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「出陣の下知」

 「出陣の下知」


 天文十七年(1548年) 一月中頃 信濃国埴科郡葛尾城(しなのこくはにしなぐんかつらおじょう)

 

 城内は慌ただしい空気に包まれていた。


 家臣一同が集結、城主の登場を今かと待ちわびている。

 

 各々(おのおの)が身に甲冑(かっちゅう)(まと)い、それはこれから(いくさ)が起こる事を物語り、皆が真剣な眼差しを浮かべ、誰一人と話をしようとする者はいない。そこに···、

 

 「各々方、待たせた!」


 静まりかえった城内に轟音(ごうおん)の如く響き渡る声、城主·村上義清の登場である。


 義清は堂々たる姿で家臣一同の前に進み、ドンと腰をおろした。


 身に纏われた甲冑は、綺麗と言うには程遠く、所々に錆びか汚れか遠くからの見た目ではわからない、幾つかの傷が見てとれる。


 それは恐らく、この男が駆け抜けてきたこれまでを語っており、同時に戦場から生還した証を示していた。


 義清はまだ一言しか発していないが、堂々たる出で立ちの甲冑姿に安堵したのか家臣達の(こわ)ばった表情が少し緩む。


 「此度(こたび)村上(われら)は武田と一戦交える!武田とは、先代信虎殿と盟約を結んだ中であるが、父君である信虎殿を嫡男晴信は追放させた!さらに晴信は、諏訪に攻め込み同じぐ盟約を結んだ諏訪頼重殿を自害させ、その娘を奪い子を産ませることで諏訪衆を取り込み、諏訪を自らの領地とした悪逆非道なやり口!佐久郡志賀城攻めにおいて、晴信のやり方は目に余りて残虐非道!」 

  

 さらに声をあらげ、家臣の士気を高める義清。


 「儂は武田晴信という男を断じて許せん!『盟約は破棄!』と武田方に書状を送りつけた次第である!晴信は信濃全土を奪うに相違ない!すでに小県に軍を進めたとの報せがあった!ここで村上(われら)は晴信を討ち取り、武田を信濃から追い出す!各々方、武田など怖れるに足らず! 武田を潰すはこの義清ぞ!」


 「おおっつ!!」


 義清は出陣の下知を飛ばした。

 

 家臣達の士気が高まるのが見てとれる、家臣の中には武田を怖れている者がいる事は確か。


 義清が登場する前、末端の兵達も一堂に介しており、敵は武田と皆気づいていた、武田の非道な攻めは噂として皆知っている、故に負ければどうなるかを考え身震いする体を必至に耐えていたのだ。


 「武田を倒せ!」 「この信濃から追い出すんじゃ!」 「武田に目に物を食らわすぞな!」


 あちこちから活性の声が聞こえる、士気は高い、義清の頭には敗北の二文字は見当たらない。


 そして、城内の冷えた空気が暖まり、家臣達の士気が高まる様子を静かに見つめる男がいた。

 

 男は、病の為かそれとも戦場(いくさば)で負傷したのか片方の目が見えないらしく、布らしき物を見えない側に巻いている。


 義清がその男の元に歩みより、問いかけた。


 「勘助、其方(そち)は冷静であるな。此度の戦、武田相手の其方の活躍しかと見せよ!」


 「はっ!有り難き御言葉。恐れながらこの山本勘助、村上義清(おやかた)様の為、存分に活躍、御覧いれまする。」


 義清の問いかけに、静かでしかし臆さず、自信のある声で応えた隻眼の男は、武田家より北信濃に赴いた男、武田軍師・山本勘助であった。


 



 

 

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