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  作者: ひじきとコロッケ
ヘルメス
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ダンジョン

「今日はここまで」

「は、はい……」


 研修二日目。『自分でホーンラビットを探す』という課題の元、一日中必死に走り回った結果……


「はい、今日は二羽、ですね」


 昨日、いろいろな冒険者から教わった知識によると、ホーンラビットはそれほど警戒心の強い魔獣ではなく、比較的好戦的で探すのに苦労することはないらしいのだが、全然見つからず、一日掛けてようやく二羽である。


「何がいけなかったのかな……」

「反省するというのは大事だぞ」

「うーん……」


 そう言えばこんなことも聞いたな。『ホーンラビットは好戦的だが、命知らずじゃない。絶対ヤバいと感じた相手からは逃げる』『重傷負ってたりするとホーンラビットの相手も厳しいことがある。そういうときは殺気を振りまくんだ』


「……あの、リナさん」

「何かな?」

「念のために聞くんですが、もしかして、今日ずっと殺気を発してませんでした?」

「……な、何のことかな?」


 あさっての方を向いてヒューヒューと口笛を……吹けてない。


「いつ頃気付くかな、と思ってたんだけど、案外鈍感だった」


 ナタリーの一言が胸に突き刺さる。


「えっと……一応聞きますけど」

「なんだ?」

「殺気を感じ取るのも研修、と言うこと?」

「当然だ」

「はあ……」


 実のところ、何となくそんな感じはしていたのだが、言って良いのかどうかと迷っていたらこうなったのだ。言いたいことを胸の内にしまってしまいがちな……社畜の悲しき習性だ。


「さ、ロープの結び方だ」

「はい」


 この日はさらに三つの結び方を教わった。忘れないうちに何度も復習しなければ。


 翌日、早速朝から殺気を放ち始める四人に、「やめてください!」と突っ込みを入れながら探す。何しろこの四人、微妙にリョータから距離を取りつつ、ホーンラビットが近くにいそうだとわかると、途端に殺気を放ち始める。

 だが、繰り返す内にどこにホーンラビットがいるのか、何となくわかるようになってくる。そして同時に、殺気を放ちそうな雰囲気も。


「よしよし、だいぶわかってきたみたいだな」

「はあ、はあ……そりゃ、そうです……」


 この日はなんとか四羽狩り、新たなロープの結び方を三つ教わった。



 四日目。


「今日は少し奥へ行く」

「はい」


 魔の森――と言っても草原だけど――を歩くこと一時間。木がまばらに生えてきてもう少しで森っぽくなるあたりまで来たところで止まる。


「さて、ここではシエラに任せよう」

「はいは~い」


 スタスタと歩いて行き、リョータをこっちこっちと手招きする。


「今日は薬草採りだよ」

「薬草ですか」

「じゃ、薬草について説明ね」


 街によって需要が少し違うものの、ほとんどのところで六種類の薬草が採取・買い取りされているそうだ。そしてヘルメスではそのうち三つが常設依頼になっている。ヘルメス周辺では数十種類の薬草が採取できるので知っておいて損はない。


「薬草の見分け方もそうだけど、採取する部位、採取したあとの処置も覚えないとね」


 薬草によって、葉だけ、花だけ、根っこまで等、様々だ。


「まず、これが……」


 よく似た別の植物と間違えないようにという注意や、薬草だけど毒がある種類もあるので注意することなどをじっくりと。


「こんなモンかな。薬草採取はここまでにして……あっちを手伝おう」

「あっち?あ!」


 ぴょんぴょんと跳び回るホーンラビット、片っ端から仕留めるリナとステラ、積み上げられたホーンラビット、やや涙目になりながら解体するナタリー。


「えーと」

「この辺、ホーンラビットがよく出るからね。一人で薬草採取は禁止」

「そうですね。薬草採ってる間に襲われるのはちょっと……」

「シエラ……見てないで手伝って……」

「おう」


 ナタリーも決して解体が下手なわけではないが、一羽解体している間に二、三羽追加されるというペースでは追いつかない。


「そうだ、リョータ」

「はい?」

「ホーンラビット解体の練習」

「わかりました」

「解体できた分はリョータの取り分でいいよ」

「え?いいの?」

「ああ、いいぞ」

「せいぜい一羽だろうけど」


 リナが同意した。ステラの謎の一言が気になるが。


「では早速」


 一羽を手に取り、ナイフを手に解体に取りかかる。

 そしてリョータの隣に陣取ったシエラは……


「ほっ!」


 ホーンラビットを掲げ、スパッとナイフを走らせる……だけで解体が終わっていた。


「えええええええ!!」


「ほっ!はっ!やっ!」


 スパッ、スパッ、スパッ……三羽の解体が完了した。


「一体何がどうなってるんですか、これ」

「リョータ、シエラのそれは理解の範囲外だと思っていい」

「……はい」


 一段落つくまでにリョータはなんとか一羽(さば)き、残りを全てシエラが捌いていた。



 五日目。


「今日は少し違うところへ行く。と言うか、今日、リョータは多分何も狩らない……かな?」

「多分?」

「少なくともリョータがどうこうする予定はない。ホーンラビットが出てきたら任せるけど」

「?」


 ステラを先頭にズンズン進んでいき、薬草採取をしたところも過ぎて一時間ほど歩いたところで立ち止まる。


「ここ、見て」


 ステラが地面を示す。


 多くの冒険者が歩いた結果できた道。それがここで三方向に分かれている。


「まず左へ向かう」


 歩きながらリナが説明を続ける。


「真ん中の道は今日は行かない。というか初心者研修で行くことはない」

「危険なんですか?」

「単純に遠いだけ。魔の森には自然に出来たと思われる洞窟や、明らかに人工的に作られた建造物がある。それらを総称してダンジョンと呼んでいるんだが、真っすぐ進んでいくとヘルメスから行ける中では一番大きいダンジョンがある。一応、ヘルメスダンジョンと呼ばれている。だけど、今からだと着くのは夕方だな。行って帰ってくるだけでも精一杯になってしまうから行かない」

「なるほど」

「こっちの道もダンジョンが一つあるが、危険度の高い魔物は出ない。こっちは誰が呼び始めたかわからないけど、Dダンジョンと呼ばれている。浅い層ならCランク、Dランクくらいの五、六人が稼ぐにはちょうどいいくらいかな」

「今日はそこに?」

「まさか」

「さすがにリョータを連れて入るのは無理」

「だけど、いつか行くときのために道順くらいは知っておいてもいいだろうから、入り口まで行こうと思う」


 五分も経たないうちに道沿いに小川が見えてきたのだが……



「なにあれ……」


 道を埋め尽くすほどの大きなトカゲ――見た目も大きさもコモドオオトカゲのような奴だ――の群れ。距離を取っているので、こちらに気付いている様子は無いが、あれが全部こっちに来たらどうなるか。


「んー、おかしいなぁ」

「え?」

「あれ、どう見ても洞窟大トカゲだよね」

「そだね」


 リナの疑問にシエラが即答する。


「でもさ、こんなに外にいるって」

「おかしい」

「ん、おかしい」


 シエラだけでなくナタリーにも不自然に見える光景のようだ。


 その時、ガサッと音がして上からステラが飛び降りてきた。


「お待たせ、見てきたよ」


 少し先の様子を見てきたステラが戻ってきた。


「どうだった?」

「この先百メートル以上こんな感じ。さすがにそれ以上は見てこなかったけど、見渡す限りトカゲだらけ」

「よし、帰ろう」

「「賛成」」


 四人は一斉に元来た方角へ振り返る。


「あの」

「何?」

「この原因の調査とか……」

「調べない」

「そう言うもの「だよ」

「リョータ、絶対に間違えないで欲しいことがあるんだけど」

「はい」

「確かにこれは異常事態だ。だが、この状況、調べるにはかなりの戦力が必要になる。だが、今の私たちではこのトカゲの中を突き進んで原因を調べるのはかなり危険を伴う」


 実際、トカゲを蹴散らして進むだけならば四人の戦力でも可能だろうが、今はリョータを連れている。さすがにリョータを守りながらというのはかなり難しい。また、『調べる』となるとある程度この先のダンジョンやトカゲの性質に詳しい者がいた方がいいが、ここにはいない。


 分かれ道まで戻ってきたところで、リナがシエラに指示を出す。


「じゃ、ギルドへの報告をよろしく。私たちは予定通り、あっちへ行くから」

「まかせて」


 返事と共にシエラの姿が消える。なんかもう、気にしない方がいいだろう。


「じゃ、こっちに行くぞ」


 行かないと言っていた真ん中の道はスルーし、右側の道を進んでいく。


「一応説明しておく」

「はい」

「あの小川はそのままDダンジョンに続いている。Dダンジョンを歩いていると時々あの小川のそばを通る。さすがに狭いから小川を辿った人はいないけど」

「あのトカゲ、ダンジョンの三層あたりによくいるけど、たまにあの川を遡って外に出てくるから注意ね」

「あのトカゲ、私の魔法が効きづらいから嫌い」

「魔法が効きづらいんですか?」

「ナタリーの魔法はちょっと変わってるからね。あのトカゲを相手にするような時にはあまりね……」


 そうだ、魔法のことを聞いてみよう。


「ナタリーさん、質問が」

「何?」

「魔法についてです」

「私が答えられることなら」

「俺も魔法使いたいんですが、どうすればいいですかね?」


 神のあの本――初めてでもよくわかる魔法大全とかいうあれだ――を読めば使えるようになりそうだが、『普通』はどうするか聞いておく必要もあるだろう。


「ん……私の場合、村に一人だけいた占い師から学んだ。人間の場合は魔術師ギルドに入って教育を受けると聞いたことがある」

「魔術師ギルド……」

「ただ、素質がない者は学ぶだけ無駄」

「私たち獣人はだいたいの場合、魔法の素質がないからね。ナタリーは例外中の例外」

「例外?」

「こう見えてナタリーは王宮魔術師にならないかというお誘いもあったくらいの才能よ」

「えへん」


 ちょっと得意げに胸を張るナタリー。何この可愛い生き物。


「でも、断ったのよ」

「え?だって王宮の魔術師ですよね?」


 思わずナタリーに詰め寄ってしまう。


「確かに王宮魔術師は魅力的だけど」

「だけど?」

「私たちは故郷の村のために冒険者になっているから。村を離れた仕事はお断り」

「村……」

「私たちの村はね、魔の森に近い山間(やまあい)にあって、時々魔物に襲われるんだ。リョータの村もそうだったんだろ?」


 そう言えばそう言う設定だった。


「だから戦える者が交代で村を守ってる。私たちは村のためになくてはならない戦力なんだ」

「その結果、私の魔法は威力も精度もすごいんだけど」

「すごいんだけど?」

「単体を狙うというのが苦手」

「なんだよねぇ」

「全部範囲攻撃だからねぇ」

「みんな巻き込んじゃうんですね」

「そう」


 つまり、ナタリーは遠距離からの魔法による先制攻撃が主な役割で、いざ戦闘が始まるとリナとシエラが前面に立って戦うために、ほとんど手を出すことはない。もっとも、ナタリーが本気を出すとだいたいの魔物が初撃で消し飛ぶので素材が回収できないので、常に威力を抑えながらになるのだが。


「リョータ、一つ言っておくことがある」

「はい」

「初心者研修が終わったら、できるだけ早く魔術師ギルドに行くか、誰かに教えてもらうか、どちらでもいいから魔力のコントロールを覚えた方がいい」

「魔力のコントロール?」

「そう」

「コントロール……コントロール……魔法を使えるように、って事ですよね?」

「違う」

「え?」

「リョータは魔力がダダ漏れ」

「ええええ?!」

「魔の森にいる程度なら大丈夫だけど、ダンジョンの深いところまで行くと、その漏れてる魔力に魔物が引き寄せられてくる」

「危険だな」

「危険だね」

「わかりました。できるだけ早く何とかします」

「ん」


 ふーん、魔力がダダ漏れか。あ、もしかして魔力がすごく多くて、とか?


「ちなみに魔力の量は普通の人並みだと思う。これで漏れてるってのはちょっと不思議」

「え?」


 魔力の量は普通だけどダダ漏れって、ダメすぎじゃん俺。


「ここまで垂れ流し状態ってのは、赤ん坊くらい」

「赤ん坊くらい、ですか」

「普通は二、三歳くらいで魔力は漏れなくなる。だからリョータは変」

「たまにそう言う人もいるけどね」


 こっち(・・・)に来てから日が浅いからなのかな?

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