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「諏訪の反旗」 其の壱

 「諏訪の反旗」 其の壱


 武田軍の撤退、晴信が甲府に帰還を果たした天分十七年(1548年)の三月。


 同じく自身の本拠·葛尾城に帰還した村上義清の元に、信濃守護·小笠原長時より呼び出しの書状が届く。


 「守護殿め、武田を破った祝でも致すか!?」


 書状を手に、不満げな表情で述べる義清。


 「義清様(との)、此度の戦、痛み分けながら村上の強さを他国に知らしめたはず。長時様(しゅごさま)も悩みの種が実らず、さぞ御喜びの事。武田を退けた義清様(との)の御姿、長時様(しゅごさま)に御覧入れるが宜しいかと。」


 側に仕える清野伊勢守、義清を諌めて小笠原長時に謁見する事を勧めた。


 「伊勢守に睨まれては致し方無し。守護殿の元に参ると致す。」


 傷も癒えた頃、義清は小笠原氏の館·林城に向け馬を走らせた。

 


 信濃国筑摩郡、小笠原の館·林城


 身形を整えた義清、大間にて信濃守護·小笠原長時の登場を待つ。


 そこへ、


 「村上殿!祝着至極!天晴れな戦で御座った!武田を退ける様、見事よの~。」


 上機嫌の小笠原長時が姿を現した。


 気のせいか、以前の(やつ)れた姿より少し太って見える。


 それでも体格がいいとまでもいかない、立派な着物が際立ち、着痩せして見えた。


 「葛尾城主、村上義清、小笠原長時様の御呼びに応え、参上致した次第!」


 胡座(あぐら)をかき、握った拳の両腕を床につけて頭下げ、挨拶する義清。


 戦場(いくさば)で見せた鬼の顔とは違う、今は城主の顔である。


 「斯様に(かしこ)まれるな、頭を上げられよ村上殿。然れど目出度い!武田の獅子は牙が折られ、慌てて逃げたも同然じゃ~。ハハハ!」


 笑いを飛ばす長時に、


 「守護殿に御喜び頂き、村上義清、歓喜の念で御座る!これより守護殿には、より一層信濃を守って頂くが我等国衆の願い。何卒、御頼み致す!」


 頭を上げて応える義清であったが、言葉を選ぶも小笠原長時様と呼んでいた所を守護殿と呼ぶ。

 

 上の立場でも合わない性格には、無理に合わせないというのが義清であった。


 「村上殿!国衆の願い聞き入れた!信濃の守護の務め果たそうぞ!先ずは、武田に奪われた諏訪じゃ!諏訪に攻め入り、我が地と致すわ!」


 武田を退けた事実を認めているのだろう。

 

 義清の微妙な言葉使いの変化に動じない懐の大きさが、長時にはあった。


 「守護殿が諏訪に攻め入ると仰せなら、村上義清、武田に攻められた佐久に向かいまする。佐久は、武田に手痛い目にあった地。武田が静寂を保つ今が好機!」


 「村上殿は佐久を取り返すか!信濃守護の戦、長時(わし)が先陣を切るぞ!」


 「守護殿!諏訪に攻め入るは結構!然れど、欲は出されるな!誤っても、武田と一戦交えては為りませぬぞ!力衰えているが、武田は獅子!獅子に噛みつかれては、一溜まりもありますまい!」


 「ハハハ!村上殿、心配無用ぞ!獅子退治、村上殿をおいて他におらぬわ!」


 機嫌良く、豪語する長時。


 「呉々も油断なされるな。守護殿!武田との戦は避けられよ!」


 武田との戦は避けるよう釘を刺し、小笠原長時との謁見を終えた義清。


 「御免。」と告げ、小笠原の館·林城を後にした。


 葛尾城に戻った義清、佐久郡へ攻め入る準備にとり掛かる。


 「武田など、恐れるに足りぬわ!」


 呟く小笠原長時、武田と一戦交える構えであった。



 




 

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