「勘助の真意」 其の壱
「勘助の真意」 其の壱
自身の過去を振り返っていた義清、気づけば居城·葛尾城に。
清野伊勢守が出迎える。
「御館様、守護殿は如何仰せになられましたか?」
「守護殿は、悩みの種が厄いし御痩せになられておった。飯も食へぬ様で困り果て、儂に力を貸せとの仰せであったわ。」
「悩みの種とは武田と御見受け致します。然れば御館様、守護殿共に出陣なさるか?」
「伊勢守、儂が守護殿と共に戦を構えると申すか?断固、断り致した!あの御方の誇りは御立派よ。是が非でも武田には降らんとの御意志、見上げたもの。高遠合戦の折、小笠原勢の交戦は見事であった。然れど、守護殿は合戦を一人でなさるおつもり。大将の器に非ず、家臣が見えておらん。それでは武田に勝てぬ。」
義清の言葉に、清野伊勢守はそれ以上の問答を止めた。
「伊勢守、山本勘助は何処か?」
「御館様、山本勘助は武田の間者に相違ありませぬ。危なき男···。」
「構わぬ、儂の元へ連れて参れ。他の者は外せ、勘助と話す。」
伊勢守を始め、義清の家臣達は不満を抱きつつ注意を払う。
勘助が単身で、義清の首を狙う恐れがあるからだ。
「山本勘助、御館様の御呼びにござる。」
「ははっ!」
皆が注意を払う中、呼ばれた勘助が義清の前に参上する。
そして、義清と勘助を残し、他の者は退席した。
「恐れながら村上義清様、山本勘助、御呼びにより参上致した次第。」
「勘助、御主が儂に仕える理由は聞いた。此度は武田を討つ策を問う、如何致す!」
義清は勘助の真意を探ろうとしていた。
「恐れながら、武田は今や破竹の勢い。なれば、武田の主力を裂く事が肝要と存じます。」
「武田の主力を削ぎ、戦意を喪失させるか。如何して主力を裂く?」
「はっ、まずは村上義清の軍が先手を仕掛けまする。小数の手勢で仕掛け、敵を誘き寄せた後、直ちに引く。小競り合いを繰り返し、村上勢はあえて負け戦を演じる事が肝心。好機と捉えた敵は勢い増し、主力が討って出ましょう。後は、主力に深追いさせ孤立を謀る。そこを村上義清が突く。」
勘助は己の策を述べた。
「成る程、武田を油断さるか。面白い。勘助、御主の策に乗ろう!」
「有り難き幸せに御座います。」
笑みを見せる勘助に核心を突く義清。
「して勘助、」
正気に戻る勘助。
「御主の真の狙いは儂の首ではないのか?」
「!?、滅相も御座いませぬ。某は武田を憎むが生きる糧。」
「真を申せ!御主は武田晴信が軍師、山本勘助であろう!布で覆った見えぬ左眼、見開いたその右眼!『武田に隻眼の武者有り』との噂、儂も耳にしておるわ。関東管領上杉憲正についた真田幸隆を武田に寝返らせたと聞く。村上の家臣を調略するが狙いか?」
「何の事かわかりませぬ、人違いではありませぬか?」
「しらを切るか?御主の右目、野望に燃えておるぞ!」
「···。」
「勘助、御主が晴信より使わされた間者ならばそれもよし。儂に小細工は無用と晴信に伝えい!」
「御待ちくだされ!····」
「まだ何か申す事あるか?御主はここで果てるには勿体無い男。晴信の元に戻るがよい。」
勘助は義清に訴える。
「流石は村上様。某を武田の軍師と見定めておられましたか···。然らば申し上げます!某の望は一つ。武田を負かす事!」
「!?勘助、御主の申す事がわからぬ。真意を申せ!」
勘助が武田の軍師である事を悟っていた義清。
真意を突いたはずが逆に意表を突かれる。
「恐れながら、某が村上様の元に参ったのは此度の戦、武田に勝って頂く為に御座います!」
勘助は己の危険を顧みず、義清の元に参上した理由を話す。