第十三章 亮太、ブリッコする
泉は亮太に、「四月から私と同じ会社に来るのね。どこに配属になるかわからないけれども新しいミッションよ。」と亮太に何かをさせようとしている様子でした。
亮太は、「新しいミッション?何すんだよ。」と泉が何を考えているのか不安そうでした。
泉は、「いままでは女子大だったから、男性とはあまり出会わなかったでしょう?これからは職場に男性もいるのよ。女性として男性と向き合える?告白されたらどう対処する?その他にも色々とあるわよ。亮太を女子大に入学させたのは、勿論最初に言ったように女性に慣れる事もあったけれども、女性として男性と向き合えるかなどもあり、一度には無理だと思った事も理由の一つよ。これからは、男性と向き合う練習をしなさいね。」と説明した。
亮太は、「そうか、そんな事も考えなければいけないのか。」と考えていた。
**********
泉は、「あまり男っぽい性格だと亮太の事がばれる可能性があるからブリッコすればどう?男性と向き合う練習にもなるわよ。」と就職してからの亮太の事を考えていた。
亮太は、「そうか。わかった、そうするよ。」と納得した。
泉は、「そうと決まればブリッコに似合う服を買いにいきましょう。」と二人で婦人服売り場に出かけた。
泉がブリッコ服を選ぶと亮太は、「え~、こんなチャラチャラした服を着るのか?」と乗り気ではありませんでしたが、泉に押し切られてそのブリッコ服を購入した。
翌日女子大で亮太から聞いた啓子とあかりは大笑いして、「陽子さんのブリッコ姿見てみたいわ。」と二人がマンションまで押し掛けてきた。
亮太は二人から頼まれて、仕方なくブリッコ服を着ると、「お人形さんみたい。」と大笑いされた。
そこへ泉が帰ってきて、事情を聞いた泉は、「外見だけではダメよ。可愛いしぐさをしないと、すぐに化けの皮が剥がれるわよ。今日から毎日特訓しましょう。啓子さんとあかりさんも手伝って。」とブリッコの特訓が始まった。
泉は、「啓子さんが就職内定している電気メーカーは、私が勤務している会社とも取引があるから、啓子さん、ブリッコの陽子とはどこかで会うかもしれませんね。」と笑っていた。
亮太は、「お前達、俺をバカにしてないか?」と不愉快そうでした。
**********
やがて四月になれば、亮太は泉と同じ会社に就職した。
新人研修後、亮太は泉とは別の部署に配属になり心細そうでした。
亮太が社内でブリッコしていると、特訓の成果もあり男性社員からは、「陽子ちゃん、かわいいね。」と受けはよかったのですが、女子社員からは、「何よ!あの娘、ブリッコしちゃって。泉先輩と仲が良いからと思っていい気になっちゃって!」と一人浮いていた。
そんなある日、亮太が帰ろうとして会社を出ると、「ブリッコの陽子さん。」と声を掛けられた。
亮太は振り返り、「啓子じゃないか。どうしたのだ?俺のブリッコ姿が、そんなに面白いのか?」と不愉快そうでしたが、何故啓子がここにいるのか理解できませんでした。
啓子は、「別にからかっている訳ではないわよ。仕事はどう?陽子さんは泉さんと一緒だからいいけれども、私なんか一人よ。陽子さんの言ったように、受付嬢に抜擢されたけれども、受付で毎日一人よ。淋しいやら退屈やらでまいっちゃうわよ。」と不満そうでした。
**********
そこへ、亮太と同じ部署の平井真一が会社から出てきて啓子に気付いた。
真一は、「陽子さん、大日本電気の美人受付嬢と知り合いなの?」と驚いていた。
亮太は、「ええ、女子大時代の同級生よ。真一さんは啓子の事が気になるのですか?でないと受付嬢の顔なんて覚えていないですよね?」と啓子をどう思っているのか確認した。
真一は、「ああ、男子社員の間で啓子さんは有名だよ。皆、友達になりたいと噂しているよ。紹介してくれよ。」と啓子と友達になれるチャンスだと喜んでいる様子でした。
亮太は、「啓子、こんな人と友達になったら碌な事ないわよ。行きましょう。」と啓子を連れて行った。
真一は、「それはないだろう。」と怒っていたが、亮太と啓子はそんな真一を気にせずに帰った。
**********
真一は亮太に啓子を紹介して貰えなかったので、翌日会社で男性社員たちに噂を広めていた。
亮太が出勤すると男子社員に囲まれて、啓子の事を色々と聞かれた。
「陽子ちゃん、大日本電気の美人受付嬢と同級生で友達だって本当なのか?」と真一から聞いた男性社員達に確認された。
亮太は、「平井さんもお喋りね。啓子はお喋りの男性は嫌いなのよ。」と真一を横目でチラッと見た。
男性社員達は、「真一、お前は嫌われたから諦めろ。」と真一を押し退けていた。
男性社員達は、「で、先程の質問に答えてよ。美人受付嬢と友達なの?」と啓子の事が気になるようで再度確認した。
亮太は、「ええ、学生時代に何度か一緒にスキーに行ったり、旅行に行ったりしたわよ。」とやはり啓子はもてるなと男性社員達と雑談していた。
男性社員達は、「いつも同じメンバーでスキーや旅行に行っていたのですか?」と仲良しグループの事が気になるようでした。
亮太は、「そうね。仲良し四人組で、泉もそのメンバーよ。」と泉も仲良しグループだと説明した。
男性社員達は、「泉って、熊川先輩の事ですか?同じ大学なのですか?」と亮太達と泉の関係を知ろうとしていた。
**********
そこへ泉が来て、「いいえ、私だけ大学は違うのよ。」と話に割り込んだ。
亮太は、「歳もね。」と笑った。
泉は、「もう、陽子ちゃん、二言目にはそれなんだから。」と不愉快そうでした。
男性社員達は、「今週末に美人受付嬢と飲みに行こうよ。陽子ちゃん、美人受付嬢を誘って一緒に飲みに行きませんか?」と啓子と友達になれると期待していた。
亮太は、「啓子は学生時代、スナックで酔いつぶれた事があったから、アルコールには警戒しているわよ。」と断った。
泉は、「そうね。そんな事があったわね。まっすぐに歩けずに、陽子ちゃんに支えられてなんとか帰れたわね。」と当時の事を思い出していた。
**********
女子社員達は男性社員に声をかけても、「陽子ちゃんは?」と自分達の事を見てくれないので不満そうでした。
そんな中、亮太は向かえに座っている女子社員、西垣昌子が机の引き出しを閉める時に、亮太の机に響くように、“ドン”と強く閉めるなど、陰湿ないじめにあっていた。
亮太はそんな事は気にしていなかったので、昌子は頭にきて、いじめは激しさを増した。
机の引き出しを閉める音が次第に大きくなってきたので部長が気付いて、「結城課長、彼女の机が閉まりにくいようですね。今日だけではなく、以前も強く閉めていたと記憶しています。机だけではなく、その机に置いているパソコンなども傷みます。この課では、会社の備品は自分のものではないから壊れてもいいと思っているのかね?もっと細かい所にまで気を使って下さい。」と注意されていた。
結城課長は、「西垣さん、机が閉まりにくいのですか?」と確認すると普通に閉まった。
結城課長は、「普通に閉まるじゃないか。他の社員にも確認しましたが、君はかなり乱暴に閉めているようですね。会社の備品をもっと大切に扱って下さい。今、君は部長に目を付けられたので気を付けて下さい。部長から、今後も続くようでしたら、君に貸与している机やパソコンは壊れてもいいような古いものと交換するようにと指示がありました。」と忠告された。
お局的存在だった昌子は課長から怒られて、更に部長にも目を付けられたと腹の虫が納まらず、亮太をいじめている事がばれないように、会社からの帰り道、他の女子社員達と亮太をいじめる相談をしようとして話を持ちかけた。
次回投稿予定日は、4月5日を予定しています。