第十八章 遺産問題
ある日、亮太が帰宅して、いつものように家族で食事をしてその後雑談していた。
最初に姉の治子が席を立つと、兄の政男がその後を追うように席を立った。
亮太は、兄弟で内緒話でもするのかな?と感じて席を立ち、二人の様子を窺っていた。
政男が治子に声をかけて、自室に連れて行った。
亮太は、政男の部屋の前で二人の話を聞いていた。
政男は、「おい、亮太だか陽子だか知らないが、両親と養子縁組して俺達の妹になったあいつをどう思う?」と妹の考えを確認した。
治子は、「養子縁組しても、あいつは妹のすみれじゃないわ。他人よ。遺産目当てに決まっているわよ。」と亮太の事をよく思っていない様子でした。
亮太は、自分の話をしている様子でしたので、自分がどう思われているかしばらくドアの外で二人の会話を聞いていた。
政男は、「本当だな。他人のくせに厚かましいな。どんな神経しているのだ?」と呆れていた。
治子は、「どんな神経もあんな神経もないわよ。遺産の為にはなりふり構わずね。仲間の誰だっけ?泉だっけ?まで同居して、このままだと、あの泥棒猫にこの家を乗っ取られるわよ。この家から何とかして追い出せないかしら。兄さん、何とかしてよ。」と何とか亮太達を追い出そうとして兄に相談していた。
亮太は、泉が心配していたように遺産問題に巻き込まれそうだと一抹の不安を感じて、泉の勘の鋭さに女の勘は凄いなと感心していた。
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亮太は、遺産問題が大きくならないように手を打つ必要があると感じて、その部屋に入り、「たしかに体はあなたがたの妹のすみれさんでも私は他人よ。でも遺産目当てじゃない。今まで通り、私の優しいお兄様とお姉様でいて。必要なら遺産放棄するよ。私はお金より、人間関係を大切にしたいので、遺産で人間関係がぎくしゃくするのはいやだ。それだったら遺産放棄するよ。」と主張した。
政男は、「そんな事をしたら、俺達が遺産放棄するように強要したようで悪人になるじゃないか。」と不満そうでした。
亮太は、「それじゃ、お兄様、お姉様、絵を描いて下さい。」と泉から遺産相続に巻き込まれる可能性があると忠告されていたので、その対策は考えていた。
政男は、「遺産と絵とどんな関係があるのだ?」と亮太が何を考えているのか理解不能でした。
亮太は、「絵の値段はあってないようなものです。遺産は数千万か数億か知りませんが、私がお兄様とお姉様の描いた絵を遺産で買い取れば問題ないと思います。だから、今まで通り私の優しいお兄様とお姉様でいて。」と気持ちを伝えた。
治子は、「私は別に優しくないわよ。最初は陽子さんもこの家に慣れないだろうと思って、優しくしただけよ。」と最初だけだと主張した。
亮太が、「いいえ、お姉様の目には優しさがにじみ出ていたわよ。」と治子を持ち上げた。
政男は、「お前、口がうまいな。治子はそんな言葉に惑わされないぞ。しかし本当に遺産はいらないのか?」と亮太を疑っていた。
亮太は、「お兄様もお姉様も、結婚して子どもを作るのでしょう?僕の遺産放棄は、その子達への僕からのプレゼントだよ。僕は元々男だから、男と結婚する気になれない。この気持ちは、お兄様には理解して頂けると思います。お兄様も、男とは結婚する気にならないでしょう?泉と結婚しても子どもはできない。」と説明した。
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その話を部屋の外で聞いていた秋山官房長官が部屋に入ってきた。
「これでわかっただろう。親兄弟もなく、家族の愛に飢えている。だから、お金より愛を選んだんだ。私と養子縁組したのは、遺産目当てではなく家族の愛がほしかったようだ。あとは、お前達の判断に任す。それと、陽子さんと呼べばいいのかな?亮太さんと呼べばいいのかな?一番大事な事を忘れていませんか?」と忠告した。
亮太は、「僕、何か大事な事を忘れていますか?」と考えていた。
秋山官房長官は、「陽子さんは子どもを諦めているようですが、泉さんはどうなのですか?陽子さんと一緒にいれば子どもはできません。例えば、泉さんが結婚して、生まれた子どもを三人で育てる方法もあるのではないですか?陽子さんは元々男性だから、泉さんのご主人と変な関係にならないと思います。一度陽子さんと泉さんとで話し合われればどうですか?今の遺産問題は、その後で考えればどうですか?」と泉の事を考えて参考意見を伝えた。
亮太は、「嫌だ、泉が他の男と結婚するだなんて受け入れられない。俺がおじゃま虫になってしまうかもしれない。」と否定的でした。
秋山官房長官は、「これは二人の問題なので二人に任せます。但し、相談には乗ります。」と告げて退室して、心配していた遺産問題もこれで解決できそうだと安心している様子でした。
亮太は、「僕の考えは変わらない。遺産を渡すべき子どもはできないので、依頼があればいつでも遺産は渡します。ですから、いつまでも私の優しいお兄様とお姉様でいて下さい。」と遺産より人間関係を大切にしたい様子でした。
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亮太も部屋をでると兄弟で話し合っていた。
治子は、「お兄様、今の話をどう思いますか?」と意見を求めた。
政男は、「遺産は放棄しても、すみれが持っていたものは、あいつが受け取るんだろう?すみれも女だったから、宝石や衣類とか結構持っていたよ。それらを売ればいい金になるよ。」と亮太に誤魔化されないように説得していた。
治子は、「それもそうね。私はお父様から他の政治家に娘として紹介された事もあるわ。その為に、私もドレスや宝石やブローチを買ってもらったわ。当然すみれも買ってもらっているはずよ。」と考えていた。
政男は、「お前もすみれも結構たくさん貰っていたよな。女はいいよな、色々と買って貰えて。」と治子を横目でチラッと見た。
治子は、「その代わり、お兄様は長男だから、私より遺産を多く貰えるのでしょう?」と反論した。
政男は、「この話を陽子さんにしようか。」と提案した。
治子は、「ちょっと待って。今の陽子さんの様子からして、それじゃ渡すよ。と渡されるとどうなると思うのよ。今後も、私や陽子さんも娘として他の政治家や財界人の人と会う事もあると思うから、それを今、取り上げると、私達が悪人になってしまうわ。陽子さんがシンデレラで私達が意地悪兄弟だとインターネットで広まればどうするのよ。それこそお父様を怒らせて、私達が親子の縁を切られてこの家を追い出されたら、遺産の全ては陽子さんが相続する事になるのよ。」と軽率な行動は控えるように忠告した。
政男は、「じゃあ、どうするのだ?」と考えていた。
治子は、「とにかく、今は、すみれのものを陽子さんから取り上げるのは都合が悪いわ。しばらく様子を見ましょう。」と一旦諦めた様子でした。
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亮太が退室した後の、この会話を今度は泉が聞いていて亮太に伝えた。
泉が、「しかし、亮太がシンデレラとは驚いたわ。そんな柄じゃないしね。でも女性ホルモンの影響で、ステキな王子さまから求愛されると、亮太の心が揺らぐ日が来るのかしら。その頃には、私もいい歳になっているだろうから結婚は無理でしょね。相手もいない事だし。そうなれば一人残された私は、一生淋しい独身生活を送る事になるのね。」と考えていた。
亮太が、「そんな日は絶対に来ない。俺は男に心揺らがない。それにステキな王子様ではなく、ステキなお姫様と巡り合って既に同居している。」と泉の心配を否定した。
泉が、「女性ホルモンの影響はどうなるかわからないわよ。」と将来に一抹の不安を抱いていた。
亮太は、「万が一そうなっても、俺は泉を離さない。相手の男性も、俺が泉と一緒でも嫉妬しないだろう。一生泉を大切にするよ。」と安心させた。
泉は、「でも私達の関係に不信感を抱かないかしら?おじゃま虫扱いされて、亮太の見てない所で虐められて引き離されるかも。」と心配していた。
亮太は、「大丈夫だ。姉だと紹介するよ。しかし、そんな日は絶対にこない。俺を信用しろ。それに、男と向き合えと言ったのは泉だぜ。」と説得した。
泉は、「そうね。確かに言ったわ。今でも機会があれば、亮太には恋愛もしてもらいたいわ。でないと、本物の女性になれないから。」と納得していた。
その後、遺産相続の話は自然消滅して、泉と亮太は何事もなく暮らしていた。
次回投稿予定日は、4月24日を予定しています。




