表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/101

「両軍の布陣」 其の弐

 「両軍の布陣」 其の弐


 晴信率いる武田軍八千の軍勢は大門峠から丸子峠·砂原峠を越えて小県郡南部へ侵攻、当初、村上義清の本拠·葛尾城を背後から強襲するつもりであった。


 「御館様、申し上げます。真田(わが)物見の報せによると、村上義清は葛尾城を出陣、佐久郡に向け進発致す模様。武田軍(われら)は村上義清の行く手を遮るが如何と。」


 真田幸隆は晴信に村上勢の動きを報告する。


 「真田の報せか。あい、わかった。然れば武田勢(われら)は上田原の倉弁山に陣を張ると致す!皆にそう伝えよ!」


 「はっ!直ちに。」


 こうして晴信率いる武田軍は上田原に着陣した。



  

 その頃、武田軍侵攻の報せを受けていた村上義清、これに素早く対抗する。


 真田の者が、家中に紛れている事を受け、佐久郡へ侵攻すると噂を流す。


 これは義清が、信頼おける家臣に向けた“佐久郡(武田)に侵攻(迎え撃つ)”という発信(メッセージ)でもあった。


 さらに義清は敵対していた高梨政頼(たかなしまさより)と和議を結び、対抗勢力を拡大。


 義清の元に、小島権兵衛(こじまごんべえ)井上清政(いのうえきよまさ)井上清次(いのうえきよつぐ)須田満親(すだみつちか)島津規久(しまづのりひさ)室賀光正(むろがみつまさ)らが加わり、村上勢およそ五千の軍勢となる。


 先刻の志賀城攻めにおける、生き残った志賀兵達も村上方に加担、村上義清率いる軍勢の士気は大いに高ぶっていた。


 「各々、義清の元に御集まり下さり先ずは礼を申し上げる。誠、有難う御座る!して武田の非道は目に余りて残虐為り!儂は武田晴信という男を断じて許せん!『盟約は破棄!』と武田方に書状を送りつけた次第である!晴信は信濃全土を奪うに相違ない!既に小県に軍を進めたとの報せがあった!ここで村上(わし)は晴信を討ち取り、武田を信濃から追い出す!武田など怖れるに足らず!武田を潰すはこの義清ぞ!」


 「おおっつ!」


 義清は集う各々に、改めて出陣の下知を飛ばす。


 村上義清率いるおよそ五千の軍勢、葛尾城を出陣。


 これに呼応し、砥石城より楽巌寺雅方(がくがんじまさかた)、数百の兵を引き連れ、義清の元に合流する。


 義清は居城の葛尾城とその北東部に位置する砥石城を拠点とし、陣を敷いた。


 さらに岩端(いわばな)[現在の長野県上田市と埴科郡坂城町との境付近にある名勝、岩鼻。幾つかの伝承有り]辺りまで南下し、上田原に戦線を展開させる。




 義清はかつて自身の初となる戦、和合城の戦いを思い出した。


 義清の父·村上顕国(むらかみあきくに)海野棟綱(うんのむねつら)の両者が岩端辺りで争った戦い。


 海野棟綱は分隊(おとり)を残し、本隊で村上顕国の和合城を強襲、城に残った守備兵の数少なく、苦戦を強いられる。


 そこには父の戦をこの目で一目見ようと、馬の世話役として紛れ、和合城に残った義清(武王丸)の姿があった。


 義清(武王丸)の存在に気づく顕国の家臣、和合城はその多くの兵が出払っている為、守備が少ない。


 義清(武王丸)は己の軽率(こうどう)が、父の村上軍を窮地に落とす事を察知する。


 しかしここで、義清(武王丸)は初となる戦を目の当たりにして、驚く程冷静な(じぶん)に気づく。


 よって目の前の命の危機を判断し、迫り来る敵に見事な一太刀を浴びせる。


 敵の大将·海野棟綱を前にしても臆さぬ姿勢、義清(武王丸)は猛将(おとこ)になりつつあった。


 その後、和合城の窮地に駆けつけた顕国の家臣·大日方長利の奮戦、顕国の村上軍到着により撤退を余儀なくされた海野棟綱。


 義清(武王丸)は父から激しく叱責を受け、己の過信と過ちを認め、深く詫び謹慎を経て、元服を果たす。




 「岩端の地、和合城の戦い···若かりし過去(あやまち)ではあるが儂にとって、生涯忘れられぬ初戦よ。して此度、晴信相手の戦、猛将(わし)の戦いを見せてくれる!武田を信濃より追いだすのじゃ!」


 義清は自身の流れる血が燃えたぎるのを感じていた。


 側に仕える、屋代越中守正国(やしろえちゅうのかみまさくに)·雨宮刑部正利(あまみやぎょうぶまさとし)は義清の鼓舞する姿を見て確信する。


 (「此度は勝ち戦よ!」)


 


 晴信が陣を敷いたのが二月一日、様子見が行われ動けずにいる武田軍。


 (おり)しも雪が吹き荒れる時、無理な進軍と寒さに耐える日々が武田勢を苦しめる。


 その約数十日後、村上義清率いる軍勢は姿を現す。


 義清にとって、晴信が様子見を行った数日間は戦に備える貴重な時間となる。


 かくして両軍は布陣、上田原に戦線を展開し、産川(千曲川支流)を挟んで、村上義清と武田晴信は対峙した。

 

 

 




 


 



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ