面倒くさい襲撃者
日が沈みそうになる頃にようやく、夜営予定地に到着したが、ナイジェフは体力の限界とばかりに毛布を広げるとそのまま倒れ込んだ。本当にこんなので行商人が務まるのかと心配になるが、いつも馬車移動だとこんなモンなのだろうか。
あきれてしまうが、地面にそのままというわけにも行かないので、ポーレットが荷物を解いて寝るためのシートを敷き、その上に寝かせ、毛布をかけてやる。
その間にリョータとエリスが手分けして火をおこし、食事の準備を始める。夜営の経験も積んでいるので慣れたものだ。
「はは……スマンね。いやはや、情けない」
「雇い主にあまり言いたくありませんが、そう思うなら、歩くペースを考えながら歩いてください」
「どうにも気が急いてしまってねぇ」
やっぱり商才がないだろこの人。
ややジト目になりながら、食事の仕度を進めていく。この状況……野菜と薬草を煮込んだスープにパンでいいか。
鍋を火にかけてすぐ、エリスが耳をピンと立て、周囲を警戒しながら立ち上がる。
「リョータ」
「数は?」
「たくさん……周りを囲んで近づいてきてる」
「了解……ポーレット、ナイジェフさんのそばを離れないで」
「あの、私、戦闘は」
「起き上がれない人を放置出来ないって程度でいいから」
「わかりました」
そんなやりとりの間に、リョータの耳にもガサガサと藪をかき分けてくる音が聞こえた。後ろから四人分か?だが、エリスは前方を警戒したまま。どうやら本当に囲まれているらしい。既に日も落ちてすっかり暗くなった状態でまともに戦闘をするつもりはないので、魔法のイメージを固めていく。
ガサッ
ひときわ大きな音と共に人影が飛び出してきた。どう考えても野盗の類い。賞金がかかっているか、まだかかっていないかのどちらかだろうから、手加減の必要はない。
「雷撃!」
ズドンと言う音がするほどの威力で稲妻が走り、向かってきていた人影四人の体を貫く。死んではいないと思うが確認している余裕はない。
「リョータ!矢!」
「壁!」
エリスの声に応えたリョータの声と共に地面から土の壁がせり上がり、トトッと何かが当たる音がする。同時にタタンッと何かをたたき落とす音も。エリスが数本の矢を叩き落としたらしいが、どういう動体視力をしていたらそういうことが出来るのだろうか。
「大丈夫?」
「問題ない。エリスは?」
「平気」
「人数は?」
「多分五人。距離は二十メートル」
「了解……雷撃!」
二十メートルほどの距離で広範囲に雷を落とす。
「確認してくるね」
「気をつけて」
かなりの範囲に落としたからよくて全身痙攣、下手すりゃ重度の火傷かな。ま、普通の野盗程度が接近戦でエリスに勝てるとは思えないので任せることにして、
「こっちの四人を縛り上げるから手伝って」
「はい」
「あ、あの……これは……追加の……支払いとか……」
「別料金にはなりませんよ。護衛のうちですから」
どうにか起き上がったナイジェフに答えるが……心配するところが違うだろ。
用心しながら近づいてみたが、後ろから来ていた四人は電気ショックで気絶していた。幸い直撃はしておらず、火傷などはないようで、安心してズルズルと引きずって集め、ポーレットが用意したロープで縛り始める。
二人縛り終えたところでズルズルと引きずる音と足音が近づいてきた。
「エリス、大丈夫だった?」
「うん。五人全員倒れてたよ。さすがリョータ!」
そう言いながら引きずってきた二人をドサッと転がす。まだピクピク痙攣しているのが正直キモい。
「はは……全員縛り上げるからこっちに」
「うん」
「動くな!」
「「!」」
鋭い声に振り向くと、そこにはナイジェフに羽交い締めにされナイフを突きつけられたポーレットの姿が。
「えーと……」
「大人しく武器を置け!」
「あの……」
「武器を置けと言ったのが聞こえんか?!」
仕方なく、ポイッと短剣を放り捨てると、少しだけナイジェフの手元が緩むのが見えた。
「スタンガン」
「うっ!」
「きゃっ!」
手に持ったナイフを狙い放たれた電撃はそのままナイフを伝わってナイジェフの体を流れる。若干ポーレットにも流れたようだが、そこはまあ……冒険者として我慢してもらおう。
「こ……れ……は……」
「エリス、残りを連れてきてくれ。ポーレット……大丈夫か?」
「なんかビリッとしたけど、平気」
「じゃ、こいつも縛り上げるから」
「うん……わかった」
二人で手分けして縛り上げているとエリスが残りの三人を引きずってきた。
「リョータ、これ」
「うん……ちょっとだけ予想してた」
残り三人はジェネロとそのお仲間だった。と言うことは……
「ナイジェフさん……イヤ、ナイジェフ。お前も含めて全員賞金首か?」
「知らんな」
国によって多少違いはあるのだが、犯罪をやらかしたのち逃走すると、大抵賞金がかけられる。だが、人相書きや名前なんてほとんど当てにならない。髪型を変え、ヒゲを伸ばしたり剃ったり、あるいは服装を変えるだけで簡単に人相は変わるし、名前だって偽名を使ってどこかで登録して身分証を発行、なんてのは簡単にできる。だからどこかで賞金がかけられていても、衛兵が直接面識がない場合は素通りしてしまうケースは多い。
「あの」
「なんだ?」
「こっちの二人、あとそっちの一人、賞金がかかってるって貼られてました」
捕らえた九人のうち、ジェネロたち三人ともう三人が賞金首。残りも多分賞金首だろう。
「はあ……困った」
「何が困ったの?」
「エリス……ジェネロの賞金の貼り紙、覚えてる?」
「いえ」
ですよね。エリスはそんなの興味ないもんね。俺もだけど。
「確か、生死問わずではないんだよ。つまり、生け捕りにしないと賞金がもらえない」
「生け捕り……」
「つまり、賞金をもらおうとしたら、こいつら連れてライトリムまで戻らないとならない」
「うわ……」
「面倒くさいですね」
二人ともやっと事態が飲み込めたか。三人で十人の賞金首をつれて歩くというとんでもなく面倒な状況になっていると。
「どうします?」
「どうって……そう言うポーレットはどうすればいいと思う?」
「うーん、賞金は欲しいですけど……うーん……」
生け捕り限定の場合でも、捕らえるのが困難なときには殺しても構わない。ただし、その場合、賞金は大幅減額かゼロだ。ポーレットの詳しい事情は知らないが、借金奴隷と言うことは少しでも稼ぎたいはずだろう。だが、この状況では今回は大赤字になりそうなので、貴重な収入源である賞金の減額は痛い。
なお、仮に殺してしまった場合、それなりの人物の証言がない限り信用されないため、首を持ち帰る事が推奨されている。つまり、まあ……そう言うことなのだ。
「私、十個も生首を背負いたくないですよ?」
「俺だってやだよ」
「私もイヤですよ」
三人の意見が一致した。
「さて、そうなると……どうしようか」
「埋めましょう」
「それ、いいですね」
「イヤ、ダメだろ」
エリスの提案にポーレットが乗った。だが、賞金首が確実に死んでいることを証明しなければならないため、却下だ。




