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  作者: ひじきとコロッケ
ルトナーク
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先行き不安な王都入り

 ギルドに戻ると、さすがにその姿を見かねた受付嬢に奥の部屋へ引っ張り込まれ、すぐに支部長が来た。


「うまく行った……のか?」

「むー!」

「ええ。ギリギリでした」

「むー!むー!」

「そうか」

「むー!」

「ところで、これはお前たちが縛ったのか?」

「むー!むー!」

「まさか」


 そんな特殊な趣味はありませんよ。


「むー!」

「このまま運んできたのか……」

「むー!むー!」

「ちょっと目立ちすぎましたかね?」

「むー!むー!」

「ま、何とかなるだろう……ほどいてやらんのか?」

「むー!むー!」

「堅くてほどけなかったんですよ」

「むー!」

「そうか……って、ホントに堅いな」

「むー!」

「えーと、これから見ることは内密に」

「了解」

「む?」


 ラビットナイフを取り出して、「面倒くさいから手首から切り落とすか」とちらつかせるとポーレットが涙目になっておとなしくなる。もちろん、ちゃんと助けるために、手足と口を堅く縛っている布を切り落とす。


「ぷはあ」

「見事なモンだな」

「くれぐれも」

「わかってる。見ればわかる。普通のナイフじゃないってな」


 理解も納得も早くて助かる。


「さて、これからどうすれば?」

「フム……君たち二人は予定通りでいい」

「わかりました」

「ポーレット、君は少し身を隠した方がいいからこっちへ」

「あ、はい」


 そう言って支部長が出ていくあとにポーレットが続くが、ドアを出る前にクルリと振り向いた。


「あの……ありがとう……ございました」

「間に合って良かったよ」

「ええ……」

「間に合わなかったらそのままにしようと思ってた」

「何気にひどいこと言われてますけど……今はいいです。本当にありがとうございました」


 ペコリとお辞儀をして出ていった。


「ふう、エリスもお疲れ様」

「はい……間に合って良かったね」

「そうだな」


 あのモグリの二人が仮に死んでいたとしても、怪しげな道具とかを調べればきっと色々わかるだろう。生きていればさらに。どちらにせよ、この国のみならず周辺でも種族奴隷にされる者はいなくなる……とまでは行かなくとも、少なくなるだろう。それだけでも収穫は大きい。




 翌朝、馬車が比較的早く出発するので朝食を済ませるとすぐにギルドを出る。


「色々とありがとうございました」

「礼を言うのはこっちの方だよ」


 支部長は笑って返すが、一昨日から着ている物が変わっていないし、顔色は既に人間のそれではない……体に気をつけてほしいものだ。




 定期馬車の旅は特筆するようなこともなく順調に進んだ。途中二度ほど大雨が降ったために立ち往生するという程度で、この辺りではよくあること。定期馬車の運行スケジュールもその辺を組み込まれているため、予定通り十四日間かけて二つ隣の街、王都ルトナークへ到着した。


「無事に着いたけど、ケツが痛い」

「私も」


 痛いのは尻だけではなく、ずっと同じ姿勢が続いたせいで背中もバキバキだ。


「魔の森に入ったりするのは少し休んでからにしようか」

「はい」


 (なま)らないように馬車が村へ着くと体を動かすようにしていたが、実戦カンを取り戻すという意味ではしばらくホーンラビット狩りだと話ながら冒険者ギルドへ向かう。


「ここか」

「結構大きいですね」

「ここも宿はなさそうだね。どこかいい感じの場所を紹介してもらおう」


 そう言いながら中へ入ると、


「待ってましたわ!予定通りの到着お疲れ様!」

「おうお疲れ」


 そのまま横を通り受付へ向かう。


「ええ、そうでしょう。なぜ私が定期馬車より早く着いたかというと……って、スルーですか!またスルーですか!」

「俺たち、ちょっと用事があるんだ。だから、何か用があるなら先にそう言えよ。聞かないでやるから」

「あ、はいそうですね……って、聞かないんですか?!」


 なぜか既にポーレットが到着しており、健気(けなげ)にも絡んできたのだが、こちらは彼女に用は無いので、エリスに目配せをすると、承知したとばかりに引き剥がし、近くの柱に縛り付けてきた。


「ちょっと!この扱いはさすがにないムガッ!」


 うるさい口を塞いだところで受付に到着を告げるとすぐに奥へ通される。が、


「アレ……いいんですか?」

「邪魔でしたら片付けてください」

「はあ……」


 なんでも三日前に到着していたらしい。馬車より速く移動とかどうやったのかと思うが、その辺は地理に詳しいと言うことだろうと、これ以上は考えないことにする。

 コンコン、と受付嬢がドアをノックし、リョータ達の訪問を告げ、「入ってくれ」の返事を待って中へ入る。




「君がリョータ、でそちらがエリスか」

「はい」

「ま、座ってくれ」


 ギルドマスター、ローワンの印象は、「若い」の一言。実際にはそれなりの年齢だろうが、ぱっと見では三十代に見える。


「さてと……それなりに忙しい身なのでいきなり本題に入るぞ。種族奴隷についてだ」

「!」

「君たちが特命を受けて色々調査しているというのはわかっているのだが、色々とは何だ?」

「え?」

「ライトリムから来た連絡だが、例の……えーと、オルグだったか。そいつのところにいたモグリの奴隷商、そいつらの尋問の結果がある」

「おお」

「だが、その内容を全て君たちに開示していいのかどうか、ということだ」

「なるほど」

「本当にヤバいことなら話さなくてもいいが……出来れば教えてくれ。もちろん外部には漏らさない。ギルドマスターの名において」


 事が事だけに、何でもかんでも教えるのは危険という判断はわかるが、ある程度はいいかな。


「そうですね……探しているのは刻まれてしまった種族奴隷紋を解除する方法です」

「なるほど」

「と言っても、そんな方法があったら既に知られているでしょうからね。種族奴隷紋を誰がどういう経緯で作り出したのか。それを調べています」

「つまり、解除する方法がないなら、作ろうと言うことか」

「ま、そんなところです」

「わかった」


 ローワンは手元のメモに何かを書き付けてから告げた。


「この内容、君たちの名前は出さないようにして上……つまり、王国へ上げておく。君たちの欲しい情報の手がかりがあったら優先的にこちらへ回してもらえるようにな」

「ありがとうございます」


 とは言え、騎士団が討伐して回っている盗賊からも情報を得ようとしているので時間がかかると言うことで、しばらく滞在するように言われた。期間は未定。ローワンの予想では最低でも二週間。定期的にギルドに顔を出してくれれば自由に過ごしていいと言うことなので、普通に依頼をこなしたりしていればいいか。


「それに……おそらく君たちは大陸東部へ向かうんだろう?」

「そうですね、何となくそんな予定ですが」

「なら急いでも仕方ない」

「え?」

「この先……三つほど国境を越えた先だから、気の早い話だが、移動が面倒なところがある」

「面倒ですか」

「おう。馬車で移動しても三ヶ月かかる荒野だ」

「はい?」


 なんだかすごいのが来たぞ?


「一応、定期馬車があるが、年に一往復しかしない」

「年に一往復ですか」

「東部へ向かうなら、その馬車に乗るのが一番だが、時期が何とも読めない」

「はあ……」

「だが、ひと月ほど前に出発したのは確かでな」

「えーと?」

「ここから荒野の手前まで行くのに……順調に行っても三、四ヶ月はかかるだろう」

「今から慌てて行っても定期馬車は向こうに着いた頃、と」

「そう言うことだ。戻ってくるまでにそうだな……七、八ヶ月か。そして二ヶ月ほど待ってから出発になるからな。ここで一ヶ月程度待ったところでどうと言うことは無い、ってことだ」

「わかりました」


 ついでに教えてもらったが、定期馬車と言ってもだいたい二十~三十前後の馬車で行くらしいからかなり大規模で、チケット購入は最低でも小金貨三枚は必要らしい。

 なんだか……南回りで言った方が良かったんじゃないかと思い始めてきた。今更だけど。

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