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「義清の決断」 其の壱

 「義清の決断」 其の壱


 天文十七年 九月 甲斐·甲府·躑躅ヶ崎館


 『 疾如風 徐如林 侵掠如火 不動如山 』


 青い布地に白く書かれた旗を(なび)かせ、家臣一堂を前に晴信が叫ぶ。


 「皆方々!これなるは新たな軍旗、孫子四如の旗である!戦を説いた孫子の教えを乞い、我が武田家を示す文言!武田(われ)が動くは風の様に疾く、機を待つは林の様に徐か、侵掠するは火の様に勢い、将たるは山の様に動じぬ!出陣の折、晴信(わし)はこの旗を掲げる!この旗が掲げられた暁、武田(われ)は士気を高め、皆が存分に鼓舞致す事を晴信(わし)は願うておる!小笠原を退けた今、武田(われ)は息を吹き返した!再び信濃に攻め入る!先ずは村上に奪われし佐久!佐久を奪還致す!」


 「オオオオッッーーーーー!!!!」


 新たな軍旗·孫子四如の旗“風林火山”を掲げた武田晴信、武田は息を吹き返し村上義清に奪われた佐久を奪還すべく兵を挙げる。


 

 信濃国·埴科郡·坂城·葛尾城


 「申し上げます!武田が兵を挙げた模様!佐久に向け出陣致した次第!」


 軍議を開いていた義清の元に早馬の報せが届く。


 「何ぃ!!武田は兵を挙げたと!武田晴信、息を吹き返したか!」


 報せを受けた義清、拳を握りしめ立ち上がった。


 「殿、ここは我等も出陣致し武田を迎え討つが宜しきかと!」


 屋代越中守正国の進言。


 「屋代越中守、武田を叩くか!!」


 義清が問う。


 「如何にも。此度こそ武田が息の根を絶つので御座います!」


 応える屋代正国。


 「御待ち下され。我等は高梨政頼との対峙、坂城を離れては高梨勢に背後を取られる恐れ有り。坂城を離れては為りませぬ!」


 坂城に留まるべきと主張する須田満親。


 高梨政頼の挙兵に応じた村上義清、敵対する両者は引けを取らず睨み合っていた。


 武田を迎え討つべく村上が坂城を離れては背後を高梨勢に狙われる。


 武田を負かしたとは言え兵力に十分な余裕がない義清にとって、武田と高梨を同時に戦うは無謀と言えた。


 「須田殿の申す事は最も。然れど、武田を放てば何れ信濃を奪い取るに相違ありませぬ!武田の後ろ楯、駿河の今川家が兵を挙げれば最早、高梨勢との戦などではありますまい!再び信濃へ足を踏み入れぬよう、佐久にて此度こそ武田を根より叩くべきかと。」


 力を入れて発言する屋代正国。


 「屋代、須田、双方の言い分はようわかった!負かしたとは言え、武田は獅子!先刻の戦、守護殿を退けたばかりぞ!勢いあるも確かじゃ!然れど、義清(わし)は佐久を見殺しにできぬ!駿河の今川が腰を上げる前に武田を叩くべきか否か···。」


 坂城に留まるか、武田を迎え討つべきか、髭に指をあて暫し義清は考える。


 「殿、恐れながら···」


 清野伊勢守信秀が言葉を入れた。


 「如何した!?清野伊勢守!」


 問う義清。


 「はっ!恐れながら申し上げます。武田を討つべき時に非ず、村上家も強固たる隣国の後ろ楯を得るべく動く時に御座います!」


 言葉を続ける清野信秀。


 「村上家と敵対する高梨家、その高梨政頼と和睦を結ばれるは如何かと。」


 「清野伊勢守、高梨とは和議を結んでいよう!武田と戦を構える間の和議を!」


 「恐れながら、一時の和議に非ず。縁組を交わし、誠の和睦を結ばれるが宜しきかと。隣国越後において、守護代·長尾家が守護·上杉家を討つ下剋上。その長尾家より頭角を現した若輩者がおられるとの噂。して長尾家の家督争い、高梨家は長尾家と深い仲、高梨政頼はその若輩者を支援しているとの事。故に高梨政頼、余計な兵を出せず村上家との争いは避けるべきと思うておられましょう。この利を生かすが得策に御座います。」


 清野信秀の進言、


 「隣国の後ろ楯···、高梨を誠の味方と致すか!清野伊勢守、中々物申すわ!調略をとらず、縁組を交わせば絆は深まろう。然れどその縁組どう交わす!?」


 言葉を返す義清、


 「村上家と高梨家を仲立ちして頂く御方に御頼み致すが宜しきかと。」


 さらに言葉を続ける清野信秀であった。


 

 


 


 



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