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「武田の反撃」 其の壱

 「武田の反撃」 其の壱


 天文十七年(1548年) 六月終盤


 村上義清、高梨政頼の挙兵に応じる為、自身の葛尾城に向け兵を佐久より撤退させた。


 その頃、ー甲斐·甲府·躑躅ヶ崎館ー


 「御館様、岩尾城の開城、村上方に身を寄せる大井行頼に城を渡した事、申し訳御座いませぬ。此度、村上の佐久攻めに武田勢(われら)は、勢いを失うばかり。ここは、村上に兵を引かせるが得策。真田(われ)の忍びを放ち、北信濃にて村上義清に敵対する高梨政頼を動かした次第。真田(われ))の勧めに応じ高梨政頼が挙兵、これを受け村上義清、兵を引いた模様に御座います。」


 甲府に戻った真田幸隆、武田晴信に報せを入れる。


 上田原にて、痛み分けながら代償の大きさに苦しんだ晴信、その後は静寂を保っていた。


 「真田弾正、よう戻った。佐久を村上に奪われた事、致し方無し。然れど、城を渡し村上を引かせたか!流石は真田弾正、転んでもただで起きぬが御主よ!」


 城を渡したなど、以前の晴信為らば許さなかったであろう。


 先刻の大敗と代償が、晴信の心に余裕を与えていた。


 「御館様、佐久での善戦に村上の勢い凄まじく武田の勢い衰える中、某とは違い、内山城にて村上を退けた上原伊賀守殿の御活躍、御見事に御座いました。」


 真田幸隆、内山城で村上義清を退けた上原伊賀守の勇姿を報せる。


 「ハッハ!上原伊賀守(あのもの)は、頑固者、任せた城は守りぬく武将(おとこ)よ。真田弾正、御主は知略に長けた武将(おとこ)、上原伊賀守は守りに長けた武将(おとこ)、人には其れ其れの長けた部分(ところ)があろう。晴信(わし)は其れを見いだす、人の適材適所(いきかた)を任せるが大将としての務め、のう勘助。」


 笑って見せる晴信であったが、やはりまだ憔悴している所が伺えた。


 「左様に御座います。」


 山本勘助が応える。


 (「勘助、御館様はまだ憔悴しておられる御様子。このままでは武田が危ういぞ!」)


 真田幸隆、山本勘助に小声で話掛ける。


 (「真田様、心配は御無用。間もなく時は動く。其れまで御館様には静寂を保って頂くのみ。武田は無用に動いては為りませぬ。」)


 無闇に動かぬ事を告げる、山本勘助。


 (「間もなく時は動く····、勘助!佐久を村上に攻められ、諏訪に信濃守護·小笠原勢が攻め寄せておる····、小笠原、御主····。」)


 真田幸隆と山本勘助が小声で言い合う途中、


 「御館様!村上が兵を引いたと為れば、今こそが好機!兵を挙げ、佐久を取り戻しましょうぞ!」


 武田家譜代家臣·飯冨虎昌(おぶとらまさ)が進言した。


 「御館様、飯冨殿の申す通り!今こそ佐久に向かうが宜しいかと。」


 同じく譜代家臣·室住虎光(むろずみとらみつ)が続く。


 「恐れ乍ら御館様、今、佐久は武田に反旗を起こす者で溢れております。これを抑えたとて、更なる反旗を生むのみ。今は佐久を攻める時に非ず。」


 譜代家臣·小山田信有(おやまだのぶあり)が割って入る。


 「小山田殿、今こそ佐久を攻めず何時(いつ)攻めるのか!?反旗を抑え、武田の力を見せつける良き時ではないか!?」


 小山田信有に室住虎光が言葉を返す。


 「其れでは再び力攻めの戦。先刻の村上相手の敗退、武田勢(われら)が勢い戻すに、反旗を起こす弱き民を討っても卑怯の名が広がるのみ。武田が討つは、村上ではないか!」


 小山田信有の言葉、最もであるが村上に対し今の武田は、戦を仕掛ける余裕が無かった。


 一同が静まり、


 「為らばこのまま、静寂を保てと申すか!」


 少し声を荒げる、室住虎光。


 「恐れ乍ら御館様、佐久は放ち先ず諏訪を取り戻すのは如何かと!?」


 重臣·馬場信房(ばばのぶふさ)、静寂を破り進言。


 武田信虎時代から仕えていた教来石景政(きょうらいしまさかげ)、信虎追放を目論む晴信に従い、晴信の元で武功を挙げ、信虎より滅ぼされた甲斐武田氏譜代の名門·馬場氏の名跡を継ぐ事を許され、五十騎の侍大将になると同時、名を馬場信房と改めていた。


 「諏訪は今、信濃守護小笠原勢が抑えているとの報せ。為らば、武田が小笠原を破る。小笠原勢を退かせ諏訪衆を解放致せば、再び武田の名も他国に響きましょう。」


 進言を続ける、馬場信房。


 「信濃守護を負かすか!良き(さく)じゃ!武田は勢いを無くし、儂も腕が錆びておった!此処等で腕鳴らしの戦を致すべき!御館様、某も諏訪を先ず取り戻すべきかと心得ます。」


 鬼美濃こと重臣·原虎胤(はらとらたね)が賛同した。


 「恐れ乍ら御館様、馬場殿の策、某も良きかと。小笠原勢を退かせば、必ずや小笠原長時は村上義清を頼りましょう。然れど村上義清、高梨政頼との戦で手一杯のはず。先ずは信濃守護·小笠原勢を討つ、武田が息を吹き返すに最もの(あいて)と見受けまする。」


 やり取りを見ていた真田幸隆、言葉を入れる。


 「御館様!馬場様、原様、真田様に某も賛同致します。先ずは武田の息を吹き返す事が先決!それには反旗を起こす民を討つではなく、最もの(あいて)を破るが上作!小笠原勢を討つ!ここが肝心、こちらからは仕掛けず、相手の疲弊を狙う。戦備えの報せを放ち、小笠原勢を警戒させた後、武田は動かず小笠原勢を無用に動かせる。何時までも動かぬ武田に油断が生まれましょう。そこを一気に突く!小笠原勢を退かせ、諏訪衆の心を掴み、諏訪を取り戻す。武田が息を吹き返した報せは、佐久にも響きましょう!佐久を取り戻すは、それからが宜しいかと。」


 軍師·山本勘助が晴信に告げた。


 両手を組み足を広げ目を閉じていた晴信、


 「御館様(あにうえ)、山本勘助の申す事に一利有り。信繁も小笠原勢討伐に賛同致します。御館様(あにうえ)の御決断を!」


 武田信繁、晴信に決断を迫る。


 暫し沈黙の後、晴信の目が見開いた。


 「あい、わかった!武田(われ)は小笠原を破る!先ずは戦備えの支度を致せ!忍びを放ち、小笠原に武田が兵を挙げたと報せるのだ!して、小笠原を動かし武田は動いては為らぬ!勘助、武田は負けぬ戦を致すぞ!」


 「はっ!!!!!!」


 その場にいた者が皆、頭を下げて応える。


 言い放つ晴信の姿、その姿は僅かに自身を取り戻した様に見え、安心した山本勘助、そっと胸を撫で下ろすのであった。



 


 


 

 




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