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  作者: ひじきとコロッケ
ルトナーク
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力技で解決を

「支部長、一つお願いが」

「何だろうか?」

「今の話、聞かなかったことにしてください」

「……どうするんだ?」

「イヤ、ちょっと急に用事を思いついて(・・・・・)しまいまして、夜風に当たって散歩がてら用事を片付けてこようかと」

「そうか、腹ごなしの散歩か」

「そんなところです」

「そうだな、明日は街を出るんだ。この街であったことを思い出しながら歩くのも悪くなかろう」

「ええ」

「ところで、街で火災か何かが起こる予感はしないか?」

「火災は無いでしょうけど……どこかの建物が崩壊するかも」

「そりゃ大変だ。手を打たないとな……」

「……」


 しばらく見つめ合ってから「わはははは」と笑い合う。おっさんと見つめ合うのはちょっと勘弁だが、こちらの意図は伝わったようだ。


「では行ってきます」

「おう」


 外に出るとエリスにすぐに指示を出す。ここからは時間との勝負もあるから足の速いエリスが適任だ。


「わかった……行ってくるね」

「気をつけてな!」


 言うなり駆け出すエリスを見送るとリョータも走り出す。それぞれがそれぞれの方角へ。




 道を思い出しながらだったので少し時間がかかったが、オルグの店の裏手に到着。この間追いかけてきた場所だ。


「さて、そろそろ……」

「リョータ、お待たせ」

「イヤ、全然待ってないんだけどね」


 ガチで。

 デートの待ち合わせっぽい会話を交わし、エリスが持ってきた物を受け取る。


「さてと……どう?」

「中にいると思う」

「そうか。じゃあ入ろうか」


 臭いなのか音なのかわからんが、エリスがいるというならいるんだろう。

 そう思って玄関に向かうと、この間はいなかった見張りが二人いる。それほど治安の悪くない場所のはずだが見張りがいるとはどういうことか?理由は簡単だな。中でヤバいことをしているからだろう。


「ん?何だおま「スタンガン!」


 悲鳴を上げる暇も与えずに無力化し、後ろ手に縛る。

 そしてエリスがドアに手をかけるが、


「ドアが開かないね」

「斬って入るか」

「うん!」


 キン!とドアの間をラビットソードで斬ると、すんなり開いた。ピクピクと痙攣している見張り二人が何か言いたそうだが、口もまともに動かないので、アワアワ言ってるだけ。ホントは口も塞いでおきたいが布の手持ちがないので仕方ない。念のためもう一発スタンガンを食らわせておこう。

 中に入ると、普通に廊下と階段。さて、部屋数も多そうだが……エリスの耳がピコピコ動き、


「こっち」

「さすが」


 階段を駆け上がっていくのでそのあとに続く。


「急がないとマズいかも」

「了解!」


 他に人がいないのか、人払いしているのかわからないが、突き当たりのでかい部屋の前以外人がいない。余計な手間がかからないのは助かる。


「何だ!お「スタンガン!」


 練習に練習を重ね続けた信頼と実績のスタンガンは、射程も長いのでこう言うときは便利だな。


「行くぞ!」

「うん!」

「ドアは切り裂け!」

「えいっ!」


 鍵がかかってるか確認している時間も惜しいのでスパッと切ってそのまま蹴り飛ばして突入する。


「ん!」

「何だ!」

「動くな!」

「ぎゃっ」


 中にいたのは数人の男とポーレット。

 男たちは……一番奥にいる高そうな服の太った男がオルグか?その隣にいる三人は直属の部下か。そして、中央のデカいテーブルのそばに二人。なんだか色んな道具を広げているので、こいつらが種族奴隷紋を付ける奴ら……モグリの奴隷商ってところか。

 で、ポーレットはと言うと、そのテーブルの上で手足を縛られ口を塞がれ、むーむー唸りながら転がされている。ちょうど奴隷紋を付けるところだったのか服をめくられてお腹が丸出しだが、ストレートな体型のせいか、色気のカケラもない。あれで娼館に送られて客が付くのだろうかと、余計な心配をしてしまう。

 ちなみにさっきの妙な悲鳴は、部屋に飛び込んだエリスが勢い余ってテーブルのそばにいた奴隷商の一人を蹴り倒したときのものだと付け加えておく。


「くそっ!」


 オルグのそばにいた一人が剣を抜くが、


「スタンガン」


 威力強めに撃ってオルグ以外を昏倒させた。その間にエリスがもう一人の奴隷商を蹴り飛ばし、ポーレットのそばに。


「な、何者だ……」

「別に名乗るほどの者じゃないさ。ちょっと届け物だ」

「届け物?」

「ああ。この間ポーレットと仕事をしてね。その報酬の分け前を持ってきた」


 ポイッとエリスがさっき持ってきた袋を投げ渡す。


「どうだ?これで借金はチャラだろ?」

「む……」


 エリスに持ってきてもらったのは、工房にしまっておいたお金。門を出るときに少々足止めを食らったが、彼女の足の速さのおかげで迅速解決だな。借金は中金貨五枚ほどと聞いていたので五枚と、念のために小金貨を五枚添えた。


「返事は?」

「た……確かに」


 チラリと見ると、ポーレットの左手の奴隷紋がぼんやりと光っている。借金を返した、と言うことで反応しているんだろう。何とも不思議なものだが……魔法だとしてどういう魔法なんだろうか?気になるが、ここで考える時間ことでは無い。


「じゃ、そういうことで」


 手足を縛ったロープが固くてほどけず、かと言ってこいつらの目の前でラビットソードの切れ味を見せるつもりもないので、モガモガ言ってる状態のままエリスが担いで部屋をあとにする。そして階段を下りる頃に、ベルの音が響き「追え!逃がすな!」という声が聞こえた。ま、想定通りの動きだな。

 声に応じて人が出てくる足音がし始めたが、既にこちらは外に出ている。冒険者の足の速さをなめるなってところだ。そして、街で追いかけっこするつもりはないので、クルリと振り返り、イメージを念入りに固める。


「建物崩壊!」


 我ながらセンスのない名前だと思うが、気にせず魔法を解き放つ。イメージはとても単純。建物を支えている柱の床下にスコンと穴を開ける。深さはホンの数十センチ程度。それでも二階建てとは言えレンガなどを積み上げて作られている建物の重量はすさまじく、柱部分がグラつけば……


「エリス、耳塞いで」

「あ、はい」


 轟音と共に建物が崩れ落ちた。

 モグリの奴隷商とオルグほか幹部っぽい連中が死んでないことを祈りたい。だが、宵の口とは言えこの大音量。すぐに人が集まってくるし、支部長がそれとなく手配した衛兵も来るだろうからさっさと逃げよう。オルグに投げた金?俺たちにとっては(はした)金。惜しいといえば惜しいが、自己満足の経費だと思うことにする。

 ……我ながらお人好しすぎると思うが。

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