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「要城の陥落」 其の弍

 勘助の言葉を受けて、武将(おとこ)は悩んでいた。


 山本勘助を始末すべきでないか、しかし勘助を殺すこ事は主である村上義清の意に反し、隠し通したとて何れ軍師を失った武田の怒りが此処に向くであろう。


 武田と再び戦えば良き事であるが、やはり村上義清の許し無く、勘助の始末は出来きない。


 砥石城代の山田国政に事を告げ、助言を仰ごうと試みるが、国政は出所不明な金の行方と城兵達が乱れぬよう対応に追われ中々話せずにいる。


 別に、勘助の話は本心なのか軍師の策か、もう一度勘助と話がしたいとも考えていた。


 幸隆の思惑通り、武田を負かした勢いと金の流通によって、砥石城内は殺伐としておらず皆が各々の武勇を語り、警戒心が薄れている。


 買収した足軽兵からの報せ、ここに幸隆は城の中へ同行する若者を潜り込ませ、山本勘助を探し目的の武将(おとこ)の接触の為、着実に事を為す。


 真田は忍びにおいても引けを取らぬ存在、その術を持って変装した若者は無事城の内部へと入り込んだ。


 途中危うい場面に出くわすも、幸隆から仕込まれた得意の話術でこれをかわし、勘助の元へ辿り着く。


 客人の扱いとは言え、敵陣の軍師、檻に幽閉された勘助を救出の為、その方法を探り若者は危うい場面に出会したのである。


 若者がまだ遠目に檻を経て、勘助と話している武将(おとこ)がいた。


 「山本殿、其方は命を賭す覚悟で事を話しておるのか?其方の策か、誠の本心か、もう一度話がしたいと思うてここに来た。」


 「有り難き限りに御座います。某は、幾度その命を危険に晒したかわかりませぬ。村上様を初め、武田家を憎む頃、村上様との大戦、幾度と無く命を落とす所を切り抜けて参りました。」


「不思議よ。敵将の首、討ち取るが武功であるが其方を殺すには惜しいと思う所がある。村上御大将の仰る事がどこかわかる気が致す。武田が憎き事に変わり無いが、其方も武田を憎んでおったと。何故に武田に仕え軍師と呼ばれる程になったのか?」


 「ハッ。申し上げましょう。某は武者修行に明け暮れ、戦場では兵の動きまた城を築く所で普請を学び他国を見聞しておりました。武者修行を終えて祖国に戻り、今川家に仕官を志すも御認め下さらず、隣国甲斐に流れつき、武田家に仕官を求めた次第。然れど、これが某の運命の始まりで御座いました。某の兄と父は今川家に仕え、義元公への忠義を尽くす限り。為れど、武田先代の信虎公は今川家に味方して北条家の戦で兄を捨て駒として扱い、義元公は裏切りと見た兄の行動に父を自害へと追い込んだのです。これを知った某は、武田家と今川家を憎み、猪武者の如く怒りで我を捨て突進致すも余りに脆く散り申した。武田の両雄、板垣信方様と甘利虎泰様が某の無力を憂い、怒りだけでは事は為せず、己を高めるよう説き伏せ、武田御大将晴信様が某を戒めて下された。ここに某は武田家に生きる糧を見出したのです!」


 武将(おとこ)は、黙って勘助の話に耳を傾け、


 「武田を憎み、武田に生きる糧を見出したと。其方の不思議な魅力、少しわかった気が致す。私にも兄がいる。戦乱の世の定め。幼き頃、養子に出され兄とは生き別れた。本筋の諏訪家に属する私は、村上家に従い、村上御大将が元で武功をあげ、世に通ずる武人に育てて下された。村上御大将は義に熱き御方。この御方の元に生きる意味を見た、、、。」


 最後に言葉を濁した。


 「貴方様の故郷を攻めた、滋賀の一族の追放に御座いましょう。」


そこに勘助は核心を突く。


 武将(おとこ)の名は矢沢頼綱。


 元は真田家に生まれ、幸隆の弟にあたる。


 幼き日に、敵対する矢沢家と和睦する証として養子に出された。


 矢沢頼綱は、本家の諏訪家に属し、諏訪と同盟を結んでいた村上義清に出会い主従を確立させる。


 頼綱にとって義清は歴戦の猛将にして頼れる存在、自身を一人の武将に育ててくれた恩義があった。


 しかし、村上・諏訪・武田の連合軍と滋野三家(海野・祢津・望月)が争った海野平の戦い。


 頼綱は連合軍として滋野領に攻め入り、直接の戦いは避けられたが、滋野一族に属する生家である真田の追放に加担した。


 これに心を痛めていた。


 核心を突いた勘助は、さらに言葉を続ける。



 







 

 



 

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