表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/101

「天敵の存在」 

 「天敵の存在」 


 (「村上義清、その(ほう)真田幸隆(わし)を小県から追い出し、真田郷(わがさと)を奪った男。(かね)てよりの(あいて)であったが、故郷を取り戻す為、真田(わし)村上(おぬし)と本気で戦をかまえる。その為に真田幸隆(わし)武田(かたき)に忠節を誓った。」)


 話は再び遡る。


 天文十五年(1546年) 甲斐国山梨郡甲府躑躅ヶ崎館(かいこくやまなしぐんこうふつつじがさきやかた)


 「根津美濃守政直(ねずみののかみまさなお)真田弾正忠幸隆(さなだだんじょうのちゅうゆきたか)(おもて)を上げよ。」


 武田家付随(たけだけふずい)の家臣がい並ぶ中、甲斐の国主·武田晴信が二人の男に呼び掛けた。


 晴信の呼び掛けにまず、


 「はっ!武田晴信様(おやかたさま)、根津美濃守政直に御座(ござ)います。此度(こたび)根津政直(わがほう)の推挙、御聞き入れ下さり、誠に恐悦至極(きょうえつしごく)。」


 「この(ほう)が、真田弾正に御座います。」

  

 根津政直が応え、


 「武田晴信(おやかたさま)、御目通り叶い、恐悦至極。(それがし)が真田弾正忠幸隆に御座います。」


 真田幸隆も面を上げた。


 「真田弾正、御主の話は、山本勘助·相木市兵衛からも聞いておる。御主を推挙したいとの根津美濃守からの頼みでな、調略に長けると聞く、晴信(わし)の元で存分に励むがよい。」


 甲斐の新たな国主となっていた武田晴信、若きながら頼もしい姿である。


 「有り難き御言葉。真田弾正忠幸隆、武田晴信(おやかたさま)の為、身命(しんめい)()す覚悟に御座います。」


 まだ武田への憎しみがあるのだろう、幸隆は鋭い眼光で晴信を見ていた。


 「武田晴信様(おやかたさま)根津政直(それがし)の頼み、御聞き入れ下さり、誠に有り難き幸せ。真田弾正殿、武田晴信(おやかたさま)三度(みたび)、御礼を述べよ。」


 頼みを聞き入れてもらい満足の根津政直が促す。


 「はっ、根津美濃守殿の御陰で御目通り叶いました。武田晴信(おやかたさま)、其の仕官を御認め下さり、誠に有り難き幸せ。」


 真田幸隆は、三度、礼を述べた。


 「根津美濃守、あまり促すでない。のう真田弾正、」


 笑みの晴信にその場の切り詰めた空気が少し緩むと、山本勘助が会話に加わり、


 「御館様、真田様は調略を得意とさる御方。戦において、その活躍は大いになる事、間違い御座いません。」


 「山本殿の申す通り。御館様、真田殿とは同じ信濃先方衆、これよりの信濃攻略に必要な存在(おかた)に相違ありませぬ。」


 相木市兵衛も同調する。


 「ハハハ!勘助に市兵衛、御主らからも真田弾正の話はよく聞いたな。勘助は真田弾正を武田(みかた)に引き込む策を練り、思案に暮れておったわ。」


 晴信は笑みを浮かべて話し、


 「御恥ずかしき限りに御座います。」

 

 照れながら山本勘助が述べるが、(いま)だに真田幸隆は固い表情のままである。


 「して、真田弾正。」


 笑みから真顔に戻った晴信が、


 「此度、晴信(わし)に仕える褒美として、知行(ちぎょう)に小県郡·真田郷を与える。これからよりの信濃攻略、御主の働き大いに見せよ!」


 国主としての威厳を放つ、


 「!?、な、なんと、お、(おお)せに···、」


 雷鳴に打たれたかの如く、真田幸隆は驚いた。


 「御主の悲願は真田郷(こきょう)の奪還。晴信(わし)もよく存じておる。」


 さらに続け、


 「今や、真田の里も(しか)り、小県は北信濃の村上義清が抑えておる。信濃攻略に際し、村上義清が必ずやこの晴信(わし)の前に立ちはだかるは必然。村上義清は猛将と(うた)われる(あいて)真田弾正(おぬし)とは因縁の間柄と聞く。先の戦(海野平の戦い)で敗れた恨み、武田への憎しみもあろう。然れど、その恨み、その憎しみを捨て武田に仕えよ。恨みで呪い、憎しみで戦うのみは己を弱くさせる。視野(おのれ)が狭まり、周囲(まわり)に目が届かず、憎悪による一時(ひととき)の強さもさらなる困難(あいて)を前にいずれ敗れる。憎しみでは悲願は為せん。悲願を為すは己に負けぬ事。よいか真田弾正!」


 そこには力強く述べる、甲斐の国主·武田晴信の姿があった。


 「はっ!武田晴信様(おやかたさま)···、有り難き幸せ!···」


 感情高まり、短くしか応えられない真田幸隆、晴信に“様”を付けた。


 武田晴信を二度負かす事になる存在(むらかみよしきよ)は、やがてこの真田幸隆(てんてき)調略(さく)により敗北へと追い込まれる。


 しかし、今は、憎しみを捨て武田(かたき)に忠節を誓い、悲願達成の第一歩を踏み出そうとしていた。


 


 

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ