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  作者: ひじきとコロッケ
ルトナーク
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転落していく冒険者

「心配するな。俺たちの(おご)りだ。なんでも頼んでいいぞ!」

「えーと……」

「もちろんお前だけじゃない。エリスも呼んでいいぞ」


 そう言いながらも、呼びに行かせるつもりが無いようでズルズルと引っ張っていく。


「エリス!この人たちがご飯奢ってくれるってさ!」


 ちょっと大きめの声を出すが、アーティスは「イヤ、さすがに聞こえないでしょ」とそのままギルドの出口をでると……エリスが待っていた。ご飯の奢りが嬉しいのか、尻尾がパタパタ揺れている。


「え?」

「言ったでしょ?エリスの耳はすごいんです」

「えーと……」

「ご馳走になります!」


 値段の割に量が多く、味も良いという店に案内され、堪能できたのだが、ラビットソードに関しては、


「すごい切れ味の剣です」

「あの切れ味がすごいで済むか!どういうことだ?!」

「死んだじいちゃんの遺産です」

「ほう、あんなものを持っているとなると、かなりの有名人のはずだ。名は何と?」

「いやあ、西の方の小さな村に住んでた、元Dランク冒険者ですよ」


 勝手にでっち上げている亡き祖父に元冒険者でDランクという設定が追加されてしまった。


「でもよ、あんな剣を持ってたんだろ?」

「いやあ、ははは……おっと、アーティスさん、グラスが空ですよ」

「お」

「ほい、こちら……」


 近くにあった瓶からついでやる。


「ハイ……乾杯!」

「おう!乾杯!」


 このノリでなんとか乗り切るか。エリスの方は……アーティスさんのとこの女性冒険者に囲まれていた。ま、問題ないだろう。




「今日はどうもごちそうさまでした」

「ああ」


 狙い通りアーティスさんを酔い潰し、色々な追及を回避出来た。コレでこの件は明日の午後に巨大トカゲの報酬をもらえばおしまい。ギルドの宿に泊まっている俺たちと違い、アーティスさんたちは一軒の家を借りて住んでいるそうだから、会うことも無いだろう、多分。

 彼らと別れてギルドまでの道をエリスと歩くのだが……やはり距離を取られている。


「……風呂に寄っていく」

「うん……」


 一応、社交辞令として我慢していたらしい……奢りで食べ放題という方に惹かれた可能性もあるけど。




 翌日は特に何もせず、というか街で消耗品の買い物をしてまわる。巨大トカゲの解体梱包で大量にロープを使ったし、怪我人の応急手当に包帯なんかも提供した。状況的にジェネロのパーティに請求しても問題ないとギルドから言われたが、どうせ古くなっていて買い換えようと思っていたところだったのでとやめておいた。ついでに服も新しいのを買いたいところだが、もう少し大丈夫かとも思えるので悩みどころ。エリスの意見を聞いてもいいのだが、基本的に「リョータに任せる」という返事なのが困る。破けたり穴が開いたりしていなければいいという程度の認識だが、あまり貧相な格好もどうかと思うし。

 夕方の忙しくなる時間帯になる前にギルドへ戻り、巨大トカゲの報酬を受け取る。ほぼ全部を持ち込んだのと、地上で解体したので鮮度が良く、かなりの高額査定になった。


「支部長から伝言があります」

「支部長から?」

「と言うよりも、ギルドとしての報告ですね」

「はあ」

「ジェネロさんたちですが」

「はい」

「今朝方、問題を起こしまして」

「問題?」

「詳細はお伝え出来ませんが……罰金と、冒険者ギルドから追放となりました」

「追放、ですか」

「はい。ですので、ギルドとは関わりがなくなります」

「なるほど」

「ですが、あの性格です」

「……逆恨みとかですか」

「そう言うことになります。罰金の支払いのために武器も手放していますが、念のため」

「わかりました」


 フラグ、立ってないよな?

 結構な額なので、一度街から出て転移魔法陣で工房へ保管。


「ずいぶん貯まったな」

「そうですね」


 両替というのが気軽に出来ないのでまとまりがないのだが、中金貨二十枚に、小金貨が五十枚以上、大銀貨が……数えるのが面倒な程。単純な現金の所持としてみると、Sランク冒険者に匹敵するくらいの額だ。そして、普段の生活では一日に中銀貨一枚も使うと「今日はかなり使ったな」という感じだし、この街での稼ぎは一日に中銀貨数枚と、増える要素しかない。


「何か大きな買い物をしてもいいかも」

「大きな?」

「と言っても思いつかないけどね」


 当分は旅を続けることになるから家を買うわけにも行かない。かと言って、装備品を充実させようと思っても、武器はラビットソードを超える物がなく、鎧は今のところ革鎧で困っていない。靴もサンドワームの皮で作った靴はとても丈夫で予備も作ってある。魔王を倒すとか言う目的があるわけでも無いし、ダンジョンを攻略する予定もないので、今以上の装備は過剰を通り越してしまう。


「急に必要になることもあるだろうし、無駄遣いはやめておこう」

「はい」

「でも、欲しいものがあったら言うんだよ?」

「わかりました」


 こう言っておいても、なかなか自分から「コレが欲しい」と言い出してくれないので、何かと気を遣う。もう少し、我がままを言ってもいいと思うのだが、奴隷紋と言う奴のせいでそのあたりの行動も制限されてしまうのだろうか?あえてこれ以上は言わないでおくが。

 手持ちの現金としてもある程度まとまってきたので、そろそろライトリムから移動しようかと話しながら、ギルドまでの道を歩く。夕食には少し速い時間帯なので、普段あまり行かないような所も歩いてみようと話しながら。


「ちょっと話を聞いてもらってもいいですか、そこのお二人さん?」


 いきなり声をかけられたが、はて……と辺りを見回す。二人組で歩いているのはリョータたちくらいか。声の主は、中年の男性。笑顔は見せているがどこか隙のない感じで服装からすると行商人のようだ。


「俺たち……ですか?」

「ハイ。冒険者とお見受けしますが、いかがでしょうか?」

「まあ、そうです」


 否定するとあとで面倒になりそうなので肯定しておく。


「ちょっとだけお話よろしいでしょうか?」

「聞くだけなら」


 二人とも魔の森探索用の荷物こそ背負っていないが、武装はしたまま。いきなりこの男が豹変し、周囲を仲間に囲まれても強引に突破するくらいは可能だろう。


「わたくし、行商人をしている、ナイジェフと申します」

「どうも……」

「早速で申し訳ないのですが、お仕事を引き受けてもらえないでしょうか?」

「仕事?」

「はい」

「ギルド経由では?」

「急な話ですが、明日には出発したいのです」


 行商人が冒険者ギルドに仕事を持ち込んだ場合、依頼者の審査などで受理されるまでに一日、時には数日かかることもある。これは行商人という者がそれこそ国境すらまたいで転々としている職であるために、その人となりが不明確なことが多いためにギルドとしても慎重にならざるを得ないのが原因。だが、そもそも広範囲を自由自在に移動しながら商売をするのが行商人であって、特定の地域だけを相手にしている行商人は行商人とは呼ばない。オマケに例えば今この時点でライトリムに滞在しているとしても、次に訪れるのは数年後というのは珍しいことでもないから、余程頻繁にギルドを利用しているか、何らかの人脈がない限り、ギルドに護衛を頼んでも数日間見てくれと言われるのはごく普通のことであり、行商人もそのことは承知している。

 そして、そんな事情から、行商人の中には自分で冒険者に直接交渉して護衛を依頼する者も少なくない。この場合、護衛の結果がどうあろうともギルドは一切関知しない。契約上の不備があって冒険者が不利益を被ったとしても。ただし、ギルドが関与しないと言うことは依頼者が支払う報酬は全て冒険者の物になる。ギルドが間に入らない分、冒険者は報酬が増えるし、依頼者も払う額を減らせる。


「詳しい話を。受けるかどうかは聞いてから判断でいいですか?」

「ええ、もちろん」


 ナイジェフが泊まっているという宿の食堂で話を聞いた結果はごく普通の護衛だが、荷物を急いで運びたいという事情が特殊というものだった。

 目的地はライトリムから歩いて一日と少しの距離にある村。運ぶ荷物の詳細は言えないが、鮮度が重要で、明日出発してギリギリと言う状況。


「報酬はこのくらいなのですが」


 示された額はギルドが決めている額よりもやや多い。だが、依頼者が支払う額としてはギルドに支払う額よりもやや少ない。互いにWin-Winの関係になるような額だ。


「明日の早朝出発ですか」

「ええ。うまく行けば明日中に着けますから」

「ふむ……」


 内容は至極真っ当だ。だが、一つ問題がある。


「俺たち、いきなり泊まりがけで出掛けるような用意が出来ていません」

「そのあたりはご心配なく。道中の食事は私の方で手配をしています」

「へえ」

「急ぎで頼む以上、このくらいは」

「では……目的地の村まで一日と少し、もしかしたら一日で着けるかも、ということでナイジェフさん一人を護衛」

「いえ、違います」

「え?」

「実は荷物を運ぶためにポーターを一人頼んでいまして」

「では二人を護衛と言うことで?」

「はい」

「参考までに、ポーターは誰を?」

「ご存じかどうか……ポーレットというポーターです」

「ああ……」


 あの……とんでもない重量のはずの荷物を背負って平然と歩いていた……うん、まあいいか。


「わかりました」


 明日の出発時刻と集合場所を確認すると「では、よろしく」と別れた。さて、初めてギルドを介さない仕事をするわけだが……何ごとも経験だ。




 ギルドに戻ると、職員が掲示板に物騒な物を貼り付けていた。


「賞金首……ジェネロ……ですか」

「ええ……何というか……こんなに早く賞金首になるとは予想外でした」


 街門の衛兵を殴りつけて強行突破したらしい。そのせいで、門の警備が厳重になっており、通るのに少し時間がかかるようになっているとか。迷惑な連中だ。


「今は街の外にいる、と」

「気をつけてくださいね」

「えーと……」


 別に違法でも何でも無いので、ギルドを介さずに行商人と交渉し、明日から数日外に出ると告げた。


「はは……尚更気をつけてください」

「ええ」


 ポーレットが同行することは言わなかったが、どう考えてもジェネロの恨みを一番買っているのは彼女だろう。次点で、一番報酬を多くもらったリョータたちか。逆恨みもいいところだが、それをわかっている連中ではなさそうだ。注意していよう。

 明日の出発が早いので、早めに夕食を済ませてさっさと寝る。面倒な問題が増えてる気がするが、賞金首になったのなら問答無用の対応ができると言うことでもあるから、なんとかなるだろう。

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