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  作者: ひじきとコロッケ
ルトナーク
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ポーター

 冒険者ギルドに到着を告げて、そのまま宿を取る。常設依頼を見たところ、ホーンラビットと薬草が数種類。この辺は定番だが、他にもいくつかの木の実や大トカゲといった魔物も常設依頼に入っていた。大トカゲはダンジョンに入る必要があるが。

 そしてダンジョンだが、魔の森に入って二時間程度の範囲に十前後の入り口があるそうだが、全部つながっている。だいたい近場の三ヶ所がよく使われている。どこから入っても一時間程度で深い層へ降りていけるが、深い層はいきなり大トカゲのさらに巨大版のような強い魔物が現れる上、下手な逃げ方をすると地上まで出てくるので注意。

 なかなかハードな感じだが、Eランク程度でもしっかり役割を決めたパーティならなんとかなるらしく、この街の冒険者は結構稼げる方、らしい。


「エリスはダンジョン入ってみたい?」

「巨大トカゲはちょっと……」

「だな」

「はい」


 とりあえず金に困っているわけではないから、のんびりホーンラビットでも狩りながら少し過ごすことにしよう。

 だいたいの情報を確認したところで、買い出しに行くことに。ストムからこっち、バタバタしっぱなしでロープなんかの消耗品の補充が全然できていない。ささくれだった心のリハビリと言え、ホーンラビットや薬草を縛るためのロープや、休憩するときのたき火の火口はしっかり準備しておきたい。

 店の場所を教えてもらってから出ようとしたら、ちょうど帰ってきたパーティがいた。八人というのは結構な規模のようだが、D~Eランク冒険者が巨大トカゲとかの相手をしようとすると、前衛だけでも五人は必要らしいので、この街基準で言うと小規模かな。

 ガヤガヤと受付に向かうのを何となく見送る。前衛が四、後衛が弓一、魔法二にポーターが一。前衛のうち二人がかなりベテランの雰囲気なので、これで充分やっていけるんだろうな。

 そして、すごく気になるのがポーター。リョータとそれほど変わらない背丈の少女なのだが、身長の倍はありそうなリュックを背負って歩いている。どう見ても大きさとか重さとかバランスがおかしいのだが、その足取りは重さを感じさせていない。

 少女はリーダーっぽい奴の指示で受付の前でドス、と重い音をさせながら下ろすと中身を次々と出していく。布に包まれているのは多分、巨大トカゲの肉かな。おお、丸ごと一匹の大トカゲも出てきた。

 ……って、ホントにすごい量だな。ぱっと見で百キロどころか二百キロくらいありそうに見えるんだが、どう見てもそれを背負っていた少女の手足はそんな物を背負えるように見えない。なにかのギフト持ちだろうか?

 ま、気にしても仕方ないのでエリスと共に外へ出た。冒険者なんてランクが低くても、トンでも能力者がいることは珍しくない。滅多に見られない物を見たって事で。




 買い物を終えてギルドに戻ってきたら、ちょうどさっきのパーティが出てきたところだった。


「お疲れさん」

「おう」

「飲みに行こうぜ」

「イヤイヤその前にだな」


 なんて話をしているところからすると、結構稼げたんだろう。量がすごかったし。

 そして、最後に出てきたポーターの少女は空っぽになった馬鹿でかいリュックをたたんで胸の前に抱えながら、ピョコンと他のメンバーにお辞儀をした。


「ほ、本日はありがとうございました!」

「「「……」」」


 誰も返事をしない。


「え、えと……それでは失礼します」


 そう言って、メンバーの横を抜けて駆けだした途端、「あっ」と小さな声と共に転倒した。転んだ理由はとても簡単で、パーティの一人がサッと足を引っかけたから。


「うう……え、えへへ……転んじゃいました」


 ペコペコしながら立ち、パンパンと土埃を落とすと足早に去って行った。胸糞悪い物を見せられたが、だからと言ってどうすることもできない。

 ここライトリムは人口三万弱の比較的大きな街。人がたくさんいれば、こう言うことは珍しくない。いちいち関わっていられるほどリョータたちもヒマではない。彼らの間に何があったかはわからないが、彼らなりの何かがあるのだろう。

 それに、もしかしたら、万に一つの可能性として……アレをご褒美と思うような人種かも知れないし……とも思ったのだが、どうやら違うな。

 少しムッとしているエリスを促してギルドへ入り、自分たちの部屋に戻る。


「何だか、イヤな感じ」

「そうだな。だけどあんなのにいちいち関わっていたら体がいくつあっても足りない」

「それは、わかるけど……」

「エリス、あの子が何も抵抗しなかったのは……あの子が奴隷、借金奴隷だからだ」

「え?」


 少女の顔はフードで隠れてよく見えなかったが、転んだときに左手首に特徴的な紋様があるのが見えた。借金奴隷の場合に刻まれる奴隷紋は返すときに記録しやすいように腕に刻むことが多いらしいし。


「借金奴隷……って、いくらぐらいの借金なんでしょう?」

「俺も詳しくないけど、確か……金貨数十枚単位」

「ふええ……」


 そのくらいの額は工房にしまってあるけど、じゃああの少女のためにポンと渡すというのは間違っている。そんなのは偽善ですら無い。




 ポーターには二種類いる。特定の個人やパーティといつも行動する専属ポーターと、一回いくら、一日いくらで働く、雇われポーターだ。あの少女が雇われと言う可能性は……低いような気がするな。互いのことをよく知っていたような感じだったし。

 だが、専属ポーターかというとそれも何か違う気がする。

 ポーターは時としてパーティの生命線になる。街でふざけ合うレベルならともかく、あれはちょっとふざけてみました、というレベルではない……だけど、雇われだとしたらあの少女はあのパーティと組みたがらないだろう。

 あのパーティの誰かに借金をしている?可能性はありそうだけど何とも言えないな。この街はダンジョンが比較的近く、稼ぎやすいこともあって、ポーターの需要は高いらしいから、あのパーティにこだわるとしたら借金くらいかとも思ったが……よくわからなくなったので、考えるのをやめた。

 翌日、エリスと共に魔の森へ入り、薬草メインで調査。思った通り、常設依頼にある薬草は、簡単に見つかる。が、エリス期待の荷車改造の材料にできる薬草が見当たらない。他にも西方面ではよく見かけた薬草がないからやはり植生だろう。

 誰の目にもはっきりわかるほど耳と尻尾をしょんぼりさせたエリスをどうにか慰めながら、街へ戻る。無いものは仕方ないので、代用品がないか探すことにするか。諦めてもらった方が早そうだけど。

 翌日は本格的にホーンラビット狩り。見即狩で、スパスパ仕留め、気づいたら軽く三十羽を超えていた。少し狩りすぎたねと、重さに苦労しながら二人でギルドまで運び込んだら、受付嬢に呆れられた。Cランク冒険者ならもう少し他の事ができるでしょうにと。

 詳しく聞いてみると、ダンジョンの入り口を過ぎてさらに奥に行くと、やや高価な薬草や木の実等が採取できるらしい。ほとんどの冒険者がそこまで行かずにダンジョンに入ってしまうため、需要は高いのに供給が全く追いついておらず、常設依頼の報酬も他の街と比べるとやや高くなっているらしいから明日はそっちに行ってみよう。

 翌日、教えてもらったとおりに進んでいくと、比較的大きな洞窟が口を開けており、周囲に数組のパーティが荷物の整理をしていた。

 これから入るのか、戻るのか、そこまではわからないが、ダンジョンアタックの冒険者パーティだ。さすがにリョータとエリスの二人だけと言うのは無謀すぎるように見えるので、ほぼ全員から「おいおいマジか」という目で見られたが、ダンジョンに入るのではないとわかると、こちらへの興味をなくしたようだ。

 冒険者は自己責任の世界だから、二人でダンジョンに入るのは自由だ。そしてそれによって命を落としたとしても。だが、周りに迷惑をまき散らしながらダンジョンを駆け回られてはたまった物では無い。もしも二人がダンジョンに入ろうとしていたら、ここにいる全員が全力で阻止したであろう事は間違いない。

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