怪力少女?
「さてと」
ベテランパーティのリーダーが逃げてきたパーティのリーダーに話しかける。
「名は?」
「ジェネロだ」
「そうか、ジェネロ。俺はBランク冒険者、アーティスだ。今回の件についてだが「そ、それは!」
ジェネロがようやく起き上がって崩れた荷物を整え始めたポーターを指さす。
「この!こいつ、こいつが「黙れ!」
「え?」
「詳細をここで聞くつもりはない」
「え?」
リョータたちにとってもこの返事は意外だった。詳細を聞かないとはどういうことだろうか?
「話はギルドにもどってからギルド職員にしてくれ。今はここをどうにかすることを優先する」
「……はい」
なるほどね。余計なことを聞くつもりはないと。
「リョータたちも手伝って欲しい」
「何をすれば?」
「コイツの解体だ。君たちの剣ならスパスパ切れそうだ」
「それは構いませんが、解体手順の指示はお願いします」
「わかった。グラン、二人に指示を」
「あいよ」
「こっちはこっちで、薬草採ってくる」
「アレか」
「おう」
アーティスのパーティのベテランポーター、グランが「ここをこっちに」とか「こうやって切ってくれ」と指示を出してくるのでその通りに切っていくと、面白いくらいに細かく切り分けられ、コンパクトにまとまった。リョータ達が適当に切ったら絶対こうならないというレベルで。作業しながら聞いたのだが、ここで解体し、すべて片付けないと死体の臭いで魔物が寄ってくるので可能な限り持ち帰るという。ホーンラビット程度でも、放置すると数十単位で集まってきて、ベテランでもちょっとお断りしたい数になるので、きちんと処理する。ダンジョン入り口付近なんて、出発前の一息、戻ってきてからの一休みの場だから余計に気を遣う。中から大型の魔物が出てくるようなことがあるようなダンジョンでは特に注意するように言われた。二人しかいないのにダンジョンに本格的に挑むつもりはないが、肝に銘じておこう。
リョータ達が解体を終えた頃には、怪我人の手当も終わり、協力して街へ戻ろうとなったのだが、
「このデカいの、どうやって持っていく?」
グランの荷物もかなりの大きさで、アーティスたちが分担して持つほど。そこに巨大トカゲ一匹丸々はちょっと持って行けない。ダンジョン内ならある程度放置しても問題ないのだが、ここでは置いていくことも出来ない。持って帰れないなら、埋めるか燃やすかしなければならない。結構高く買い取られるらしいので、勿体ないなと思っていたらジェネロが意外なことを言った。
「ウチのポーターに持たせる」
「え?」
「おいおい、無茶言うなよ」
あの小っさい女の子に?とリョータと同じ疑問をアーティスたちも持つのは当然か。
「あのっ!大丈夫です。崩れないようにまとめてさえあれば」
「は、はあ……」
とりあえず言われるままに解体したトカゲを袋に詰め、ロープで縛りながら一つにまとめ上げると、ちょっとした山になった。どう見ても重さの単位がキロじゃ無くてトン、という感じだ。
「えーと、ここですね」
背負えればいい、というので背負えそうな位置にロープで輪を作ったのだが、ためらうこと無くそこに腕を通していく。
「よいしょ」
「「「マジか?!」」」
全然気合いの入っていないかけ声一つで立ち上がった。
どう見ても重量バランスがおかしい。と言うか、あの細い手足でどうやって持ち上げているんだ?
「と、とりあえず持って行けそうだな……はは……何だコレ」
「アーティス、理解はやめよう」
「そうだな」
あっちは考えるのをやめたようだが……ギフト、かな?あまり追求する気は無いけど。
「えーと、ロープは……大丈夫そうだな」
「ハイ。街までは保つと思います」
背負えること以上にロープが切れないか心配だったがそちらも大丈夫そうだ。
「それじゃあとは……こっちはどうだ?」
「ちょっと待ってくれ……あとはコレを入れて、水で溶いて」
アーティスの指示で一人が木の鉢で何かをすりつぶしており、そこに水を入れた途端。
「!!!!!」
エリスが血相を変えて飛びすさった。
「エリス……?」
「スマン、獣人の彼女にはキツかったかな?」
「獣……え、何この匂い?!」
彼らが取ってきた薬草はすりつぶしただけでは、少し青臭い匂いがする程度なのだが、ある調味料を入れて水で溶くと強烈な臭いを発する。だが、ここから街に戻るにはコレが絶対必要になる。巨大トカゲは解体した。この辺りに残る匂いも数日たてば消えてしまうだろう。だが、帰る途中、怪我人たちの血の臭いはこれまた魔物を引き寄せる。そこでこうして作った液体を周囲にまきながら進むことで、魔物が近寄ってくるのを防ぐのだ。ちなみに効果は半日ほどで消えてしまうし、普通の人間でも結構キツい匂いなのでこういうときしか使わない。ダンジョン内で使ったら、魔物云々の前にこちらが参ってしまう。
「えーと、エリス」
「ひゃい」
「先に戻ってギルドに連絡を入れておいて」
「ふぁい」
エリスは鼻をつまみながら頷くとすぐに走って行った。コレ、服にも臭いが付きそう。エリスに二、三日距離を置かれそうだ……
帰り道は特に誰かが話をすると言うことも無かった。淡々と「そろそろ薬を」「こっちにまいて」「具合はどうだ?」という事務的な会話のみで息が詰まりそうだ。時折ポーターの少女に目をやるが、あの重さを何とも感じていないようで、特にペースを乱すこと無く隊列に付いてきている。ポーターを評価する基準には色々あるが、運ぶ量だけで言えばトップクラスと言って過言では無い。確かにダンジョンのような狭い通路の多いところでは今背負っているサイズを運ぶのは無理だろうが、重さを全く気にしないと言うことは鉱石なんかを運ぶにはもってこい。ベテラン冒険者からも引く手あまただろうに、前回と同じメンバーと共にいると言うことは専属のポーターなのだろうか?
「っと、右前方ホーンラビット」
「了解」
「左からも来た」
「任せてください」
考えていてもモヤモヤするだけなので、ホーンラビットの相手をして気を紛らわそう。
怪我人を連れていることもあって、普通なら一時間ほどの距離を二時間かけて街に着いた。門をくぐるとエリスの連絡を受けたギルドの職員が荷馬車を用意していたのだが……巨大トカゲはとても乗せられる大きさでは無かったため、代わりに怪我人を乗せた。ポーターの少女曰く、「特に疲れていないので、ギルドまで歩くのも問題ありません」とのこと。歩くだけならわかるがあの荷物の量だ。魔法を使っているように見えないのでやはりギフトか。
ギルドに着くとエリスが待っていたのだが、やはり臭いがきついらしく距離を置かれた。「この後すぐに風呂に行こう」と小さく呟いたら、ブンブンと首を縦に振っている。
「えーと、とりあえず代表者だけでいいからこっちへ来てくれ。リョータもいいか?」
「え?俺?」
「ああ。まさかここまで来て無関係って事は無いだろう?」
「わかりました。エリス、部屋で待ってて」
「はい」
アーティスに言われるまま、奥にある会議室へ入ると、支部長以下数名の職員が険しい顔で待ち構えていた。んー、俺自身は特に何か悪いことをしたというのは無いんだが、緊張するな。




