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  作者: ひじきとコロッケ
ルトナーク
112/347

借金の相手

「この建物に入りました。どの部屋にいるかは中に入らないとわかりませんけど」

「そうか……じゃ、中に「待って!」

「え?」


 ポーレットがリョータを引っ張って止める。


「何だよ」

「ここは……ダメです」

「何が?」

「オルグの家、です」

「それ、誰?」

「私の借金の相手……借金奴隷の主の家です」

「はあ?」

「だから、その!」

「ちょっと落ち着こうか」


 とりあえず相手の家の前で騒ぐのもマズいので、離れたところにある食堂に入る。安くてうまいと評判の店でいつもにぎやか。紛れて話をするにはちょうどいい感じの店だ。


「とりあえずあそこは、ポーレットが金を借りている相手の家。間違いないな?」

「それはもう……向かいのアパート、見ましたか?」

「あのボロい建物?」

「ボロいのは認めます……あそこが私の今の住処です」

「なるほど」


 ポーレットが金を借りている相手は、ライトリムでは中の下くらいの規模の商店経営者オルグ。あの建物も反対に回ると、日用品を扱う店舗になっている。

 質はそれ程よくないが、値段も相応に安いと言うことで、使い潰す日常使いにはちょうどいいと、それなりに客足はいいらしい。なお、冒険者が求めるような品はあまり扱っていないらしいので、冒険者には縁のない店でもある。


「わからんな。何であんな店に借金があるんだ?」


 通常、借金というのは買い物をしたときなどに手持ちがないから借りる物。ポーレットも冒険者の端くれである以上、あの店には縁がないだろうに、どうして借金があるのか。


「まあ、色々ありまして……」

「その色々って、聞いてもいいか?……あまり聞きたくは無いが」

「聞きたくないなら聞かなくてもいいと思いますが

「乗りかかった船という奴だな」

「なんだかよくわかりませんけど……えーと、あれは五年ほど前ですね」


 まだポーレットが借金のない綺麗な体だった頃、次の探索に向けた買い出しをしていたとき、一人の男性とぶつかってしまった。

 お互いよそ見をしていたために起きた不幸な事故なのだが、相手の男が落としてしまった荷物がマズかった。


「結構高価な食器でして……中金貨七枚ほど」

「ほー」


 こっちでも高い食器は高いんだな。


「そしてその弁償を求められたのですが、そんな手持ちはありません。そこで……」

「相手の男の雇い主がオルグ。で、借金という形にして返済か」

「はい」


 なるほどねぇ……


「借りた当初は返済を迫られることもあまりなかったのですが、去年辺りから毎月の返済額が指定されるようになりまして」

「それで今月は小金貨二枚か」

「はい」

「そして、必死に稼いだ一枚が盗まれ、盗んだ相手がオルグのところへ……って、一言いいか?」

「何でしょうか?」

「お前、(だま)されてるだろ」

「え?」

「あの店、食器も扱ってるんだろうけどさ……一番高いのでも大銅貨数枚レベルだろ?」

「え?……あ」


 コイツ、今まで気づいてなかったのか。馬鹿なのか?馬鹿なんだよな?


「で、でも、貴族様相手の品だったりとか。ほら、そう言うのは店先に置かないでしょうし」

「あの店が貴族と付き合いがあるように見えるか?」

「他の商店との取引だったりとか」

「無いな」

「えー」

「オルグって奴のことはよく知らんが、お前、騙されて金巻き上げられてるだけだろ」

「うう……でも」

「ま、騙されているとしても、手続きはきちんと行われて、借金奴隷になってるわけか」

「まあ、はい。そうです」


 通常、借金奴隷となった場合は金を貸した者が経営する店や工房などで働いて返す、というのが一般的だが、ポーレットの場合、優秀なポーターとして働かせた方が稼ぎがいい。

 返済の間隔、金額は指定するが、どうやって稼ぐかは指定しないというのは、冒険者が借金奴隷になるときに多い形でもある。


「で、期限通りに返せないと……」

「娼館送りです」

「ふーん」


 今はまたフードを被ってしまったが、先ほど見た限りでは――リョータの主観込みで言うと――なかなかの美少女である。体型は非常に残念だが。そして……


「まあ、私のような半端者は普通の店で働かせても色々マズいですからね。そういうところ(・・・・・・・)では需要があるみたいですけど」


 さすがにこっちの世界でも年齢的にアウトッぽい。そういうところ、というのは……違法すれすれどころか違法な店なんだろうな。


「半端者?」

「はい、半端者です。ハーフエルフなんて、人間社会でもエルフ社会でもまともに暮らせませんから」


 そう、ポーレットは濃い緑色の髪に、青い瞳でホンの少し尖った耳が特徴というハーフエルフだった。


「ハーフエルフって……半端者って扱いなのか?」

「ご存じないのですか?」

「イヤ全然……エリスは知ってた?」

「知りません」


 聞いてみるがブンブンと首を振る。こっちはこっちで、獣人の社会で暮らしていたから当然か。


「そもそも、エルフ自体、見たこと無いしな」

「私は一度だけ。遠くからですけど」

「へえ」

「私も見たこと無いですね」

「はい?」


 ポーレットがエルフを見たことがない?ハーフエルフってことは片親はエルフだろうに、見たことがないとは?


「私の場合、父がエルフなのですが、物心ついたときには既に母と二人暮らしでして」

「フム」

「一度だけ父がどこでどうしているのか聞いたことがあるのですが……捨てられたと」

「は?」

「私が生まれて一年ほどだった頃に、ポイッと」

「ひでえ話だな」

「良くある話らしいですよ」

「そうなのか」

「エルフは千年以上生きる種族らしいですからね。人間が数年歳を取るだけでもエルフにしてみれば数十年単位で歳を取るわけで」

「まあ……感覚的にはそうなるのか?」

「その……父は若い女性が好みだったとか」

「探し出して説教しろ!謝罪させろ!土下座もぬるいわ!女の敵どころか男にとっても敵だ!」


 エルフに対するイメージが崩れていく。そのエルフの個人的嗜好だと信じたい。


「で、母と二人で暮らしていたのですが、五十年ほど前に母も亡くなり、生きていくためにと冒険者資格を取って現在に至ります」

「ちょっといいか?」

「はい」

「五十年前に母が亡くなった?」

「はい」

「ポーレットって、いくつなんだ?」

「女性に歳を聞くなんて失礼ですよ」

「あのな」

「それに年上は敬うべきです」

「その重ねた人生経験であっさり騙されてるとかどうなんだよ」

「う……痛いところを」

「……まあ、半端者というのはわかった」

「どうも」

「ハーフエルフって意味じゃ無いぞ?歳だけ食ってて社会経験というかそう言うのが甘すぎるって意味の半端者だ」

「ぐ……それはそれとして、ハーフエルフってエルフの血のおかげで長生きですから。そういうところ(・・・・・・・)では若い女性が好まれるとも聞いてますし、そういう意味では十年や二十年……働いても……その……それほど……歳は……取りませ……」


 ダン!


「ひっ」

「もういい」

「え?」

「それ以上はいいって言ってるんだよ」

「はあ……はい」


 これ以上は聞きたくない。

 前世でもリョータはそういう店を利用したことは無かった。行ってる時間も金も無かったというのが正確なところだが。では、そういう店に嫌悪感があるかというと、別にそんなことは無い。人それぞれ、と言う程度の認識だし、こちらでは王都なんかでも、堂々とそういう店が並んでいるのが普通なのだから。だが、そこで働くに至る経緯がポーレットのようなケースというのはさすがにどうかと思う。半分以上自業自得だとも言えるが。

この作者の出すエルフ系がみんな残念な件

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