「信濃の守護」 其の壱
「信濃の守護」 其の壱
(「山本勘助、武田家に仕える前に義清の所へ参れば、召し抱えたであろう。惜しく思えどが今の御主は我が家臣を調略し切り崩しを謀る事が目的。御主の策略通りにはさせん。」)
義清は鋭い目付きで勘助を見ていた。
そこへまた別の伝令がやって来る。
「申し上げます。御館様様、信濃守護·小笠原長時様の御呼びにございます。」
義清は邪険の表情を浮かべ、
「誠か?あの御方、性懲りもなく儂を呼び出しおって、武田を討てとの催促であろう。」
さらに続ける、
「小笠原長時殿は弓馬に優れておられるが名門の家柄を過剰な程に意識され、肝心の家臣を束ねる器量には欠けた御方。代々の小笠原家が信濃守護を務めてこられた故、守護の座に就けたような者。仕方無しに従っておるが、あの御方では武田に勝てまい。」
義清の発言に、その場にいた家臣達は皆、苦笑の笑みを浮かべるしか出来ないようだ。
「御館様、守護殿を罵られますは、そのあたりになされませ。ここは丁重に参上するが得策。」
清野伊勢守の戒めに素直に応える義清。
猛将と謳われる反面、自身の過ちに気づいた時、それを受け入れる勇気を持っていた事が村上義清の強さなのかもしれない。
「伊勢守の申す通りよ、皆の前での戯れ言、あい済まぬ。守護殿の元へ参ると致す。」
こうして信濃国守護·小笠原長時の呼び出しを受け、義清は長時の小笠原氏館·林城に向かう。