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「晴信の誤算」 其の弐

 「晴信の誤算」 其の弐


 満を持して、戸石城の攻略に乗り出した武田晴信。


 しかし、天然の要害と守る城兵の士気の高さに難航を強いられる。


 軍議を開き、武田重臣逹は攻めの姿勢を改めるべきと進言した。


 一度、村上に大敗した事実、武田両雄の板垣信方と甘利虎泰を失った苦しみが晴信の決断を鈍らせる。


 ここに来て武田勢の勢いが止まり、晴信は時間を費やした。


 間もなく、あの武将(おとこ)が怒濤の勢いで迫って来る事を知らず。


 「申し上げます!」


 晴信の元に別の報せが届く。


 「如何致した!!」


 口調を強めた晴信。


 「清野伊勢守信秀と名乗る者、御目通りを願っておる次第。」


 伝令は端的に伝える。


 「清野伊勢守···、真田弾正忠より聞いた村上の片腕か!あいわかった!ここに通せ!」


 戸石城攻略に苦戦していた晴信にとって、村上方の重臣が味方につく事で打開の一歩になりえる。


 村上義清の片腕・清野信秀が参上した事に晴信の強張る顔が少し緩んだ。


 「御目通り叶い、恐悦至極。真田弾正殿の奨めに従い、この清野伊勢守信秀、武田家に出仕致す所存に御座います。」


 晴信を前に、武田重臣逹がい並ぶ中、恐縮の姿勢を維持し清野信秀は挨拶を済ます。


 「清野伊勢守、よくぞ参られた。早速に問う。村上を見切ったは何故か!?」


 晴信は、清野信秀が村上義清を見切った理由を問うた。


 「はっ!信秀(それがし)の望みは一つ、信濃の混乱を治めを国を統治して頂く事に御座います。信濃守護であった小笠原長時殿は名門ながら国を治め国衆をまとめるには頼りなき御方、主・村上義清は統治に優れるも領土拡大の欲が薄い故、家臣に分け与える褒美がまかなえず北信濃に勢力を維持するのみ。信濃守護として立つ意志無く、北信濃の勢力争いに明け暮れ高梨政頼との戦に励むばかり、武田晴信様の驚異を悟りしからは隣国・越後に赴き助けを乞う始末。故に信秀(それがし)の望み叶う為、主に仕えていては混乱は治まらぬと悩むのみ。先刻の戦にて武田晴信様は小笠原長時殿を退けた、武田家の勢いをもってすれば信濃は治まりましょう。信秀(それがし)の望み叶うには、武田家に出仕するが全てと思うた次第に御座います。」


 清野信秀、武田家に出仕する理由を話す。


 「村上義清は倒さねば為らぬ相手!村上の手の内を知る者が加われば、此れ以上に無き祝着!然れど、上田原の戦では手痛い目に負うた!村上義清、あの武将(おとこ)の突撃に我が武田勢は大いに苦しめられたぞ!」


 出仕する理由を深堀せず、晴信は上田原の大敗を述べた。


 「恐れながら、武田晴信様の信濃進攻の早さには驚くばかり。主は武田勢を相手の戦、死を覚悟して望んでおりました。国衆からは北信濃の雄将と異名を呼ぶ者も。然れど主は時の流れに乗れぬ頑固者、時は常に流れる故に柔な思考も必要に御座います。」


 清野信秀、言葉を返す。


 「北信濃の雄か!大敗した晴信(わし)から見ても其の名は相応しく思える武将(おとこ)!為ればこそ、是が否にも倒さねば為らぬ相手!北信濃へ進む為、その先に構える越後に進む為にもじゃ!」


 「恐れながら、武田晴信様は越後にも歩を進まれるとは。主では思いつかぬ、壮大な御考え。誠、恐縮に御座います。」


 「越後には海があると聞く。甲斐には海が無く、土地が乏しい。実り豊な信濃の地と越後の海の恵みを得て国を豊に致すのだ!」


 晴信はそう話した。


 「話が反れた、本題に戻す!清野伊勢守、村上の内を知る御主の策を聞きたい!戸石城、如何に攻めれば落ちるのだ!?」


 清野伊勢守を率いれた晴信、再び戸石城攻めを開始する。



 ーーー 戸石城攻めの前 


 村上義清が越後の長尾影虎に拝謁した後、高梨政頼の元を訪れた時。


 「斯様な事、上手くいかねば戸石城が落とされ武田の総攻撃を受ける事になるぞ!」


 驚く高梨政頼。


 「無論、事が武田に知られば義清(わし)は全てを失であろう。武田に仕えた真田幸隆の調略の手が家臣に伸びておる。寺尾·金井が武田と通じているのと報せ。然れど、今、あやつらを問いただし罰すればさらに武田に寝返る者が現れよう。真田幸隆、人の心を読む事に長けておるわ。義清(わし)は暫し、真田の調略に目を瞑る事とする。して計らい、清野伊勢守を真田の誘いに乗らせ、動きを待つ。此処で高梨殿に頼みがある!義清(わし)が本拠に戻った後、間もなく武田の戸石城攻めが始まろう。そこで高梨殿は兵をまとめ寺尾·金井の城を攻撃してもらいたい。義清(わし)も兵をまとめ出陣致す。高梨殿が村上方(われら)の城を攻撃した事で我等が戦を構えると武田に知らしめるが狙い。寺尾・金井を討った後、急ぎ戸石城の救援に向かい、武田晴信を追い詰める!」


 義清は己の策を述べた。


 「村上殿の申したき事、あいわかった。然れど、調略の裏をつくなど小細工を嫌い正面からの戦を望む村上殿がよく御決断されたものよ。」


 「調略に家臣の寝返り、致し方無しと思うたまで。然れど、武田相手の戦、義清(わし)が存分に果たす!武田晴信はこの村上義清が討ち取る!」


 「今の村上殿の顔、鬼神の様よ。武田を相手に、北信濃の猛将が再び立ち上がるのだな。村上殿、承知致した!」


 ーーー 話は戻り、


 晴信は、清野信秀の策を受け戸石城攻めに力を入れていた。


 清野信秀は戸石城を陥落させぬよう、しかし攻める部分を与えるなど思慮深く事を進める。


 村上義清、怒濤の攻撃が迫る事を晴信はまだ気づいていない····。

 

 

 


 



 

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