなかったと後悔することになった。
短剣がホーンラビットの角に当たってしまい、パキン!とはじける音がして、真ん中から折れた。
「くっ!」
予備の武器はない。となると……折れた部分がちょうど尖っているのでそれを突き刺すしかない!必死に手首を返し、首筋に突き立てながら「えええええい!」と体重をかけて地面に叩きつけた。
ブシャッと血しぶきを上げたところにもう一刺し。さらに一刺しして、ホーンラビットは動かなくなった。
「ふう……」
「ふう、じゃねえ!」
ゴン!とポーレットに拳骨を落とす。
「痛い!痛いですよ、本当に……」
「あのな……」
「はい?」
リョータが見ろ、と促す方を見ると、土がこんもりと盛り上がっている。自然な地形とは言いがたいその形は……?
「お前の折れた剣、こっちに飛んできたぞ!」
「あ……その……」
とっさに魔法で土を盛り上げて壁にしたのかと突き刺さっている切っ先を見て感心する。リョータの魔法は規格外過ぎると。
「で……」
「はい?」
「短剣が折れて……明日からどうするんだ?」
「どうしましょうかね……」
リョータはがっくりと項垂れた。ホント、どうしようか、これ。
予備の武器も無いと言うことなので、今日はここまで。ホーンラビットの処置を終えると街へ戻り、常設依頼の買い取りをしてもらうと……
「宿か……」
ギルドでお薦めの宿は教えてもらった。
そしてその宿に来たのだが……
「三人部屋は論外」
「ですね」
「え?」
「と言うことで二人部屋一つと一人部屋だな」
「はいっ♪」
「あ、あの……?」
「ん?」
「えっと……どういう……」
「ポーレットは一人部屋」
「え?普通その組み合わせの場合、私とエリスさんで二人部屋では?それか一人部屋を三つか」
もちろん普通ならそうだろう。だが、今までの経験上、それは意味が無い。
今まで、宿の都合上、一人部屋を二つ取ることになったときでも、朝になるとエリスが潜り込んできているのだ。二人部屋で二つのベッドにしても潜り込んでくるのだから、当然と言えば当然か。
「せめて!せめて三人部屋で!」
一人部屋と二人部屋を取るより、三人部屋の方が少しだけ安くなる。少しでも費用を浮かせたいポーレットにとって、ここでの部屋の選択は死活問題とも言える。
「却下」
「そんなぁ……お二人の邪魔はしませんから」
そういう問題じゃないんだけどな……
「あー、えーと、勘違いしないようにあらかじめ言っておくけど」
「はあ……はい」
「ポーレットが考えているようなことは何一つ無いから」
「え?」
「ただ、こう……一応Cランク冒険者として、あまり知られたくない秘密があってね」
「はあ……」
そうか、この二人、リョータがリーダーのように見えたけど、夜は立場が逆転するのね。それは確かに知られたくないことかも知れないわとポーレットは勝手な想像をして引き下がることにした。
宿に一旦荷物を置くと、三人揃って買い物に出かける。
「ポーレット、お前の短剣を買わないことには話にならん」
「いや、私を荷物持ち専門にしてもらえば解決する話なんですが」
「却下」
「ダメです」
エリスにまでダメ出しをされるとさすがにポーレットの表情も暗くなる。だが、三人で行動するという時点で、ポーレットの戦力がゼロではマズいと言うことはわかる。
「うう……どうすればいいんですか」
「とりあえず……あそこでいいか」
「え?あの店、駆け出し向けの中古を扱ってる店ですよ」
「お前、自分が駆け出しと同レベル……どころかそれ以下って自覚、ある?」
「うぐ……」
並んでいる中古品の中から、元々ポーレットが使っていたのと同じくらいの長さの短剣を一振り購入。もちろんポーレットのかなり軽くなった財布から出させた。
「あう……これだと明日は野宿ですね」
「このままだと、な」
「え?」
「エリス、この街のこともポーレットは詳しいはずだから、ロープとか買ってきてくれるか?」
「はい」
狩ったホーンラビットを持ち運ぶのに使うロープや袋はかなり安物を使う。使い方によっては十日も持たない程度の品を使い潰すのが普通。つまり、ポーレットの知る安い店に案内させればいい。
「えと……買い物は構わないのですが、その間、リョータさんは?」
「お前のこの武器、少しはマシにしてみる」
「え?」
「じゃ、エリス、よろしく」
「は~い」
「え?ちょっと?え?」
何だかよくわからない状況になったが、と困惑しながらもポーレットは商店の多く並ぶ通りへ歩き始めたエリスの後を追った。




